暗殺者の正体と独白02
~闘技場~
今戦っているボブと相手がいるうリングにスポットライトが煌々と浴びせらせる。
「おらぉぉぉぉ」
ボブはこのとき今までで以上に力がでていた。
絶対にSクラスになると、勝ってこれからいうと。
この時のボブはこの闘技場の様に輝かしい、未来しか見えてなかった。
相手が不自然に転んだことも、チャンスだと思っていた。
「これで終わりだぁぁぁ」
渾身の斧の一撃で、相手が昏倒する。最後の一撃の時目があった相手は、真剣勝負とは思えないほど憐憫な眼差しだった。
それに気付かずボブは雄叫びと拳をあげ、観客席のサイフォンを探した。
サイフォンはすぐに見つかり、自分の事のように喜んでいて手を振っていた。
ボブも手を振りヒーローとヒロインの様に、ここに二人しかいない感覚で見つめ合い、手を振り合っていた。
「儂は幸せの絶頂にいたよ。あいつらから見ればひどく滑稽に移ったと思うがのぅ。そういうシナリオだったのだの。栄光と挫折、幸せの度合いが大きければ大きいほどたたき落とすのがおもしろい。そしてわからなんだ。サイフォンの笑顔に隠された決意を」
そして、その日の午後十時、中心に池があり周りが芝生で覆われ、高い時計台が目印の公園で、ボブはサイフォンを待っていた。似合わないタキシードをびしっと決めて、手には薔薇の花束を持ち、心臓は、ばくばくと波打ち、口からでるぐらいの感覚だった。
落ち着こうと深呼吸をするが対して変わらず、どうしたら落ち着くが分からなかった。
初めての経験だった。この学園に来てから、一年でAランクにあがり、エリートと見られ、女の子に不自由なく、これまで五人ほど付き合ったが、ここまで好きになったのは初めてで、自分から告白するのも初めてたった。
サイフォンの奴遅いな・・・・・・って俺が早く来ただけか。
約束の時間まで、まだ三十分近くあり、ボブが緊張しててもたってもいられず、早めに来ていた。
・・・・・・その時は訪れた・・・・・・
強い殺気を向けられ、ボブは後ろに飛び退き、臨戦態勢をとり・・・・・・すべてを悟った。
禍々しい鉄兜を被り、手にはモンスターレベル六十八、『ヒュドラスネーク』からとれる、猛毒の体液を染み込ませたダガー。
服はいつも彼女が着ている水色のワンピース。サイフォンの姿に間違いなかった。
思えば最初からおかしかった。
あんなにいびりにきていた生徒達はぱたりと来なくなり、0クラスが家を作っているのにも関わらず、妨害の一つもない。
妨害をしようとしていた輩もいたかもしれないが、おそらく排除されたのだろう・・・・・・上位派閥の人間によって。
もう少し早く気がつけば良かったとボブは思う。
友人もパーティーメンバーも、最初の方、話せるぎりぎりのラインで、危ない橋を渡って忠告してくれたのにも関わらず取り合わなかった。むしろ俺とサイフォンとの仲を引き裂くのかと疎ましく思っていた。
ボブはAクラスになったとき、派閥の勧誘の多さに嫌気がさし、あまり活動していない中堅の派閥に所属し、契約者も派閥の人間だったため知らなかった。
友人やパーティーメンバーの多くは、有名な派閥に入っている人が多く、『五大派閥』に入っているものすらいた。
彼ら彼女らは、サイフォンよりボブの方が大事だ。三年もこの巣窟にいたのだ。幾多の人が派閥の御曹司達、ご令嬢達、上位者達によっておもちゃにされていることを知っていたし、今回も悲しい結末になる事は分かっていた。
ボブが0クラスの人間と親しくしているという噂がでた時点で、慎重に慎重を重ねて、ある日、ボブの親友、戦闘科三年Sクラス、上位派閥の幹部で、気のいい男、パーティーメンバーであり幼なじみの一人が、夜、0クラスの行き、二人に離れるよう促したが、どちらも聞かなかった。
それから、彼の姿は見なくなった。大分後から知った事だが、学園を去り、『商砂国』に向かい、今は第一線で活躍する冒険者になっているらしい。
きっと見たくなかったのだろう。親友が傷つく姿を。
忠告を聞いていれば良かったのだろうか。
ボブは、普段見せない真剣な表情で説得してきた幼なじみの表情を思いだし少し後悔と申し訳なく思う。
周りに気配を張りめぐすと、数十人が周りを囲んでおり、一人一人が実力はボブより上か同等ぐらいで、逃げられない。
おそらくどこかカメラで中継しているのだろう。この物語の結末を見るために。
