第五試練05
中堅パーティーの男が指名したのは、花パーティーのクラブ派の男だった。
「辞退します」
第十試合を決まる前、指名されたと同時に、間髪入れずにそう言った。
「貴方は!!」
花がぎろりと睨み、胸ぐらを掴む。仮にもパーティーを組んでいて協力関係だ。連との試合は百歩譲って良しとしよう。だが今回はいただけない。
相手は第五試練に残った中で最弱クラスだ。勝てるチャンスは大いにあり、最低でも試合内容を聞くべきだ。それなのに。
「真実を知った。それなのに天音のために動く気にはもうなれない。たとえ死んだとしてもだ」
その言葉が、すべてを物語っていた。
クラブ派の二人はもう、戦う事を放棄している、怪しいと思っていた天音が黒幕だと知り、協力関係もくそもない。最初から天音は利用するためにクラブ派に近づき、カチャカチャにされた。せめてもの意趣返しだ。
やはり信じられるものは私だけですね。見ていてください天音様、私が必ず。
「ほぉう、誘惑魔法か、本当なら裁判ものだぞ」
そんなことだろうとは、舞先生は思っていた。これが天音の処世術であり、成り上がってきたからくりだ。
これまで、おかしな部分は多々あった。生徒会長を決めるときも、不自然な辞退者が相次ぎ、天音の有利な方向に進んでいた。天音に敵対するものも、次の日には仲間になっていた。
これまで明確な証拠がなかった、なぜなら。
「それは、蓮さんの戯れ言ですよ。本人に直接確認すればいいのでわないのでしょうか。団は誘惑魔法を受けているのですか」
「そんなものは受けていない。癒杉教諭、問題発言だ、訂正は願おう」
使用者を庇おうとするからだ。
誘惑魔法を説かない限り、それを立証するのは難しい。白々しいが、証拠がないので現状では灰色だ。
誘惑魔法に対する明確な解除魔法は未だにない。
かかったら最後、解くのは至難の技だ。
まぁいい、いずれ『分かる』だろう。
既にその兆候は見られていた。
興味が再びモニターの方に移る
どういう『結末』になるか楽しみだぞ御影。
第五試練は三巡目。最終局面へと移行する。
三巡目、破滅の十二人のターン。
残っている二十代の男が必然と選択され、指名したのは、今日子。
「第十一試合はジャイアント・イーターです。対戦相手に危害を加えることを禁止します。五キロほどあるビックボアの肉塊焼きを先に食べた方が勝ちです。制限時間は一時間で、時間内に両者とも食べれない場合は計量勝負となります。受けますか、辞退しますか」
「すまないっす影さん。辞退します」
「競技が悪かったな。後は任せろ」
食事をしたばかりなので腹は減っていない。何より今日子は女性なので、五キロは無理だ。
わかりずらいが、若干落ち込んでいる今日子に、そう励ます。これが今日子の素のモードで、普段見せている喜怒哀楽の激しさとはかけ離れていて、少し寝むそうな無表情に近い顔。でも、体感時間で長い事いる、御影はその機敏は分かっていた。
次は御影達の番。
「こちらはニャルコだ」
リセットされ、御影の選択はニャルコを使うことだった。ニャルコは誰でもいいという表情だった。
「対戦相手はあいつだ」
御影が指さしたのは、先ほどとは違う破滅の十二人の二十代の男。
「第十二試合は氷柱戦闘。水温0度、深さ五メートルのプールに入っての戦闘となります。水からでたり、潜水せず立ち泳ぎでの攻撃は禁止です。あくまで潜水して攻撃してください。両者が潜水したら戦闘開始となります。気絶、死亡、降参、三秒以上水面から顔を出すと失格となります。受けますか、辞退しますか」
「受けます」
男は事も無げに言う。
一方、ニャルコはうずくまってしまう。
「にゃー、何でにゃーばかり苦手なことばかりだにゃー」
ニャルコが地団駄を踏む。まるで仕組まれているかのようだった。
ほんとに性格が悪いダンジョンだな。
最初から思っていたことだ。
あっちの世界にも明確に意志を持っているダンジョンは存在した。
悪質なものから親切なものまで多種多様だ。
照らし合わせるとここのダンジョンの性格は、面白いもの好きのいたずらっ子だ。
より面白い方向に進んでいる。
くじ引きも意図的だ。最初からダンジョンは試練を見ていた。その上で、この二試合、御影側が勝てない試合を選んでいる。
これで表面上は四チームがライフル一で並んだ。
ダンジョンは見たいのだ。蓮がどういう選択をするのかを。
そして、蓮を覚悟を持って口を開く。