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 議会を退出し、王の執務室へ戻る途上、フォルティナは少しふらつく。


 とっさに宰相は王の腕をつかんで支える。そこで彼はひどく驚く。彼女の腕は、こんなに細かっただろうか。元々華奢ではあるが、年頃の女性らしく柔らかさを持っていたはずだ。なのに、今掴んでいる腕は、折れそうな程細い。


「陛下、食事はきちんと取られていますか?」

 フォルティナは掴まれた腕を見下ろし、溜息をつく。

「執務室で話しましょう、クルムト」


 王の執務室には、仮眠用のベッドが置かれ、棚には様々な資料が詰め込まれている。重厚感のある執務机の上だけはきれいに整頓されていた。


 クルムトはフォルティナを支えたまま、執務机の前に置かれたソファーへ誘導する。


 気が抜けたのか、フォルティナはぐったりとソファーに腰を下ろす。


 よく見れば顔色も悪い。

「陛下、何を隠していらっしゃるのですか」

 フォルティナは俯いたままでいたが、クルムトも黙ったまま、言葉を待っているようだ。


 溜息を一つついて、口を開く。

「・・・・・・あれから、食事が喉を通らないの」

「下げられた皿はきちんと減っていたはずですが」

「だって、心配をかけるでしょう? だから、頑張って食べたの。でも、すぐに吐いてしまって・・・・・・」


 臣下の前で堂々とふるまう王としての顔は今は無い。クルムトの顔はこれ以上無いほど険しい。そして、思い知らされる。

 ああ、この(ひと)は、兄を殺して平気でいられるほど、強くなかったのだ。


「あの時、なぜ一人で決めてしまったのですか。私は、頼りになりませんでしたか」

「それは違う。あれは、私が自分の意志で決めなければならない事だったの。貴方に頼ったら、後悔すると思ったから」

 たまらず、クルムトはフォルティナを腕の中に閉じ込める。宰相が王にすることでないのは、わかっていても、耐えられなかった。


「それでも、相談くらい、して欲しかった。私は貴女の婚約者だったのですよ」

 フォルティナは大人しくクルムトの腕の中に閉じ込められたまま、瞳を閉じる。

「失敗した時、巻き込みたくなかった・・・・・・」


 それは、彼女の優しさなのか、傲慢さなのか。


 婚約者だったころのように、クルムトは優しい手つきでフォルティナの髪を梳く。その行為に、フォルティナは表情を緩め、ぽつりと呟いた。

「私の幸せは、たぶん貴方の隣にあったのだと、思う」


 疲れていたのか、そのままフォルティナは眠りに落ちた。


 弛緩した体を抱き上げ、執務室の仮眠用ベッドへ運ぶ。


「私では、貴女を癒せないのでしょうか・・・・・・」

 クルムトは寝顔を眺めながらつぶやく。


 いつからだろう。彼女の心からの笑顔を見なくなったのは。


 いつからだろう。体の線を出さないドレスを身に着けるようになったのは。


 いつから、彼女は執務室に食事を運ばせるようになった。


 思い返せば、気づける機会はいくらでもあったのではないのか。


 そう思うと、クルムトは眉間のしわを深くする。ひどい後悔に苛まれる。フォルティナが婚約破棄を言い出した時、何が何でも受け入れるべきではなかったのかもしれない。対等の立場で、彼女を支えるべきだった。

 そっと、細くなってしまった手を握る。


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