エピローグ
~ある休日の保健室~
クラス替え試験が終了し、クラブも今日は休みにした午後、保健室には二人の人物がいた。
「そうか、結局はボブも、ありふれた物語の、学園の被害者だったのだな。だが、見方が変われば物語の様相も変わるものだぞ。一方の話では、その人の都合の良い話しか聞けない。特に当事者の場合わな。私が『聞いた』話では、サイフォンには二人の協力者がいた。一方はボブ、もう片一方はボブの親友。ボブの親友は二人が危ないと説得しようと行って、逆にサイフォンに一目惚れしてしまったらしいぞ。
そしてボブの親友は、人脈を生かし、小屋を造っても壊されないよう、地盤作りに奔走し、ボブとサイフォンは小屋作りを行っていた。
その頃から歯車が狂い始めていたのだろうな。三人の関係性が。ある日親友が告白し振られ、理由がボブが好きだと知ったその時から決定的となった。
彼は思う。ボブが死ねば彼女が手にはいると。
ボブにとって運の悪いことに、彼の下には命令を聞く多数の人間がいた。
彼にとっての誤算は、用意した呪いの兜に彼女の意志が数秒勝ってしまったこと。
そして最悪の形で物語は終わってしまう。
だから彼は、ボブにすべてを押しつけ、憎み、サイフォンの最後の言葉の記憶を奪い、正反対のことをさせた。
この小屋の維持と、サイフォンが願っていたのとは逆の、暗殺者に仕立て上げたのだ。これが私が複数から聞いた真相だぞ」
区切りとばかりに、舞先生は座っている椅子から立ち上がりできあがったコーヒーポット片手に吸っていた煙草をもみ消す。
「結局は誰も救われなかったという話ですね。いや、彼女はある意味で救われたのかもしれませんね。自分の思いを伝え、未来を見ることなく死ねたのですから。ボブじいさんは、その事を知っていたんですかね」
ボブじいさんから聞いた話では、親友を憎んでいるようには御影には見えなかった。しかしボブじいさんの話では説得して以降の親友の話はでなかった。
過去の出来事にイフは存在しない。もし彼女が親友を選んでいたら、親友が大人しく身を引いてくれたら、ボブじいさんが最後思いを伝えなかったら、結末は変わっていた。しかし、彼女の死を持って、バッドエンディングとなった。
「さてな、それこそ本人しか分からぬ話だぞ。親友への贖罪か、都合のいいようにボブの記憶をぬりかえたのかわな。だが、結局は終わった物語は本人しか知らず、人に話した時点で、大なり小なり嘘が生まれるものだぞ。最も当事者は既に存在していない。最近ダンジョンに挑み『亡くなった』らしいぞ」
何気なく舞先生は言い、御影は察した。
御影はコーヒーカップを受け取り、少し感傷的になっていた自分の落ち着かせ。コーヒーを飲んだ。
「色々動いてもらってすいません」
「なに、気にすることはないぞ。生徒の後始末は先生の仕事だぞ。これでも先生だからな。最も、すべて丸く納めるのは、苦労したぞ」
分かっているなという舞先生の表情に御影は仕方ないと言った表情で頷く。
舞先生と御影は対等な関係だ。少なくとも御影はそう思っている。
何かを頼み、おかげで上手く収まったのなら、それ相応の対価が必要だ。
舞先生に頼んだ事は、ボブじいさんの契約者を探してもらい、手段を問わず話を付けてもらうこと。
そしてもう一つは。
「ボブから聞いたかもしれないが一応言うぞ。美夜とカティナ以外、全員クロだぞ。色々な事情があるが、誰かの下についている」
やはりか・・・・・・と御影は思う。
思えば変だった。
三下は予想外だったが、プゥや種次は素質はかなりのものを持ち合わせている。それは・・・・・・も同じ事だった。まるで、ボブじいさんが0クラスの監視要員、その他にもいるかもしれないが、意図的に力を付けるのを阻止しているとしか思えなかった。それが脅迫か、呪縛か、言霊か、魔法か、崇拝か、見えない鎖か、服従か、束縛か何か御影には分からない。
上についているものも言おうかという舞先生の視線に御影は首を横に振る。
「仲間である限り、俺が救って見せますよ。仲間だと俺が思っている限りわね」
そこまで舞先生に甘えるつもりは御影にはなかった。
助けを求められたら、助けるし、相談にものり、上位を潰すのが最善なら、何をしても潰すことも念頭に置いている。
最も、決断し最後にアクションを起こすのは彼等彼女達だと御影は思っている。
結局は、何かを断ち切り、解放するのは、自分自身しかできないことなのだから。
御影にできることはきっかけづくりだ。
しかし、御影にとって敵になったその時は・・・・・・。
情報等、みんな既に上の人物に渡しているとは思うが、最初に行動を起こさざるおえないのは、誰か御影にはわかっていた。
Hクラスに行ったら必ず動くはずだ・・・・・・が。
それがボブじいさんと交わした最後の約束だった。
今回はできたら敵にならないでほしいと御影は思う。
「ほう、恐い恐い、裏切ってしまいそうになるぞ」
冗談めかしに舞先生が言い、御影は苦笑しながら、ベットから立ち上がる。
「さてと、そろそろ行きましょうかダンジョンへ」
「そうだな。いくまえに一つだけ言わせてももらうぞ。お前は身内に甘すぎるぞ」
見透かしたような表情で舞先生は言い、適わないなと御影は思う。
それを見越して、舞先生は丸く納めたと言ったのだ。
舞先生に言ってないことが一つだけあった。
「借りを返しただけですよ。・・・・・・は、充分苦しんだ。結末は変わらないですけど、俺がやったのは呪縛を解き放っただけです。後はどういう選択をするのか知りませんけどね。その魔法も・・・・・・もダンジョンに言ったら教えますよ」
「ほう、それは楽しみだぞ」
そして二人は奥の隠し扉の中に消える。
デスクの上には飲みかけのコーヒーカップがくっつくように二つ置かれていた。
ボブじいさんが目を覚ましたのは、地獄ではなく見知った場所、海浜公園だった。
訳も分からず、呆然と立ち尽くしていると、身に覚えのない腕輪に手紙が巻かれていた。
「これを見ているということは、成功したみたいですね。こちらでも使えるか分からなかったのでよかったです。サイフォンさんはボブじいさんが死ぬ事を望んでないと思います。それに、あなたが殺してしまった人達の為にも、誰かを救うために生きるべきです。でもこれは俺の願いで、決めるのはあなた自身です。
これで、一ヶ月間色々世話になった借りは返しましたよ。
それでは残りの人生幸あらんことを
御影友道
追伸:小屋は腕輪の中に入っています軌道ワードは・・・・・・」
あの魔法は周りから監視を警戒してのカモフラージュにすきず、既に小屋は事前に腕輪に収納しており、決闘時の小屋はコピー魔法で、御影が創ったもので、御影はボブじいさんを小屋におく振りをして、転移魔法で海浜公園に飛ばしたのだ。
最後は涙で見れなかった。
「ほんとに甘くてお人好しな男じゃ。サイフォン、儂はまだまだいけそうにない。今からじゃ遅いと思うのじゃが、放浪の旅にいこうと思う。0クラスでサイフォンがやっていたのと同じようにのう。だから見ててくれサイフォン。御影この借りはいつか、必ず返すのじゃ」
御影が窮地に陥ったとき、ボブじいさん達が助ける事になるのだが、それはまだ先の話。