フロー通りに動く歯車たち
この物語はフィクションです。
深夜に眠れないから書いた物です。
ホラーゲームを見ながら書いたから、パク…参考になりました。
男は小さな部屋で目が覚めた。
ご丁寧にベッドの上で寝ていたようだ。
起きた男は不安に心をはぎ取られ、急に小さくなったような気分だろう。
男の体は小さく、小さく震えていた。
どうやらこの男に残された時間は少ないようだ。
薄暗い部屋の壁を伝いながら、男は運がいいのかスイッチに手をかける。
カチリと響くが、運悪くなにも起こらなかった。
暫く震えていると、部屋のどこからか機械じみた声がする。
「za--、やあ、目覚めたようだね。君のことは見えているよ。はっはっは、見渡してみてもカメラは見つからないと思うよ。君には私の言う通り動いてほしいんだ。協力してくれるかい?za…」
声のする方向には古びたラジオが見えた。
小さく赤い光が部屋の中に変化をもたらす。
男はぼんやりとしながらその光を見つめていた。
「za--、思考できないのかな?まあ、私の言う通りにすれば大丈夫だ。先ずはデスクの引き出しからライトを取ろうか。君の視界は公園を駆け回るより狭いかもしれないが、ないよりはマシだろう?さあ、デスクへ向かうんだ。za…」
男はゆっくりとデスクに近づく。
途中地面に膝を突いたりしているが、何とか辿り着いたようだ。
心なしかさっきよりも震えが大きくなっている。
デスクの引き出しからライトを取った男はスイッチを付ける。
ライトの先端から放射される光には、ほんの少しでも希望が含まれているのだろうか。
それはこれから分かるのかもしれない。
「za--、よし、私の声は聞こえているようだな。そして意味も理解できていると。では次はこの部屋を出ようか。大丈夫、急に極寒の地に放り出されたりはしないから、ね。za…」
明かりを頼りに部屋の中を見渡す。
質素なベッドとデスク、そして部屋の隅にはいくつもの電球の箱が山のようになっていた。
男はドアを発見し一直線に向かった。
やはり途中で膝をついたりする。
男の体に何かあったのだろうか。
それとも心が砕けるような経験をしてしまったのだろうか。
どちらにせよ心配だ。
ゆっくりとしたドアの開かれる音が響き、冷えた空気が小さな部屋に流れ込んでくる。
男はその冷気に向かって、ドアにしがみつきながらも歩を進める。
部屋から出ると廊下に出る。
廊下にはさらに別のドアがある。
「za--、まだ私の声は聞こえているだろう。そう、廊下を出てすぐに見えるそのドアを開けるんだ。大丈夫だ、ただのシャワー室さ。汚れきった体を綺麗にしなきゃね。タオルはシャワー室の中にあると思うよ。za…」
男は言われるがままにシャワー室に向かう。
もう膝をつかないで歩けるようになったようだ。
どろどろとした視界に映るシャワー室のドアを開き中に入る。
体は相変わらず震えたままだ。
どうやら体温が低い様だ。
赤いしるしの付いた取っ手をひねると水の音がする。
少しの間流れる水を眺めていたが、やがて温水に変わったようで湯気が出る。
青いしるしの付いた取っ手は触らないようだ。
赤と青の真ん中にある取っ手をひねると…。
男は大声で叫びながらパニックになっていた!
震える男の頭の上からお湯が降り注ぐのだ。
反射で体をひねりお湯から逃れた男は、シャワー室の角で子羊のように怯え震えている。
温かい体にかけるよりも温度の落差があるため、熱湯をかぶったかのような状態なのだろう。
一瞬地獄の業火に触れたように怯える男は、恐る恐るシャワーのお湯に触れていく。
今は体を温めなくては。そのうち男の体の震えは落ち着いていった。
さっぱりとした男は体を拭き上げ、腰にタオルを巻き付けた。
シャワー室を出た男に、また機会音声が話しかける。
「za--落ち着いたようだね。さて、最初の部屋に戻るとしようか。私も大声を上げたくはないんだ。声が届くところに行こう。あ、ライトは忘れずに持ってくるんだよ。za…」
男は律儀にもライトを握りしめ、元いた部屋へ向かっていく。
途中膝をつくこともなく、比較的良い足取りではあった。
だが、男は口を半開きにしたまま今にもよだれを垂らさんばかりに朦朧な表情をしていた。
「za--部屋に帰ってきたようだね。しっかりと君を見ているよ。大丈夫だ、私の言う通りにすれば問題は起きない。さあ、デスクの上にある薬を飲もうか。君にとっては大切なものだ。私はそのために声をかけているのだからね。さあ、さあ、さあ、za…」
男はデスクの上の小さな瓶を取り出し、中に入っている錠剤を口に運ぶ。
微かに震えているのは薬を飲むことに恐怖を感じているからなのだろうか。
ざらざらと音を立てて口の中に入っていく錠剤はのど元を通り過ぎ、やがて男に吸収される。
10分くらいした頃だろうか。
デスクに両手をついてうなだれていた男は、ゆっくりと顔を上げた。
