初クラブ練習終了
なぜみんなこんなにも輝いているんだろう。
風花はそう思う。
あれから、教えてもらった癒魔法でなんとか種次を治した後、御影は全員を叩き起こし、組み合わせを変え、途中から舞先生も参戦して幾度となく模擬戦を行った。
『何をされても、何をしても』治してくれると分かった途端、みんなの遠慮がなくなった。
全員が愛用の武器を使用し、骨が折れる、筋肉、けんが切れるのはまだいい方だ。腕や足がすりつぶされ、斬られ、切られ、焼かれ、氷漬けにされ、酷いのになると、達磨になったり、全身に火傷を負ったり、腹に風穴をあけられたり・・・・・・。
風花は何度も吐き気がこみ上げてきた。それほどの地獄絵図だ。
しかし、やっている当人達は御影と舞先生以外は皆必死で、それでいて生気に満ち溢れ、目の奥はぎらぎらと輝いていた。
それぞれの様子は風花が思うに、カティナは楽しそうに、美夜はクールに、プゥは、感情豊かに、種次は理知的に、舞先生大人の余裕があり、御影は保護者の様に。
ほんの三時間ほどぐらいだが、着実に皆の実力が上がっているのを風花は第三者の視点で感じていた。
悔しい・・・・・・何で私はこうも臆病なのだろうと。
例えマネージャーでも訓練する権利はある。
だから一声言えばいい。『私も混ぜてほしい』と。
しかし風花は言えない。
第一声を発しようとして、恐怖心にかられ、唇がわなわなと震え、鉛のように重く、言葉がでない。
今よりも強くなりたいと思う気持ちもある。がむしゃらに一人でやってきたが限界だと。
それ以上に嫌悪感の方が強い。
自分があんな状態にされたらと思うと、足が竦み、そんな事を平然とする人物に対し、人ではない何かに思える。
それは自分の心に起因するものだと分かってはいるが、価値観はなかなか変えられない。
そうこう考えているうちに、模擬戦は終わっていた。
「お疲れさん。今日の模擬戦はこれで終わりだ。まず俺が思った事と今後の方針をいうぞ。全体的に体力がなさすぎるのはおいとくとして、プゥはトリッキーな動きで相手を翻弄するスタイルは良かったが、スピードとスタミナの無さがまずは最初の課題だ。さすがに三分でばてるのは、早すぎだ」
「わ(わかったよ~)」
「種次は、読みが深くて、まるで相手の攻撃が分かっているようだった。合理的に動くのもプラスだが、肝心の攻撃の手段が少なすぎる事や自分のスペックの向上が課題だ。逃げ回ってばかりでは勝てないし、絶対に避けられない攻撃を受けると、今の状態では一撃で詰む」
「分かってはいるのだよ」
「美夜の流れるような舞は俺でも真似できない。しかし手数が圧倒的に足りない。後は緩急を入れた方が相手にも読みづらくなる、それをまず最初にやってほしい」
「了解」
「カティナは一撃一撃に重さがあり、剣の型もしっかりしていて下地は十分だ。しかし逆にそれに囚われすぎていて、本来の良さを消している。少し変えるだけで劇的に変わる。後は身体能力の向上が目下の課題だな」
「分かったよ。全部師匠に任せるよ」
御影はただ模擬戦を何十回とやらせていたわけではない。本人のスタイルが自信の持っている短所や長所とあっているかどうか、それを鑑みての今後の方針と今週の宿題を考えていた。
一つ良かったと思えるのは、皆自分の長所を分かっていて、そのまま成長すれば一年もしないうちに、舞先生クラスにはなれないが、こないだ見た現時点での学年トップ、藤島玲奈クラスにはなれると御影は思った。最も厳しい訓練に耐えたらの話だが。
「私には何か無いのか?」
意味深な笑みで舞先生は御影を見るが。
「舞先生は俺が何か言わなくても自分で昇華してくれると思ってますよ」
御影は苦笑いでお茶を濁す。
舞先生はもうすでに完成された器を持ち、実力も一級品。先ほど教えた癒魔法も既に中級ほどの実力がある。御影は舞先生に対して何かできることと言えば、異世界の知識を教えることだけだと思っている。
「まずは、来週あるクラス戦までに、今週中にゼロクラス組はソロでレベル十以上のダンジョンをどこか一つクリアすること、美夜は十五レベル以上、カティナは二十レベル以上をクリアすることだ」
と、クラス戦までの宿題を出したとき、御影の感覚に反応があった。
ようやくか・・・・・・。
御影は内心で黒い笑みを深めた。