真の目的
本当にタッチの差だった。
最初から豪が本気を出していたら、なにも気かずにそのまま踏み抜いていたとしたら。
「もう満足したか」
大の字になって倒れている豪に御影は声をかける。
その言葉を聞いて、豪は気づかされてしまった。
あーくそっ、そういうことか。
雫に勝った時点で豪は満足してしまったのだ。
怒りや殺気も消え、充足感に満たされていた。
「殺せ」
もうやる事はやった。生きていても残るは破滅の道だ。
ならここで全てを終わりにしたかった。
「まだだ。今回の黒幕は誰だ、協力者の名前は」
「はっ、全て終わったつもりか、俺は脇役にすぎん。真の狙いは・・・・・・」
突然豪は目を見開き絶命する・・・・・・禁止ワードをいったからだ。
魔法契約書の効力で、禁止ワードを言ったら、死ぬようなっていた。
豪は言っても言わなくてもどっちでも良かった。
只、言いように使われるのは癪だった。
あばよ・・・・・・。
「なにがどうなっているの」
フェリスが仏頂面でラビを伴って、玲奈に問いかける。
「すいませんが私も分かりません。だけど御影さんなら知っているんじゃないですか」
玲奈は正直に話しているが、フェリスはむっとする。
「そんなはずないの。あなたは五代派閥の幹部、知らないはずがないの」
訝しげにフェリスは起きない連太郎を介抱している玲奈を冷たく見下ろす。
「今回、私たちの派閥は関与してません。情けない話ですが、私達の派閥には本格的な情報部がないので本当に分からないのです。学園長派といっても、五代派閥の中では一番弱小で、生徒会長の天音さんがいるから拮抗を保ってるのです」
誰でも隔てなく話し、腹芸が得意ではなく、正直に答えてしまう。
それは美徳でもあり、欠点でもある。
教会派よりも聖者らしい。
しかし、それでは上には立てない。
能力的でも人格的にも、生徒会長を期待され、天音が卒業した後、学園長派のナンバー2になるのでわと期待されている。
だから、欠点を直すべく天音が色々教えてはいるが、芳しくない。
それは前回の失態からも容易に想像できる。
しかし、あの事で、さらに人気が高まった。
それを面白くない人物がいる。
そして、御影の強さ。
癒杉舞とのダンジョン内での戦闘、ボブじいさんとの戦い、練習場の魔改造化、今日までの出来事
。
玲奈自体は知らなかったが、生徒会長の天音を初め五代派閥の上層部なら知っていた。
それは御影も把握している。
ここは、学園のテリトリーであり、どこになにがあるか知らない部分が多い。
どんなに隠蔽しても、必ずばれるものだと思っている。一番核の部分以外は、ばれてもいいようにやっていた。
今回の一連の出来事は教会派と貴族派とが仕掛け、それに豪の協力者と黒幕が乗っかった形。
教会派は暗部をだし、貴族派は資金を出して・・・・・・を雇い、・・・・・・派は積極的に関わらず傍観に近い形で、『どっちに転んでも構わない』といったスタンス。
クラブ派は、一部分は掴んでいたが、本質は知らなかった。そして、学園長派は蚊帳の外。
そう、真の目的は玲奈とフェリスの殺害にあった。
玲奈が死ねば、学園長派は間違いなく衰退し、下手をすれば五代派閥から脱落する。
フェリスが死ねば、御影がフリーになる。後は取り合いだ。
雫や風花の誘拐計画はついでにしか過ぎず、その一連は御影を足止めするため。
御影の時間をなくすことで判断力を失わせ、本来の狙いを分からなくする。
連太郎を撃退したことで、油断させ雫の方へと行かせる。
これが一番の作戦の肝だった。
この時点で作戦は九割方成功している。
後は殺るだけだ。
玲奈は悪寒がして、連太郎を下ろし。
「フェリスさん、ラビさん私の後ろに来てください」
置いた槍を手にし震える体を無視して、険しい顔で前を見据えた。