賭金の発表と
回収した紙を開き、発表する。
所持しているメダルは。
貴族派:九枚
教会派:十二枚
クラブ派:十五枚
学園長派:十五枚
舞先生派:三枚
で、この半分を賭けなければならない。
「教会派、勝者予想ガリク、メダル六枚」
書くのは、派閥名、勝者予想、賭け金の三つ。ガリクは序列十位で、三年S組、解除科トップで、教会派に属している。今回のフェイルゲームで教会派が送り出した人材で最強の人物だ。
戦闘力で言えば、戦闘科に換算すると、三年A組程度で弱いとは言えないが、もっと強い人材がいるはずだ。序列七位は無理だとしても、十六位以下の人物で。
しかしナルカナは余裕そうな表情だ。
それは次の発表で明らかとなった。
「貴族派、勝者予想新垣連、メダル六枚」
団が目を見開き、学園長や玲奈も動揺は隠せない。逆に貴族派トップとナルカナはしてやったりの表情だ。
やられた、と団は思った。派閥の変更は、一時間もあればできる。元々蓮と団は反目しあっていて、そこをつかれた形だ。
「クラブ派、勝者予想長谷川陽一、メダル八枚」
長谷川陽一は戦闘科三年S組でクラス内では中の上、クラブ派の中では団、蓮、桃子に次ぐ四番手で序列は二十位台だが、蓮と比べると見劣りする。
新体制が始まってから、最初のフェイルゲーム、今回勝たなければ団は臨時のトップの座から転落する。
だから今回は負けられなかった。若干不安そうな顔つきで、玲奈を見る。
玲奈は毅然としていた。
「学園長派、勝者予想由良木花、メダル八枚」
状況は厳しくなった。相手の戦力は予想以上、こちらの戦力と比較しても、拮抗していると予測している。しかし、『あそこ』は戦力だけでは勝ち残れない。それは経験した天音が一番分かっていた。
そして全員が舞先生を見る。御影に賭けることはここにいる全員が知っているし、舞先生は隠そうともしていない。
問題はメダルの枚数だ。教会派と貴族派は内情を知らないため警戒しているが、クラブ派と学園長派は安心している。
確かに御影が勝つ可能性は高い。
当たった派閥は賭金の二倍がディーラーが支払われ、負けた派閥は賭金の半分を、勝者が二人以上いる場合はどちらかに渡す決まりだ。仮に貴族派協会派が勝ったのならメダル三枚を学園長派とクラブ派が支払い、計十一枚を失う。仮に舞先生の派閥が勝ったとして、全額の三枚賭けたとしても四捨五入で二枚を舞先生に支払い、計十枚う事になるが、舞先生の賭金が低いため、残されたメダルは賭金に見合った金額が変換されるため、賭け金全体で三十一枚、内六枚を引いた二十五枚、おそらく七枚ほど返ってくる予想で実質三枚だけ失う。
協会派と貴族派が勝つよりかは遙かに良いと玲奈は思っている。ちなみに足りない場合は、ディーラーが支払うことになっている。
しかしそんな淡い幻想は、次の瞬間打ち崩される。
「クリア派、勝者予想、御影友道、メダル二十枚」
「ありえません」
思わず学園長が叫ぶ。玲奈も寸前まででかかった。それほどまでにあり得ない事態だ。メダルは三枚しかなかったはず。それなのにどうして。
舞先生はおかしそうに笑っていた。
「なにがあり得ないのか、教えてほしいぞ」
「あなたの派閥はメダル三枚のはずです、それなのにどうして」
玲奈が質問する。
「確か持っている金額の半分以上を賭けることだったな。ディーラーに『借金』して賭けることは可能だったはずだぞ」
確かにそれは可能だ。しかし相応の担保は必要で、少なくても十七枚借りる必要があり、その担保は。
舞先生以外、他の派閥も、全員がディーラーを見る。
「癒杉先生と十七枚で取引しました。詳細はお伝えできませんが、それ相応のものだと保証します」
執行部隊は国に属し、中立の存在だ。その人物がそう言ったのならそうなのだろう。
まずい、と玲奈は思う。
周りを一様に暗い雰囲気で全員が動揺している。
舞先生が勝った場合、賭金の他に十枚支払う必要があり、どの派閥も足りない。
それはすなわち、舞先生と交渉してメダルを手にしなければ転落を意味する。
この前、ディーノや清音が言った言葉が脳裏をよぎる。
「さぁ、もうそろそろ始まるぞ」
舞先生を敵にすると後悔すると。あの交渉の時、去り際の歪んだ笑みの真意を天音は今更ながら分かった気がした。