夜にて12
ラウンジから去った御影一行は、二手に別れた。
御影は五人の説教のため、良い笑顔で、ドナドナ感のちびっ子達をつれてホテルの外へと向かい、雫と風花と翼は、部屋へと戻っていった。
翼は朝まで飲みたかったが、あんなことがあったのだ、今日はさすがに自重した。
部屋には美夜がいて、リビングで静かに本を読んでいた。
「お帰り、早かったね」
三人が帰ってきて、美夜は本を閉じる。
「あらあら、トラブルがあって大変だったのですよ、その事で外で話しましょうか」
雫と美夜は部屋を出た。
当然の如く、部屋の中には翼と風花の二人。
「何か飲まれますか」
部屋に備え付けられている冷蔵庫やワインセラーがあり、後払いで飲めるようになっていた。
「気を利かせなくていいぜっ、あーその、なんだっ、今日は大変一日だったな」
「はい、まさかあそこで襲われるとは思わなかったです」
話題は先ほどの破滅の十二人の襲撃だ。
「師匠はやっぱりすげっな、あの破滅の十二人の幹部を伸しちまうなんてよぉ~」
風花がお酌してくれたので、結局翼は飲むことになった。
「そうですよね、御影さんはすごく頼もしくて、雲の上の存在みたいです」
国のトップとも堂々と話している様子を見て、どこか遠い存在になった感覚に陥った。
「そんな奴じゃねっーよ師匠は、それは風花も分かってるだろぉ」
「そうですね、上に行っても態度を変えるような人じゃないですよね。私が困った時も相談に乗ってくれ
ました」
クラブの人数が増えて、話す機会は減ったが、御影自体は何ら変わってない。
変わったのは風花の心だ。
風花は自身の依存体制に愕然とする。
今思った感情は、『嫉妬』だ。翼が楽しそうに、憧れるように口にし、黒い感情が浮かび上がった。
御影さんは恩人のはずなのに、こんなの私じゃありません。
初めての感覚に風花は戸惑う。
「まぁ~そう思うのも仕方ないがなぁ~、隼人も上の人間と会う内に変わっちまったからなぁ、俺たちはそれを止められなかった、俺らが、いや俺が言わなければならなかったのによぉ。エンド・ワールド内でも二人は隼人の言いなり、一人は無関心で、一人は自分の趣味に没頭し、俺だけが言えた。だが言えなかった。風花と同じだ。変に遠慮して、自分と違う世界に言ってしまったと思い、パーティーで同等な存在なのに、いつしか隼人は上の存在だと、自分は下だと感じちまった。隼人の孤独感も分かってやれなかった。俺が言えば、もしかしたらあんな事件は起こらなかったかもしれない。たらればの話だけどな」
そう言って翼は酒を煽る。
「だから、俺が師匠を、御影をそう思う事ない。繰り返しちゃいけないからな。最も師匠の場合は、癒杉先生をはじめ、周りの人材にも恵まれて、本人も鉄の心を持ってるからな。ある意味どこか壊れているがなぁ」
知ってか知らずか、翼は風花の心の部分には触れず、自分の失敗とこれからのことについて話す。
「御影さんは、何処か心が壊れているのですか」
風花にはそうは思えなかった。心が強い事は見ていて分かっていたが、心の何処かが壊れているとは思えなかった。
「風花もいずれ分かるさ。でも大丈夫だ、こちらに危害はない。仲間である限りな。残念ながら俺たちには治せねぇ、治せるとすれば」
ばんっと、扉が開き、三下がやってきた。
「翼の旦那ぁ、おれっちの部屋誰も居ないし、遊びに来たぜっ~」
ある意味良いタイミングで話が切れ、翼にとってはほっとする、風花にとってはお邪魔虫。
「良いところできたなぁ、何か持って来たのか」
「へっへっ~ん、トランプ持ってきたぜっ~、風花もやろうぜっ~」
「それでは、参加させていただきますね」
気分を切り替え、風花も楽しむ事にした。
後から、三下が居ると分かって、黒いオーラの雫とゴミを見るような目の美夜を交えて、深夜までトランプで遊んだ。