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第二章幕間01~クラス替え試験の裏側~


 クラス替え試験初日、カティナは、戦闘科一年Sクラスの友人である、二階堂雫と藤島玲奈と一緒に屋台巡りをしている。


 しかし、表面ははしゃいでいるが、心の中は複雑だった。それは昨日の、クラブ作戦会議まで遡る。




「カティナ、美夜、君達にはやってもらいたいことがあるのだよ。まずカティナには最終試合の御影の試合まで藤島玲奈と一緒に屋台をまわってもらいたい。次に美夜は万が一誰かが仕掛けてくるかもしれないから、監視を頼みたい、それと御影の試合になったら、カティナに合図を送ってもらいたいのだよ」


「はっ、なに言ってんのこの眼鏡、私は嫌だよ、そんな友達をはめるなんてまっぴらごめん。それに、最初から闘技場で皆の事応援したいし」


「眼鏡、あなたの指図は受けない」


 案の定、カティナと美夜は険悪な空気を醸しだし、種次を睨む。


 それを予測したように種次の眼鏡がきらりと光る。


「これはクラブのためでもあるのだよ。いってみれば、このクラブは無名の弱小クラブなのだよ。吹けば飛ぶようなね。だから何か『イベント』が必要なのだよ。すでに各上位クラブや権力者にきて貰うよう話は通してある。藤島玲奈の性格なら、見せしめのように痛めつけるよう頼んである御影の試合を止めようとするのだよ。まずそれが第一段階なのだよ。御影にはある程度力を出してもらい、有力者への牽制、藤島玲奈は0クラスの現状を知っている。僕の理解が彼女は謝罪すると思っているのだよ。これほど、センセーショナルで衝撃的なことはないのだよ。

そして、それにこたえ、御影が宣誓布告することが第二段階。顧問の舞先生と御影がいるクラブに、敵にまわったら全力でつぶすと言われたら、どこのクラブも表だって動くものはいないと思うのだよ。後は、この事を新聞クラブの今日子に流してもらえば、最終段階なのだよ」


 いかにも種次が考えそうな戦略だが、そこに藤島玲奈の評判が落ちることを考えていない事にカティナは憤慨する。


「私は友達を売るほど落ちぶれてないよ。もう一度そんなこと言ったら・・・・・・潰す」


「これは御影も了承していることなのだよ」


 信じられないと言った表情で、カティナは成り行きを見守っていた御影の方を見る。それは美夜も同じ事だった。


「そうだな。このクラブにとっては必要なことだ。クラブとしての当面の目標は、まずS級になることだ。有数の原石や有力な人物をとるためには、目立ったことをしなければならない。それに、闇に葬られたクラブなど星の数ほど知っているだろう」


 カティナと美夜は頷くほかなかった。


 噂や先輩達からの情報で、潰れるクラブは知っていた。それが将来有望な一年生が造る、後ろ盾がないクラブであるほどその率は高い。


 そしてこのクラブには後ろ盾がない。顧問の舞先生も『クラブ』に対しては中立の存在だと公言している。


「カティナや美夜も知っているが、舞先生の存在は抑止力に過ぎない。必ずその事に気づくものが出てくるはずだ。そういったものからこのクラブを守るためには力を見せる必要がある。そして、それが人々の記憶に残る強烈な印象を与えるためには、藤島玲奈の存在が必要だ。心苦しいと思うが、ここには馴れ合いのために来た訳じゃないだろう。この学園は弱肉強食の世界だと俺は思っている。いつかこういうこともやらないと、喰われる。そうならないために俺も『クラブの仲間』を可能な限り守るが、敵は少ない方がいい。やってくれるな」


 そういわれたらカティナの選択肢は一つだけだった。


 前を見ると、物珍しそうにきょろきょろと見渡し、真面目な顔で何かを吟味している玲奈と、のほほんとした空気で口元を扇で隠しながらお団子を食う雫の姿があった。


 そして・・・ポケットに入れてあったカード型の魔導電話、現代でいう、スマートフォンを小型にしたもののバイブレーションが振動する。


「ねぇ、二人とも・・・・・・」





~サイド美夜~


 カティナに合図を送った後、美夜はある場所に向かっていた。


 作戦会議が終わり、解散となった後、美夜は御影に呼び止められた。


「ごめんな呼び止めて。美夜にはもう一つやってもらいたいことがある」


「言って、可能な限り何でもする」


 その返答に御影は驚いているが、美夜にとっては当たり前のことだった。美夜にとって、種次は頭が良いだけで、いざとなったらびびるし、エリートにありがちの高慢さが見え隠れしていて、カティナと同じで指図を受けるのが嫌だった。たとえそれがクラブのためになることだと分かっていても。しかし御影に対しては違う。試験の時から、今まで自分の事を助けてくれて、特訓は確かにきついが、実力を伸ばしてくれて、悩み事や相談も親身になってくれるし、頼りがいもある。信頼しているし、何かあったら力になりたいと思っていた。


