輝義という人間
俺は愛がほしかった。
『ダンジョン教』の拠点は日本に数多くあり、孤児を引き取っては戦力として鍛えてきた。
輝義もその中の一人で、若干十歳にして、暗部への所属が決まった。
輝義の親はお世辞にも良い親とは言えなかった。
輝義が生まれる前は近所でも評判のおしどり夫婦だったらしい。
父親と母親は冒険者で、父が前衛、母がシーフで遊撃役。
六人パーティーでそこそこ有名、主なダンジョンレベル帯は六十台。
歯車が狂ったのは輝義が生まれてからわずか四年、誕生日の日だった。
母親が宝箱の解除に失敗して亡くなった。
誕生日に何か良い物を買ってあげようと、いつもよりランクの高い宝箱が出現したので、父親や仲間の制止を振り切って挑戦し、失敗したらしい。
それから父親が豹変した。
パーティーは解散し、酒に溺れご飯もない。
最初は父親に催促したが、暴力を振るわれ、自分で何とかするしかなかった。
輝義には幸か不幸かシーフの才能があった。
いかにして相手に分からないよう盗むか、奇術の原点はそこだ。
何とか食いつなぎ、この生活になれてきた頃、父親が輝義のことを教会に売った。
金にしてたったの三十万。家にもうお金がなく、酒欲しさに売ったらしい。
それから様々な汚れ仕事を請け負ってきた。
ここに来たのは、桜花国の重要人物のご子息ご息女を操るために、学園に派遣された女司祭からご指名がかかり輝義がここに来た。
ここで成功すれば、暗部の中でも、司祭付きになり何ランクも出世する。
司祭は、今年の四月に赴任し、日本国内の教会で第三席の権力者の娘。
任期は三年で、成功すればナンバー3の後釜に座るのではないかと噂されている
輝義は希代の奇術師、暗部のエース候補と噂されているがまだまだ下っ端だ。
だが野心は人一倍あり、そして女好きだった。
同年代で色んな女性がみれる。
意気揚々と学園に入ったが、潜入した当日に帰りたくなった。
御影友道。正直言って、裏仕事で色々見てきた輝義でも身の毛がよだった。
俺よりも何十倍もの人を殺している血臭気。手も足もでないほどの実力者。
できれば関わりたくなかった。
しかしこの時予感もしていた。
近いうち敵対すると。
司祭の依頼は絶対だ。断れば死を意味する。だから、直接敵対しないよう立ち回っていたが。
結果はこのざまだ。
誰がどこから投げたか輝義は知る由もなかった。
気付いたら槍が地面に刺さっていて、致命傷を避けたのは偶然だった。
しかし避けきれず右肩から先を失った。
輝義は確信している。御影がやったのだと。
仮面の男は、今回の件の協力者で、連太郎に洗脳魔法をかけたのはその男だ。
司祭から紹介され、仮面で素顔を隠しているこの男を最初から胡散臭く思っていた。
しかし、この男から御影と同じ様な実力を感じた。
この男が御影の足止めをしてくれれば、任務は成功する。
事実、男が提案した計画は完璧に近く、口を挟む余地はなかった。
九割方成功していて、輝義自身欲を出してしまった。
本来、さくっと二人で玲奈とフェリスを殺して任務を完了する予定だったが、玲奈と輝義の直接対決に変更した。
今のまま報告すれば、仮面の男しか活躍していなく、輝義自身も手柄が欲しかった。
思えばこれが良くなかったのだろうか。
欲を出しすぎると身を滅ぼす。それは裏家業でたくさん見てきた末路なのに。
玲奈の実力は本物だ。戦闘科一年主席にして、藤島流の免許皆伝者。正面から当たれば苦戦していたのであろう。
玲奈は性格と同じで、戦闘面でも素直すぎる。裏をかかれると弱い。
それを利用して、ダンジョンの時同様、罠にはめ勝利はすぐ手元まできていた。
しかしするりと勝利の女神は消えた。
つくづく女神って奴は気まぐれで愛してくれないな。
「年貢の納め時だぞ、輝義」
「あらら、お早いご到着で」
輝義は右肩元を押さえ、やってきた舞先生達と対峙する。
舞先生は玲奈とフェリスを見てわずかに顔色を変える。
どうやらやっこさんも『ぎりぎり』間に合わないよう調整してきたらしい。
さすがは、トップだと輝義は感嘆する。司祭顔負けの腹黒さだ。
「そこの綺麗な舞姉さん。ちょっと見逃してはくれませんか」
内心焦っていたが、輝義は顔はへらへらと笑い、減らず口をたたく。
「嬉しすぎて、尋問してしまいそうだぞ」
舞先生は顔は皮肉げに笑っているが、目は笑っておらず、玲奈とは違い、油断も隙もない。
動けばやられる。
確率は二分の一・・・・・・いやもっと低いか。
おもしろい、今度は微笑んでくれよ・・・・・・女神さんよ。