その表情は別人のように晴れやかで、やる気に満ち溢れたものだった。
希望はライトの明かりの中ではなく、目の前の小瓶の中にあったのだ。
「za--今日も大丈夫だったね。よかった、私は安心したよ。ではライトをデスクの引き出しにしまっておきなさい。薬は無くなりそうなら追加しておくんだよ。新しいタオルをシャワー室に置いておこう。次の君のために準備しておかないと、ね。za…」
男は、ラジオから聞こえる機械音声に従って一通りのやるべきことを終わらせ、スーツに着替えた後、玄関から出て行った。
それから数時間すると玄関が開かれ、口を半開きにしたスーツの男が戻ってくるのだろう。
その男の手には電球の箱と薬の入った小瓶があるはずだ。
今日もまた、新品の電球は部屋の隅の山の上に置かれる。
追加した薬は明日の男が服用する。
毎日は変わらず同じように訪れる。
スーツからラフな服装に着替えた男は、寿命が尽きるように、やけに暗い最初の部屋のベッドで眠るのであった。
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変化が起きたのは突然だった。
今日も玄関のドアが開かれ、スーツ姿の男が新品の電球と薬の小瓶を持って現れたのだが、いつものように口を半開きにしてはいなかった。
どうやら帰宅途中に薬を飲んできたらしい。
部屋に入ってきた男は暗い部屋のスイッチに触れた。
カチカチと数回切り替えた後、部屋の椅子を真ん中に置きその上に立つ。
手に持った新品の電球と古い電球を取り換えたようで、部屋が明るくなった。
実にスムーズで手慣れた交換を行い、男は満足げであった。
その日もスーツからラフな服装に着替え、部屋を暗くして眠ったのだった。
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男は小さな部屋で目が覚めた。
ご丁寧にベッドの上で寝ていたようだ。
起きた男は不安に心をはぎ取られ、急に小さくなったような気分だろう。
男の体は小さく、小さく震えていた。
どうやらこの男に残された時間はさほど残されてはいない様だ。
薄暗い部屋の壁を伝いながら、男は運がいいのかスイッチに手をかける。
カチリとスイッチの切り替え音が響き、部屋が明るくなった。
暫く震えていると、部屋のどこからか機械じみた声がする。
「za--、やあ、目覚めたようだね。君のことは見えているよ。いつもより見やすいね。もしかして部屋のライトを修理したのかな?いつもと違う光景に驚きを隠せないよ…。za…」
声のする方向には古びたラジオが見えた。
小さく赤い光が部屋の中に変化をもたらす。
男はぼんやりとしながらその光を見つめていた。
「za--、イレギュラーが起きた。まずい。しかし、まあ、私の言う通りにすれば大丈夫だ。先ずはデスクの引き出しからライトを取ろうか。いや、違うな…ライトはいらないようだ。君の視界は公園を駆け回るときと同等かもしれないが…、なくてもいいのか。ハンドライトは…。う…とにかく…あ…デスクへ向かうんだ…。za…」
男はゆっくりとデスクに近づく。
途中地面に膝を突いたりしているが、何とか辿り着いたようだ。
心なしかさっきよりも震えが大きくなっている。
デスクに着いた男は、何をするでもなくただ突っ立っている。
がたがたと震えるだけの男は時が過ぎるのを待つ以外に出来ることは無かった。
「za--、よし、私の声は聞こえているようだな。そして意味も理解できていると。これは…意味を理解出来ているのだろうか…。では、次はこの部屋を出ようか。大丈夫、急に極寒の地に放り出されたりはしないだろうから、ね。za…」
男は部屋の中を見渡す。
質素なベッドとデスク、そして部屋の隅にはいくつもの電球の箱が山のようになっていた。
デスクの上にはメモ帳とペンがあり、落書きのようなものがいくつも書いてあった。
白地に黒い文字のまだら模様になっている。書かれている文字は「薬を飲め!」だ。
男はドアを発見したが、新しく入った情報に従うことにした。
丁度デスクの上に薬の入った小瓶がある。
男はデスクの上の小さな瓶を取り出し、中に入っている錠剤を口に運ぶ。
微かに震えているのは薬を飲むことに恐怖を感じているからなのだろうか。
ざらざらと音を立てて口の中に入っていく錠剤はのど元を通り過ぎ、やがて男に吸収される。
「za--、まだ私の声は聞こえているだろう…う。そう、廊下を出てすぐに見えるそのドアを開けるんだ。ただのシャワー室さ。汚れきった体を綺麗にしなきゃね。タオルはシャワー室の中にあると思うよ。おかしいな…なんだ、まだデスクの前にいるのか…。なぜだ…。za…」
直後、成人男性が椅子から転げ落ちるような音がラジオから聞こえた。
その音に驚いたのか男は体を一震わせしたが、その後は穏やかだった。
10分くらいした頃だろうか。