 だから御影直々の頼み事に、美夜は少し嬉しかった。真面目な顔で了承しようと思っていたが、嬉しさから、口の端が少しにやけてしまう。


「すまんな。それは・・・・・・」




 まずい・・・・・・。


 対象の気配を追って、美夜は走りながら焦っていた。


 カティナに合図を送るときに少しの間場を離れ、戻った時にはすでに居なかった・・・・・・多数の生徒達と共に。


 対象が連れてかれた場所、Hクラスに用意された控え室では、怒号が鳴り響いていた。


「あっ! どうしてくれんだよぉ。おまえのクラブのせいで、俺らのダチはさんざんな目にあったんだぜ。この落とし前どうしてくれんだよぉ!」


「あの、私はマネージャーで、クラブのメンバーじゃ・・・・・・」


「はっ、姉がSクラスだからって、調子に乗ってんのかぁ、てめぇ!」


「そんなつもりは・・・・・・」


「いやよねぇ、勘違いでここに入って。三姉妹の落ちこぼれちゃんは。長女は有名な冒険者、次女はSクラス、かたや末娘はお情けで、Hクラスに入らせてもらってるんだよねぇ~。マジ受けるぅ~」


 美夜は唇を噛む。こんな事にならないよう、美夜は風花の事を守るように任されていた。


 待ってて風花ちゃん。


 角を曲がり、Hクラスの控え室が見え、美夜は濃密な気配を感じ立ち止まった。


 その人物は今、控え室の中に入ろうとしており、口は狐のように笑っており、冷たくおどろおどろしい殺気を振りまき、中に入った。


 美夜はすぐに分かった。彼女の姉、二階堂雫だと。


 Hクラスの人間は知らないが、二階堂三姉妹の仲の良さは有名な話だ。特に表面上は雫は風花に対し異常に過保護で、彼女の敵になった者は許さない。


 ごめん風花ちゃん。


 心の中で、風花に謝り、美夜は気配を殺し、中に入らず、聞き耳を立てる。


 御影の頼み事、それは。


「すまんな。それは、風花を守ることだ。Hクラスの人間で、やっかみを受ける可能性が高い。だが、もし美夜が、止める前に彼女の姉、二階堂雫がいたのなら待って出方を伺ってほしい。俺は風花の弱さの原因が姉であると思っている。一回Sクラスの授業で姉を見たがのんびりとした雰囲気でなにも分からなかった。だが、多分裏があると思っている・・・・・・特に、風花がピンチの時にきっと本性を現すだろうとにらんでいる。仲間が危険な時に待つのはきついと思うが頼めるか?」






「あらあら、風チャンに悪さするのはどこのどなたかしら」


 Hクラスの人間は、蛇に睨まれた蛙状態だった。一言一言が、毒の様に体内をかけめぐり、女子はへたり込んでいた。


「おっ俺達はなにも」


 慌てて弁明しようとするが、雫と視線を合わせた途端、真っ青になり、なにも言えなくなった。


 表面上はにこにこしているが視線が物語っていた・・・・・・次なにか喋ったら命はないと。


「勘違いなさらないでくださいねみなさん。私は風ちゃんが危なくないよう、このクラスに預けただけであって、前にも言いましたとおり、風ちゃんに何かあった場合、貴方がたの命は無いと。もしかして、忘れてしまいましたか、仕方ないですね、ここは底辺もいいとこのクラスですから、大事な大事な風ちゃんを守る為に、もう一度言いますね。風ちゃんを守れないようなら全員惨殺しますから、そのおつもりで」


 雫は扇を開き、冷淡な目で、射殺すように見回した後。


「風ちゃんこんなに怯えて。もうお姉ちゃんが来たから大丈夫ですからね。さぁいきましょう。それでは皆様ご機嫌よう」


 雫は表情を変え、風花を安心させようと、元のにっこりとした楽しげな表情に戻り、優雅にお辞儀をした後、震えている風花の手を取り、控え室を後にする。


「御影さんにお伝えください。今度風ちゃんのクラブにお伺いすると」


誰もいない廊下で呟き、雫達はここを後にする。


「あれは鬼狂い、あそこまでとは知らなかった」


 狂気をはらんだ空気感に、出てくる直前に空き控え室に入った美夜は未だに震えが止まらなかった。


 そして思う。御影と雫、二人が今度会ってしまったらどうなってしまうのだろうと。


 しかし、さっきの伝言から、近いうちにその機会は訪れるだろうと美夜は感じていた。






 




 飲み会が終わった後、カティナは高級ホテルの様な寮に戻った所で、玲奈と雫に捕まった。


「カティナ、ちょっと話があるんだがいいか」


「あらあら奇遇ですね、私もちょっとお話ししたいことがあるのですが」


「あはは・・・・・・お手柔らかに頼むよ」


 問答無用で有無をいわさずの二人に捕まり、尋問は深夜にまで及び、洗いざらい吐かされたのは言うまでもなかった。

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