もう少し早く告白すればよかったのだろうか。親友の忠告を聞いて離れればよかったのだろうか。あるいは、二人一緒にこの学園から逃げればよかったのだろうか。
今考えても、もはや遅い。
しかしとボブは思う。サイフォンとの出会いに後悔はなかった。
刃先をボブに向け、一直線に向かってくるサイフォン。
ボブは目を閉じる。
この時、ボブに戦闘の意志はなかった。サイフォンと歩めないのは残念だが、彼女のために死ねるなら後悔は無いと。
「愛していたぜサイフォン」
数歩前まで近づいているサイフォンに向かってボブはそう呟き、死を受け入れた。
「・・・・・・言うのが遅いよ馬鹿」
ボブが目を見開くと、兜がひび割れ、自分の腹にナイフを突き刺し、倒れ込むサイフォンの姿があった。
ボブは抱き止め、信じられないといった表情で涙を流し、横たわらせる。
サイフォンが被っていた兜は『狂戦死の兜』で、被ると、目に映った人に攻撃する呪われたもので、それに完全に抗うか、死の間際じゃない限り、自然に割れることはない。
二週間前、ある男が現れ、サイフォンに示された選択肢は三つあった。
一つ目は、このままなにもせず家が壊せれ、ボブとも離ればなれになる。
二つ目は、ある兜を被り、待ち合わせ場所に行ってもらい、ボブを殺す事。
三つ目は、自分の力だけで被った状態の兜を破壊する事。
二つ目と三つ目の場合は、小屋を残してくれることを『約束』してくれた。
しかし、サイフォンがボブに相談することはゆるされなかった。
だから、自分で決断した。
絶対にあらがって、兜を破壊し、ボブとこれからも一緒に生きると。
しかし、兜の呪いは、強力でそんなサイフォンの決意をたやすく乗っ取る。
それもそのはず、ダンジョンレベル七十でドロップする代物で、心ダンジョンレベル五十をクリアできるほど強靱な精神の持ち主でなければ完全に抗えない。
最初から、二人で生き残る選択肢などなかったのだ。
このままボブに突き刺そうとしてボブの呟きが聞こえ、奇跡が起きた。
愛の力か、説明できない別の何かか分からない。しかしサイフォンの意識が数秒間戻り、理性が精神が呪いに一時的に勝ち、サイフォンは決断を下した。
「私も・・・・・・ボブの事好きだったよ。だから・・・・・・」
ボブは絶叫し、彼女を抱きしめたまま一日動くことはなかった。
「倒れてから、すぐにサイフォンは亡くなり、儂が0クラスの、小屋の番人になったという訳じゃ。お主は昔の儂と違って世の中というものを理解しておる。癒杉舞にクラブ顧問を頼めるほど、交友関係にある。
今日の闘技場での事もそうじゃ。表向きは目垣のシナリオ通りとなってはいるが、裏で色々とやっていたのじゃろう」
「さて、どうでしょうかね」
そうだと確信をもっているボブじいさんに、御影ははぐらかす。
「だからこそげせん。どうしてフェリスが契約者なんじゃ。あやつは色々『特殊』じゃから毒にしかならぬ。実際、敵は多いし、御影自身も相当ひどい扱いを受けているのじゃろう。お主もそれがわかっておるのに、どうして儂の邪魔をする。儂がフェリスを殺せば、お主の実力なら引く手あまたじゃろう。癒杉舞の派閥の幹部になり契約すれば、表向きも裏向きも、余程の事がない限り誰も手はだせん。今回みたいな回りくどいことはせずともな」
ボブじいさんがここ一ヶ月見た御影の印象は『何故こんなとこにいるのだろう』だ。
頭も悪くない、実力は桁違いに強い。カリスマ性もあり、仲間思い。駆け引きにも長け、何十にも予防線を張っている。
だからボブじいさんが、フェリスを幾重にも渡って殺そうと仕掛けたが失敗した。
そんな人物が特殊な事情がない限り、0クラスに入るはずがなく、ボブじいさんも調べたが何故かここに入るまでの情報が一切なかった。
分かったのは。フェリスと一緒に学園に現れ、その日の内に、契約したことだ。
そして、ボブじいさんから見た二人の仲は険悪に見え、だからこそ疑問に思う。
何故助けるのかと。
「それはあなたが一番分かるんじゃないですか・・・・・・ボブじいさん」
澄んだ瞳の御影を見て、ボブじいさんは虚をつかれ、ようやく分かった。
ボブじいさんは地に刺した斧を抜き。
「そうじゃったか。ならお主を倒し、フェリスを殺しにいく他あるまい」
「させると思いますか」
御影も虚空から槍を出し構える。
御影とボブじいさん、互いに譲れないものの戦いが始まりを告げた。