倉庫での戦い01
「ちっ! どいつもこいつも」
豪はいらだっていた。
作戦は完璧・・・・・・のはずだった。
しかし、蓋を開けてみれば何一つ上手くいっていない。
御影達には逃げられ、副部長からの連絡もなく、協力者はまだきていない。
あの野郎。
元はといえば○○の作戦にのっかった形だった。
手短にあるゴミ箱を蹴る。
三下の奴裏切りやがったな。
豪にとって三下は都合のいい駒で、クラブに引き込んだのもこの計画があってのことだ。
昔は良かった。ただ暴れるだけで、なにも考えなくても良く、それだけで人がついてきた。
三下もそのときの舎弟で金魚の糞みたいについてきた。
使い勝手が良かったので小間使いのように下につかせた。
俺達が・・・・・・いや、俺は地元の界隈じゃ最強だった。
この学園のことを耳にして、腕試しで門を叩いた。
すぐに最強になれると思っていた。
所がどうだ、派閥で雁字搦め、足の引っ張り合い、闇討ち、ダンジョン討ち、模擬戦でさえ命の危機があった。
そして俺は軍門に下った・・・・・・くすぶる野心を残して。
そして俺は徐々に臣下を増やし、三年目になって、ようやくクラブ派傘下の上位派閥の幹部になり、戦闘科三年Sクラス、序列二十席に入ったが不満はたまる一方だ。
五代派閥かなんだか知らないが、クソ一年が俺の上に入りやがって、実力は俺の下のくせによぉ。
いらいらが募る。
そんなとき頭に閃きが舞い降りた。
俺がぶっ潰せばいいんだ。
それから徐々に根回しをして今に至る。
失敗=破滅に結びつく。失敗したら俺がこの学園を去ることになる。
それは協力者も同じのはずだと思っていた。
音もなく誰かが接近してきた。
「・・・・・・」
「あっ!おせぇーよ。手筈通り、やったんだろうな」
「・・・・・・」
「そりゃあ、見物だな」
豪は勝利を確信したように豪快に笑う。
その眼は欲に溺れるように薄汚れて濁っていた。
「とりあえず、ここで休憩だ」
数ある倉庫の中から比較的大きなところの中に入り、雫を下ろす。
「ありがとうございます」
そう口にする雫の頬は若干赤かった。
お姫様抱っこでここまで運ばれてきたのだ、当然の反応だ。
蛍光灯はオフの状態で、窓から差し込む月明かりのみで、隣の雫の顔がようやく見えるほどの暗闇だ。
「礼はいい。まだ危機を脱してないからな」
「そうですね、あんなに大勢がきたら、さしもの御影さんも厳しいですものね」
「いや、あいつ等だけなら五分とかからず倒していたさ」
雫は頬に手を当て分からないといった表情だ。
雫が分からないのも無理はないと御影は思う。遙か後方、倉庫街エリアの隣、時計台の上からこちらを狙っていた。
だから、御影は逃走を選択したのだ。気配からして相当の強者だと。
「助けてもらえて嬉しく思いますが、風チャンの所にいかないといけません。お姉ちゃんである私が風チャンを助けないと。御影さんも心配ですよね?」
「ああ心配だ」
心配か心配じゃないかで言われれば心配に決まっている。しかし、それ以上に。
「だが、さっきも言ったが俺はあいつらを信じている。それにあっちは舞先生がいる。だから俺らは俺らのなすべきことをやる」
「一体貴方は」
雫は驚きで目を開く。一体今回の一連の事件のうち、どこまで見通しているのだろうと。
それと同時に、自分が恥かしくなる。
雫は将棋の駒の一つでしかなく、誰かに踊らされていたにすぎないと。
「っと、来たか、俺の近くにいて、身を守れ、ほかの所に行けば、命の保証はない」
誰もいな・・・・・・。
そう思っていた雫だったが御影が首もとを掴み後ろに投げ、槍で相手と対峙する。
がきん・・・・・・と甲高い金属音が響きわたり、御影は相手の腹に蹴りを見舞う。
浅かったか。
相手は後ろに飛んでいたためダメージは浅く、すでに戦闘態勢に移っていた。
暗闇でも御影は鮮明に見えていた。
ピエロの仮面に黒いマント、くの一の服装で両手で大鎌を構えていた。
「珍妙なかっこをしているな。白波今日子」