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風花の独白


 これは夢だ。数え切れないほど見た夢。


 幼少期の記憶。


 私は当時三歳だった。覚束ない足取りで庭を歩き、長女の訓練を始めてみたときの光景。


 長女はそのとき既に十二歳で、父と練習する姿を見て、凄く憧れを抱いた。


 絵本で見た本物の戦闘シーン。さしづめ、長女が勇敢に立ち向かう勇者で、父が余裕そうに受けて立つ魔王のように当時は見えた。


 もっと近くでみたいと歩き・・・・・・。


「駄目だよ風チャン。危ないからこっちに行きましょうね」


 にこにこと立ち塞がった次女の雫姉さんは、魔女のように見えた。


 それから、事ある事に、雫姉さんの過保護が始まり、家族も説得したようで、私がなにをいっても姉たちのように訓練してもらえなかった。


 優しい家族。怒られたこともなく、戦闘やダンジョンに関すること以外は何でも叶えてくれた。


 私も反抗せず良い子を演じていた。


 しかし、私が本当にやりたいことは、ダンジョンに潜る冒険者になることだった。長女や父と同じ様に。


 姉達の訓練を盗み見、危ないものはすぐに取り上げられるため、こっそりと箒や物干し竿で見様見真似で素振りなどしていた。


 二年前の夏、進路の事でこの学校に行きたいと言い、案の定反対され、初めて自分の意志を出し反抗した。


 両親は目を丸くして驚いていたが、そこでも雫姉さんの提案で決まった。


「あらあら、風チャンったらそんなにお姉ちゃんと離ればなれになるの寂しいの。うーん、お姉ちゃんも一年延期するから一緒に受けよう。お父さんお母さん、私が責任をもって見守りますので風ちゃんのわがままを許してあげてください」


 雫姉さんは、去年受験資格があったけど見送って、私が入るの年代に合わせてくれた。


 私はこの学校に来て思い知った。私は雫姉さんの籠の中の雛鳥だと。


 クラス内では空気の様な存在だった。


 あたらず触らず、壊れ物を扱うが如く、遠巻きに見ていて友達一人できない。みんな怖いのだ、雫姉さんの存在が。陰では落ちこぼれや早く辞めればいいのにとか陰口をたたいているのは知っていた。


 そこから逃げるように、0クラスに赴き、色々お世話をしていた。雫姉さんは良い顔しなかったが、ボブじいさんやプゥちゃんに目垣種次さんと知り合えて楽しかった。柊三下さんは少し苦手だけど、ようやく私の存在が認められた気がした。


 そして、あの人・・・・・・御影友道が来てからは何というか目まぐるしかった。


 引きづられる様にクラブのマネージャーとして入り、そして見たこともないような常軌を逸した訓練内容。


 血反吐や疲労骨折は日常茶飯事、模擬戦は常に真剣で、殺し合いをするが如く、殺気と全力を振り絞り、終わった後はスプラッターな事になっていて、私と顧問の癒杉舞先生と御影さんで治していた。


 痛いのに苦しいのになぜそんなにも頑張るんだと私は思っていた。同時に羨ましくも思っていた。カティナや美夜は元より種次もプゥちゃんも一ヶ月前と見違えるほど強くなって・・・・・・少し遠くに見えた。


 私もこんなに頑張ったら強くなれるのだろうか、私だけ蚊帳の外で、みんな頑張っているのに、私は・・・・・・このままでいいのだろうかと。最初の頃は嫌悪感をもっていたけど私も・・・・・・みんなと一緒に頑張りたいと思うようになった。


 何度私もやりたいと、言おうとしたことだろうか。その度に姉の影が言葉がちらつく。


「風ちゃんは弱いんだから何にもしなくていいの、お姉ちゃんが守ってあげるから、お姉ちゃんに任せなさい」


 数え切れないほど言われた言葉。御影に言おうとした、前に向こうとした心にブレーキをかける。


 ねえ御影さん、教えてほしい。どうしたら姉の・・・・・・魔女の呪縛は解けるのでしょうか。







 二階堂風花が目を覚ますと、見慣れた景色、Hクラスの寮だった。


 Hクラスの寮は、ボロく一階建てだが、男女別の大部屋、管理人がいて、共同トイレとお風呂に食堂と最低限のものは揃っていた。


 御影達がHクラスに移動してから一週間経過し、今日は授業が休みの日だ。


 風花が起きるのを待っていたのか、朝練帰りでうっすら汗をかいているプゥが、耳をピクピク動かしながら隣にいた。


「おはようプゥちゃん」


「お、ふ、は(おはようー風花。速くクラブいこ~)」


「駄目だよプゥちゃん。まずは食事をとらないと、大きくなれないよ」


「む、じゃ(むぅ~、じゃあ速く食堂いこう)」


「着替えるから少し待っててね」


 これが変わった日常、朝起きたらプゥちゃんがいる。目的がある。それだけで色褪せた景色が輝いて見えた。


 クラブに着いたのはそれから四十分後で、既に、カティナ、美夜、種次がいて、三下は休みの日に来ることは無く、舞先生は遅れてくることが多い。珍しい事に、御影の姿が無かった。


「おはようございます皆さん。御影さんはどうかしたんですか」


 不思議に思ったので、少し困惑気味に、種次に向かって、風花が疑問をなげかける。


「ああ、御影なら・・・」


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