デスクに両手をついてうなだれていた男は、ゆっくりと顔を上げた。
その表情は別人のように晴れやかで、やる気に満ち溢れたものだった。
希望はライトの明かりの中ではなく、目の前の小瓶の中にあったのだ。
いや、今日は希望の話はしていなかった。
う…いつもと違うことが…起きている。
男は再度メモ帳に視線を落とす。
メモ帳の文字は一つではないようだった。
「奴隷」「変化なし」「同じ事」「平和=安全」「歯車」
その中にあるどれかに怒りを感じたのか、男は乱暴にデスクを叩いた。
男は薬の小瓶を握りしめ、スーツを持ったまま部屋を出て、玄関から出て行ってしまった。
誰もいない部屋のラジオが困惑した機会音声を発する。
「za--部屋に…帰ってきてないな。…イレギュラーだ。大丈夫。薬は追加で飲んだんだ。しっかりと君を見ているよ。私の言う通りにすれば問題は起きなかった。さあ、どうしようか。私は何のために声をかけているのだろうか。君がいなければ、仕事を完遂できない。う…そろそろ時間だza…」
部屋に男がいない。仕事が進まない。
私も部屋の変化を伝えることが出来ない。
文字を書く意味はあるのだろうか。
「歯車」とはよく言ったものだ。
部屋の男という歯車がいなくなってしまうと、他の所でこうした影響が出てくるのだろう。
ラジオの男も平常心を保てず、安定剤を飲み始めた。
私ももう限界だ…う…薬を。
「za--今日も大丈夫だったね。そう言わなければいけない、私は心配だよ。ではライトをデスクの引き出しにしまておきなさい。いや、しまったままだったな。薬は無くなりそうなら追加しておくんだよ。新しいタオルをシャワー室に置いておこう。次の君のために準備しておかないと。次の君は、いったい誰になるんだ。私は…私が…。za…」
通常のフローにイレギュラーが起こるとコストがかかる。
コストがかかると他がフォローしなければいけない。
フォローをしようとすると役割に穴が空く。
穴が空くとそのフォローは誰が行うのか。
私か?私は伝えるのが仕事だ。ここから動く気はないぞ。
私の上のものはもう連絡が取れない状態だ。
私の部屋のドアが叩かれる。
なんだ?こんなイレギュラーは初めてだ。
フローはどうなっている。
イレギュラー対応シートの記載は…。
訪問者についてのフローが無いぞ。
私はどうすればいいんだ。
怖い、何が起こるのかわからない。
早く定時になってくれ、それだけが今日の仕事を終わらせられる唯一の方法なのだ。
しかし、部屋の男が帰ってこなければ仕事も終わらない。
終われない。
時間が過ぎるとどうなるのだろうか。
ドアを叩く音が私の恐怖心を煽っている。
もうやめてくれ!俺が何をしたんだ!
ただ、今日も同じように部屋の男とラジオの声を伝えるだけでいいのに!
上は何をしている!なぜ指示を出さない!
俺は!ドアが!破られ…!お前は!部屋に帰れ!今すぐに帰るんだ!やり直そう!
残業にはなるが、大丈夫だ!シャワー室に向かうところからでいい!
今日を無事に…く…うわ!
………………
………
…
ああ、こうするのか。
良し、わかった。
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最初の部屋に人がいる。
この男は見たことがない。
電話で話しているようだが…。
手元のイレギュラーフローには載っているだろうか。
ああ、載っているな。これだ。
修正科。ああ、これは伝達しなくてもいいのか。
聞こえてくる話し声だけ記載しよう。
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入れ替えだ。
人員は増やさない。
メモ帳は撤去しておこう。
恐らくイレギュラーの原因はこれだ。
電球を外しておけ。
デスクの上に薬がないな。
追加しておけ。
大丈夫。これで元通り機能する。
部屋の男は補充する。
うむ、伝達係はどうだ。
変更はないのか。わかった。
ラジオは変更なしだ。まだ使える。
もう一度言う、追加の人員は必要ない。
コストは少し増えたかもしれないが、効率は落とさない。
このままだ。このままフローに従っていれば大丈夫だ。
何も変化はない。
このイレギュラーもフローに載っている。
これからもこのままだ。
では今日の仕事は終了する。
私は…部屋に帰ることにする。
ああ、薬と電球を買って帰らなければ…。
昨日も今日も変わらない。
明日も明後日も変わらない。
そうして生きていくコミュニティーはどうですか?
人間は元々イレギュラーを起こす生き物です。
でなければ進化はしないわけで、種の存続と進化による適応は遺伝子レベルでの指令なのでしょう。
それを行えないもどかしさを「ストレス」としてカウントし、ストレスの発散方法さえフロー化していく。
っていう難しいことはいいから腹減った。
コンビニで弁当買ってきます。いつものように、ね。