少年とおじさん?
人生最後の日を迎える朝の転向は、晴れのうち鏃と槍が降る模様。ただし、当たることもない模様。
担がれれ、揺さぶられる身体。先ほどおぶられていた時よりも揺れが激しいのは、それだけ急いでいることなのだろう。というよりも、何故連れていかれているのかも疑問に思えた。明日には、きっと殺されている身だったのだろう。
「ねぇ、おじさん。僕を置いていけば、あんな人達なんてすぐに逃げられると思うけど、どうして?」
人間なら誰だって助かるなら自分が助かる道を選ぶ。それが普通。それが人間。
でも、僕はまた知ってしまった。草の青臭さにどこまでも続く空、眩しく明るく照らす太陽。生きていることなんてとっくに諦めていたのに生きられる時間を延ばされてしまったのだ。暗く薄汚れた世界で生き続けたいと思わなかったのに、やっぱり世界は美しかったとまた思い出してしまった。
だから、また思い出してしまった。死のうとするのは怖いってことを・・・
僕は不思議と首を捻り、シャックスと目を合わせ、彼の襟をぎゅっと握りしめた。
「嘘を言うのが下手くそな坊主だな。目と口が言っていることが全然違うじゃねぇか。いや、坊主なら嘘が下手が普通か。『どうして?』かって言われたら、お前には生きる価値があると思うから連れていく、それだけさ。」
シャックスは、草原を走り続けながら少年の目を真っすぐ見つめ、そう語った。嘘を吐いているようには思えなかった。
走り続けると見えてくるのは、人の高さを優に越える石垣が見えてきた。ただし、門らしきものは全く見えないが、構わず石垣に向かって走り続けている。
「ねぇ、おじさん。このままだとぶつかって追いつかれちゃうよ?」
「舌噛まねえように口閉じてろよ?お前が生きてきた人生の中での一番の驚きを見せてやるよ。」
そう言われたので少年は口を固く結んだ。
シャックスが石垣の手前で走るスピードを落とし、膝をグンと曲げると人間の跳躍力とは思えないほど、『跳ぶ』というより『飛ぶ』に近い程、空へ大きく跳び上がった。
地も石垣も全て下に見えた。太陽でさえも手が届くんじゃないか錯覚するほどに、鳥に運ばれているかの様に、そう思えた。
「見えてるんだったら誰か寄越してあいつら追い払ってくれ!」
そうシャックスが叫びながら、石垣の上に下りると今までそこにはいなかった存在がそこにいた。人の姿をしているが、首が三つもある変わった人のような存在だった。