第五試練07
「ぐっ」
開始してすぐ、女が連の左腕を吹っ飛ばす。
女の獲物は大きめのナイフとワイヤーだ。
連は聖魔法で傷口を止める。
何も見えなかった。魔法を発動するより早く、気付いたら腕が無くなった。
元来一対一の戦いでは、魔法使いは不利だ。
だからファーストアタックが重要だった。
密かに、詠唱していたが、間に合わなかった。
こうなると差は歴然だ。万に一つ勝ち目もない。
握っている杖を見つめる。
どうか僕に力を。
この杖は一年前、団と初めて序列十五位以内に名を連ねたときに、団とプレゼント交換し貰ったものだ。団は杖を、蓮はハルバートを互いに渡した。
「ジャリが、もう少しいい声で鳴け」
血の付いたワイヤーをぺろりとなめる。
「うん、六点ってとこかなぁ、じゃりにしては、いい血液だよぉ、次は臓物を見たいぞぉ」
狂っている。だが、僕はまだ何もしていない。
次の発表まで女と距離をとる。
「第二部位は腎臓です」
「ショットガン・ホーリーバレット!」
聖魔法の第七級魔法。無数の聖弾が女を襲う。
もっとも得意とし、詠唱が短い魔法だ。
「ジャリが大人しく、我に臓物を見せよ」
なっ、消えました。
確かに女はいた。この眼で確認した。しかし陽炎のようにふっと消える。
「がはっ」
背後からの衝撃。
体に穴を開けられた。
魔法で傷を塞ぐ。
「腎臓は綺麗な色じゃな」
それを女は、食べた。
蓮は吐き気がこみ上げてきた。
手も足も出ない。何か仕組みがあるはずだが、蓮にはそれが分からなかった。
残る手立ては限られている。
チャンスは一回きり。
それから、見るも無惨な光景だ。
一歩的に蓮はやられ、足も無くなり、只、たたづんでいるだけだ。
「第八部位は心臓です」
「もう終わりか、なかなか楽しかったぞ、ジャリ」
こっちも準備は完了しましたよ。
一方的にやられていたわけではない。地べたをはいずりまわりながら、心の中で詠唱していた。
土壇場で間に合った。もし早くに心臓が部位選択で選ばれてたら、なにもできずに死んでいた。
奇跡的にも右手は残っている。
団、僕はどうやらここまでのようです。あなたの魂についている鎖は僕がもらっていきます。
「一つ言いたいことがあります。良いですか」
「なんだいじゃり。言ってみな」
女は興味があった。ここまでやれば負け犬の眼になる。しかし蓮の目は死んでいない。目に光がある。
「僕と一緒に死んでください」
聖魔法・禁術『パルス』。自分の魂を聖融合させ、その場の全てを滅亡させる破滅の呪文。その威力はランク九十以上の敵にも一矢報いる。
御影は防御魔法を展開し扉からの出てくる衝撃を防ぐ。
お前の覚悟、しかと目に焼き付けた。
そして思う。惜しい人物を亡くしたと。もし会うべきときが違っていたら、是が非でも仲間に誘っていただろう。そのぐらい良い人材だ。
誰もなにも言わない。ニャルコや今日子でさえ、蓮の凄まじい最期に息を呑んでいる。
御影の言った意味がようやく分かった。
あの攻撃を受ければ、相討ちだったと。
衝撃は試合場全域で、逃げ場はない。
しかし。
光がおさまり、次第に全容が明らかとなる。
「それはできないねぇ、じゃり、いや蓮。あんたはいい男だったよ。地獄に行ったらまたあおうねぇ」
どうやったかは、今日子達は分からない。だが無傷の女がそこにいた。
「くそっ、蓮のやろう負けやがって」
「口だけ達者かよ」
「死にたくねぇ死にたくねぇ」
連のパーティーはライフルが0となり敗退が決定した。
女は殺す価値もないと自陣に戻っていく。
それは御影も同じで、仲間達とともに扉の前から移動する。
クラブ派の二人も涙を流しながら、扉の前で深々と敬礼し、戻っていく。
連のパーティーの姿が消え、残り四パーティー。花の番となった
一方、会議室でも変化があった。
団の精神は暗闇の中をさまよっていた。
歩いても歩いても光が見えない。
天音に話があると言われ部屋に行って、気付けばそうなっていた。
警戒はしていたが、結果的に天音にしてやられた。時々記憶が流れ込んでくる。蓮がクラブ派の敵となって、立ちはだかっていること、そして蟲毒に参加していること。何かしようにもどうすることもできない。
自分のふがいなさに情けなくなる。
くそったれ、くそったれ、くそぉぉぉぉ!!!
蓮が死んだ映像が流れ込んでくる。
涙が溢れるのを堪えきれない。
蓮は生涯の友だった。切磋琢磨しあい二人で学園の天下とろうと誓い合った。
武の団と知の蓮。二人いれば怖いものなんてなかった。
「全くあなたは馬鹿ですね。天音の策略にまんまと引っかかるなんて」
「蓮、どうしてこんなとこに」
目の前に死んだ蓮がいた。
「団が馬鹿すぎて死んでもしにきれないです。天音の部屋にのこのこ行くなんて、自殺行為ですよ」
「面目ない」
怒っている蓮に、団は頭をかく。
フンと鼻を鳴らし、そっぽを向く。そしてどちらからともなく笑いあう。
「仕方ありません。僕が案内します」
団の手を取り、暗闇の中を案内する。
久しく見なかった光が、徐々に近づきていく。
「案内はここまでです。これから、癒杉先生や御影を頼ってください。きっと力になってくれます。僕の分まで天音を、学園長派を潰してください」
「ああ、分かった。必ず俺が天音を潰す。何に変えてもな」
「それでこそ団ですよ」
拳をつき合わせ、団は光中に入っていった。