事の顛末
~一週間後・保健室~
「結局あの事件は、誰かが糸を引いて、それが複雑に絡み合いあい「五大派閥」全部を戦力低下にしようとした。豪やクラブ『夜露死苦』兎に角、貴族派も教会派も御影が見た仮面の男もフィクサーの思い通りに動いていたにすぎない。勿論私達自身もな」
一連の事件から一週間が経過し、アポを取り、舞先生と事件以来話し合うことができた。
最も御影自身も忙しかったのだが。
コーヒーを飲んで、ベッドに座っている。完全にリラックスしている状態だ。
舞先生はデスクに腰掛け、コーヒー飲みながら、時折煙草を吹かしている。
お互いがここ一週間気を張っていて、久しぶりの安らげる時間。
御影は一時間前にここにきて、舞先生と一緒に今回の事件の全容と考察を行っている。
御影は当事者で見た出来事や関わったことが中心で、舞先生は、五代派閥会議で得た情報と第三者の視点で付け加えたり、正したり、自分の考えを言ったりしている。今はまとめ部分だ。
「それは、俺も分かっています。動かされていたのは癪ですけど、終わって全体を見ればその意図は分かりましたから。最低限守れたので今回良しとしています。いずれ借りは必ず返しますから。今回のクラブ派の暴発に、貴族派と教会派の行動、全部成功していたと思うとぞっとしますけど、今回の件で随分『かし』ができたんじゃないんですか」
御影が水を向けると、舞先生は意味深な笑みで。
「さてな」
はぐらかされた。
「閃光」
目映いばかり煌々と光り、玲奈達は目を瞑る。そして、目を開けた時には輝義の姿はなかった。
輝義に戦闘の意志はない。手負いの状態で舞先生と対決するのは自殺行為だ。
だから、この目くらましにかけた。
いきなりの光で、一瞬でも目を逸らしてくれたら、逃走できる自信はあった。
結果的に見れば輝義の逃走は成功した。
輝義は勿論、後から聞かされた御影ですら分かる。故意に見逃したのだ。
前回同様今回の件で一番得をしたのは舞先生の派閥だ。
貴族派と教会派は今回の件で『責任』をとらされ、資金と戦力が低下し、クラブ派は内部に亀裂が入り分裂の火種が残る結果となり、学園長派は前回の件からまだ立ち直っていない。
あまり勝ちすぎると、妬まれ結託される可能性がある。
窮鼠は猫を噛む様に、追い詰めすぎると、なにをするか分からない。
だから、ある程度妥協が必要で、今回は教会派の『かし』目的で輝義を生かした。
「そう言えば御影の方こそ、今回の件で随分『各方面に協力者』ができたんじゃないのか。私は悲しいぞ、パートナーなのに信用されてないみたいだ」
あからさまに悲しげな表情をつくり、口の端がにやけているが目元を拭う。
勿論ジョークだと御影は分かっている。舞先生に頼んだことは、風花達を守ってもらうことと、フェリスの様子を見てもらうことだ。
今回の情報は、舞先生からもたらされ、色々と条件をつけられたが、そう言う約束だった。
その約束通り、風花達を助け、フェリスの元に向かってくれた。
しかし・・・・・・と御影は確信に近い形で思う。
フェリスの元に向かうのを故意に遅らせたんじゃないかと。
人には人の思惑がある。
御影はフェリスや玲奈を助けたように、舞先生も思惑があったのではないかと。
そして、御影はなぜそうしたのか分かっている。
今後もこうならないよう独自の『情報網』が必要だった。
と同時に、こんな考え方しかできない自分を、救おうとしてくれている舞先生に対し申し訳なく思っている。
「どうですかね。フェリスの暴走でどっこいどっこいじゃないですか」
あれから、フェリスがわめき散らし、結局、部屋は玲奈が用意することとなり、賠償金は玲奈と雫からフェリスがたんまりともらっていた。
聞くと、御影の分が大半を占めていたが、契約者権限で九割九部フェリスがもらっていた。
思い出すだけで腹が立つ。
御影は少し眉間に皺をたて、舞先生は苦笑いで煙草を吹かす。
「やはり・・・・・・」
「それ以上は駄目ですよ」
「全く、甘すぎるぞ御影」
「分かってますよ」
コーヒーを飲み干し、御影は席を立つ。
「行くのか」
「もうそろそろクラブの時間ですからね。今日新入部員の紹介がありますから、後で来てくださいね」
ひらひらと手を振り、御影は保健室を後にする。
「ほんとに、馬鹿だぞ御影は」
出て行った御影を何ともいえない表情で見送り、煙草を灰皿に押しつける。
「私が・・・・・・必ず救ってみせるぞ」