第五試練10
やはり、負けてしまいましたか。
天音はさして落胆していない。
天音は勝ったらいいなぐらいにしか思っておらず、負けたら負けたで次の作戦に移るだけだと思っている。
花の事も手駒の一つにしか思っておらず、友情や愛情は持ち合わせていない。
もう少しやってくれると期待していたが、その点だけは少し落胆している。しょせんは口だけ、御影に何を言われたか分かりませんが、何とも情けない。
冷淡な目で天音は映像を見ていた。
「天音ぇ! 命を懸けてくれた仲間に対し、その視線は何だ」
団は泣き言も言わず、静かに消えていく仲間達に涙を流しながら抗議する。
「そうしたら、何か結果は変わるのですか。暑苦しい理論をおしつけないでください。失敗した。結果はそれだけです。死んだ者達の話をしても仕方がないですよ」
あくまで天音は合理的だ。人を駒のように扱い。勝つか負けるかで、次の駒を選択する。そこに感情はなく、ゲームの様に一手にすぎない。
詰め寄ろうとした団を舞先生が止める。
「先ほども言ったが、少しは冷静になれ。情に厚いのもいいが、その分では足下を掬われるぞ。天音は、お前から攻撃されることによっての相殺を狙っている。だからさっきから挑発するような言葉を選んでいる。言っておくが三度目は止めないぞ。亡くなった者の為に、少しは物を考えろ」
舞先生の言葉に、団は押し黙り、着席する。
「これで、私たちの勝ちだぞ」
舞先生は仕切り直しとばかりに全員を見渡す。舞先生はディーラーから四十枚他の派閥から十枚受け取ることになる。その枚数は何処の派閥ももっていない。つまり他派閥の命運は舞先生が握っていることになる。
「まだですよ。あくまで『蟲毒』の勝者ですので、勝ったというのはそうけいですよ」
学園長が反論する。
「そうよ、まだ決まった訳じゃない」
ナルカナも賛同する。他の派閥も似たようなことを口にし、ディーラーを見る。
ここでは、中立のディーラーに決定権がある。
「あくまで勝者という条件ですので、まだ決まってません。全員が予想を外した場合は、賭けたメダルは没収とさせていただきます」
他の派閥はほっと安堵の表情を見せ、舞先生は意味深な笑みでディーラーと天音を見た後、映像に戻った。
その時、天音の指示型魔法具に反応があった。準備がととのったようだ。天音は操作し指示を送る。
それは、花が敗れたとき様に考えた二の策だった。
クラブの練習場に御影に関わりがあるもの全員が集まっていた。風花やカティナ達クラブの面々、マスクで顔を隠している輝義やニナや翼達裏クラブのメンバー。玲奈や雫達協力関係にあるメンバー。そして。
「何で私がこんなとこにいなければいけないの。死ねなの」
フェリスや剛我、ジュリがいた。
御影がもしもの時のために、全員を集めたのだ。個々でいるより、裏クラブのメンバーがいて守れるここにいた方が安全だ。
フェリスが何度目かの悪態をつく。
これも全部御影のせいなの、帰ってきたらふんだくってやるの。
フェリスにとって知らない人族がいるだけで相当なストレスだ。御影に言われたとき、断固拒否したが、剛我の説得もあり渋々ここにきた。
何を要求するか、フェリスは黒い思考で考えていた、嫌悪する視線を無視するかのように。
「あの、本当にくるのでしょうか」
風花は翼に問いかける。名前を言うわけにもいかないので、固有名詞を避けた。
「あー、まあな、残念ながらすでに来ている。風花にも分かる。耳をすませ、そしたら分かるぜ」
言われた通り、風花は、目を閉じ、耳をすませる。
微かに音が聞こえた。それは複数の足音、後五分ほどでここに来る。
風花はあわあわと慌てた。そんなに時間はない。それなのにクラブの面々は三下以外余裕そうな表情だ。
「大丈夫だ、今のお前の実力なら、大丈夫だ。もっと自信を持て」
そして、奴らは来た、天音の誘惑魔法にかかっている駒が。