表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
233/238

第五試練07

「ぐっ」


 開始してすぐ、女が連の左腕を吹っ飛ばす。


 女の獲物は大きめのナイフとワイヤーだ。


 連は聖魔法で傷口を止める。


 何も見えなかった。魔法を発動するより早く、気付いたら腕が無くなった。


 元来一対一の戦いでは、魔法使いは不利だ。


 だからファーストアタックが重要だった。


 密かに、詠唱していたが、間に合わなかった。


 こうなると差は歴然だ。万に一つ勝ち目もない。


 握っている杖を見つめる。


 どうか僕に力を。


 この杖は一年前、団と初めて序列十五位以内に名を連ねたときに、団とプレゼント交換し貰ったものだ。団は杖を、蓮はハルバートを互いに渡した。


「ジャリが、もう少しいい声で鳴け」


 血の付いたワイヤーをぺろりとなめる。


「うん、六点ってとこかなぁ、じゃりにしては、いい血液だよぉ、次は臓物を見たいぞぉ」


 狂っている。だが、僕はまだ何もしていない。


 次の発表まで女と距離をとる。


「第二部位は腎臓です」


「ショットガン・ホーリーバレット!」


 聖魔法の第七級魔法。無数の聖弾が女を襲う。


 もっとも得意とし、詠唱が短い魔法だ。


「ジャリが大人しく、我に臓物を見せよ」


 なっ、消えました。


 確かに女はいた。この眼で確認した。しかし陽炎のようにふっと消える。


「がはっ」


 背後からの衝撃。


 体に穴を開けられた。


 魔法で傷を塞ぐ。


「腎臓は綺麗な色じゃな」


 それを女は、食べた。


 蓮は吐き気がこみ上げてきた。


 手も足も出ない。何か仕組みがあるはずだが、蓮にはそれが分からなかった。


 残る手立ては限られている。


 チャンスは一回きり。


 それから、見るも無惨な光景だ。


 一歩的に蓮はやられ、足も無くなり、只、たたづんでいるだけだ。


「第八部位は心臓です」


「もう終わりか、なかなか楽しかったぞ、ジャリ」


 こっちも準備は完了しましたよ。


 一方的にやられていたわけではない。地べたをはいずりまわりながら、心の中で詠唱していた。


 土壇場で間に合った。もし早くに心臓が部位選択で選ばれてたら、なにもできずに死んでいた。


 奇跡的にも右手は残っている。


 団、僕はどうやらここまでのようです。あなたの魂についている鎖は僕がもらっていきます。


「一つ言いたいことがあります。良いですか」


「なんだいじゃり。言ってみな」


 女は興味があった。ここまでやれば負け犬の眼になる。しかし蓮の目は死んでいない。目に光がある。


「僕と一緒に死んでください」


 聖魔法・禁術『パルス』。自分の魂を聖融合させ、その場の全てを滅亡させる破滅の呪文。その威力はランク九十以上の敵にも一矢報いる。


 御影は防御魔法を展開し扉からの出てくる衝撃を防ぐ。


 お前の覚悟、しかと目に焼き付けた。


 そして思う。惜しい人物を亡くしたと。もし会うべきときが違っていたら、是が非でも仲間に誘っていただろう。そのぐらい良い人材だ。


 誰もなにも言わない。ニャルコや今日子でさえ、蓮の凄まじい最期に息を呑んでいる。


 御影の言った意味がようやく分かった。


 あの攻撃を受ければ、相討ちだったと。


 衝撃は試合場全域で、逃げ場はない。


 しかし。


 光がおさまり、次第に全容が明らかとなる。


「それはできないねぇ、じゃり、いや蓮。あんたはいい男だったよ。地獄に行ったらまたあおうねぇ」


 どうやったかは、今日子達は分からない。だが無傷の女がそこにいた。


「くそっ、蓮のやろう負けやがって」


「口だけ達者かよ」


「死にたくねぇ死にたくねぇ」


 連のパーティーはライフルが0となり敗退が決定した。


 女は殺す価値もないと自陣に戻っていく。


 それは御影も同じで、仲間達とともに扉の前から移動する。


 クラブ派の二人も涙を流しながら、扉の前で深々と敬礼し、戻っていく。


 連のパーティーの姿が消え、残り四パーティー。花の番となった


 一方、会議室でも変化があった。















 団の精神は暗闇の中をさまよっていた。


 歩いても歩いても光が見えない。


 天音に話があると言われ部屋に行って、気付けばそうなっていた。


 警戒はしていたが、結果的に天音にしてやられた。時々記憶が流れ込んでくる。蓮がクラブ派の敵となって、立ちはだかっていること、そして蟲毒に参加していること。何かしようにもどうすることもできない。


 自分のふがいなさに情けなくなる。


 くそったれ、くそったれ、くそぉぉぉぉ!!!


 蓮が死んだ映像が流れ込んでくる。


 涙が溢れるのを堪えきれない。


 蓮は生涯の友だった。切磋琢磨しあい二人で学園の天下とろうと誓い合った。


 武の団と知の蓮。二人いれば怖いものなんてなかった。


「全くあなたは馬鹿ですね。天音の策略にまんまと引っかかるなんて」


「蓮、どうしてこんなとこに」


 目の前に死んだ蓮がいた。


「団が馬鹿すぎて死んでもしにきれないです。天音の部屋にのこのこ行くなんて、自殺行為ですよ」


「面目ない」


 怒っている蓮に、団は頭をかく。


 フンと鼻を鳴らし、そっぽを向く。そしてどちらからともなく笑いあう。


「仕方ありません。僕が案内します」


 団の手を取り、暗闇の中を案内する。


 久しく見なかった光が、徐々に近づきていく。


「案内はここまでです。これから、癒杉先生や御影を頼ってください。きっと力になってくれます。僕の分まで天音を、学園長派を潰してください」


「ああ、分かった。必ず俺が天音を潰す。何に変えてもな」


「それでこそ団ですよ」


 拳をつき合わせ、団は光中に入っていった。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