クラス替え試験が終わって
「おぉぉぉぉぉと、ここで強制終了となりなりましたぁ~。噂に違わぬ圧倒的な実力でドゲ選手を粉砕しました。そぉぉぉして突然の学年主席藤島玲奈の乱入。本日午前の試合は全部終了しましたが、二人が火花を散らして睨みあってます。果たしていったいぜんたいどうなってしまうのでしょうか。本日の午前の実況は今日子がお送りしまました」
「どうしてここまでするのですか。あなたの実力なら、すぐに終わったはずです」
「質問を返すが、なら0クラスでやられた人間に同じく救いの手をさしのべたのか。俺がやったことはHクラスの連中と同じだ。目には目を歯には歯を、0クラスの連中がやられて、俺がやってなにが悪いというんだ。0クラスだから反撃しちゃいけないというのか、0クラスの人間は、人間とは違うのか。どうなんだ一年主席藤島玲奈」
ぐうの音もでないほどの正論だった。
元々玲奈は今日闘技場に来る予定はなかった。
御影の試合のあまりにも凄惨さに、『誰かが』連絡し、近くの屋台にいたので急いで行き、試合の光景を目の当たりにして、上に立つものの使命感から体が勝手に動いた。
玲奈は知っていた。Hクラスがクラス替え試験で行っていることを。
昔からあった悪しき習性だということも。
品行方正、上に立つものは模範にならなければならないと思っている玲奈は、弱いもの苛めを何よりも嫌う。
しかし、序列十五位、会議でも一番末席に座っている玲奈に、未だそんな力はない。
このままSクラスで三年に進学し、序列一位を目標としている玲奈は、その地位になったとき、改革をしようと思っている。弱者でも虐げられないように。
今は未だ、その時ではないと見て見ぬふりをして。
御影から突きつけられた言葉の刃に、その気迫と重圧に玲奈は喉をひくつかせ、顔から汗がしたたり落ちる。
「・・・・・・そうかもしれません。今まで私は目を逸らしてきました。その事については謝ります。今更かもしれませんが今までの0クラスの方々に哀悼の意を表します」
観客席が俄にざわめき出す。前代未聞の珍事だ。一年主席の玲奈が最底辺の0クラスに向かって頭を下げたのだ。
それがどういう意味を持っているか分からぬまま、感情に任せて。
「お前は、まるで光りの様な人間だな。自分の権力も地位も名誉も考えぬまま、自分に非があれば謝る事ができる」
御影は冷めた視線で玲奈を見る。
藤島玲奈。トップ五に入る派閥の幹部にして、S級クラブの第三位。
スタイルも抜群で、見た瞬間魂を抜かれ、見惚れる様なな均整のとれた美人に、普段の優しげな天使のような表情。
玲奈自身あずかり知らぬ事だが、広告塔として彼女は表の担当になっていた。裏は知らぬままに。
その発言は下位クラスのとって余りにも重い。0クラスの人間を虐げるものは減るだろう・・・・・・表向きは。裏ではもっと酷いことが行われるだろうと御影は確信している。
人間の性根なんてものは余程のことがない限り変わらない。上からいわれたことは下へ下へと怒りがたまり、それを解消する対象は、結局、最下層の人間なのだから。
「聞け! 俺の仲間に手を出せば、こうなる。俺達と敵対するものは覚悟しろ。俺は容赦はしない。必ず関わった全員を見つけだし潰す」
御影は観客に向かって声を張り上げる。
これが今日のここでの一番の目的だった。
ここで力の一端を見せることで、派閥への牽制にもなるし、ここで宣誓布告すれば、各派閥のトップに伝わるだろう。
最も、仲間の守りは抜かりはなく、あちこちに防衛機能をつけたものを一人一人に、舞先生以外気づかれず、いつもつけているものに付与したり、渡したサポーターにもギミックがいくつか隠されている。
それは、フェリスの時と同じ、生命の危機に瀕したときに発動するもので、クラブ内の訓練ではきっているし、クラスでの模擬戦程度では発動しない。
それでも絶対ではない。世の中絶対なんてことはないと御影は思っている。
だから、少しでも今日の事で静観してくれる派閥があったら御の字程度に御影は思っている。
「・・・・・・対戦した相手のことをどう思っているのですか」
目的を果たし、帰ろうと思っていた御影に、不意にかけられた玲奈の言葉。
視線を玲奈に戻すと、芯の通った瞳で、見上げていた玲奈と視線が合う。
「特に何もないぜ。悪いとは思っている。運がなかったともな。しかし、他の派閥に対して、自分の仲間達のために、見せしめが必要だった。後はほんの少しの0クラスの敵の感情があった。ただそれだけだ」
今度こそ帰ろうと玲奈の脇を通る。
「御影友道。あなたのことは絶対に忘れません。私は私のやり方でこの学校を変えて見せます。貴方には絶対に負けません。そしてあなたのやり方を許しはしない。それだけは覚えていてください」
一回会っているのだが玲奈は忘れている。
だからこれが最初の会合だ・・・・・・。
光と闇。これからいくつもの事で衝突する二人の、お互いを認識した最初の出会いだった。