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夜にて11


 種次と玲奈は天音達から解放され、ホテルの外の敷地ないに居た。


 話したいことがあると、帰ろうとした種次を玲奈が引き留めたのだ。


 手頃なベンチに二人は座る。


 騒動があったため人の気配はない。


「久しぶりですね、こうやって話すのは」


「そうだな。昔話をしたいのなら帰らせてもらうのだが」


 二人には温度差がある。玲奈は親しみを込めて言ったが、種次は冷たい。


 相変わらずのせっかちだと玲奈は嘆息する。種次は非効率的な事を嫌う。ここに来たのも大方一の命令だろうと。


 クラブに入って少しは変わったと玲奈は思っていたが、相変わらず根っこの部分は変わってないと。


「天音さんとの交渉、あれは演技ですね」


 確信しているように玲奈は言う。


 種次は思う。これだから元許嫁は嫌なのだと。


 悔しかったのは事実だ。それは『半分』しか達成できなかったから。


 実質、さっきの交渉は引き分けだ。


 交渉の前段階では種次は敗北していた。


 しかし、相手に相応の不安感を植え付けることに成功した。


 御影の戦力は異常すぎる。あの『破滅の十二人』の幹部を倒したのだ。今まで誰もやったことがない。


 しかも『裏』クラブのメンバーも実力者揃い。


 知って方が良い事と、知らない方がよかったことがある。


 今回は後者だ。明らかに学園生ができることの範疇を越えている。



 潜入している『破滅の十二人』を捕まえることなど不可能だ。しかし対策は練らなければならない。


 只でさえ、種次から聞いたことを参考にフェイルゲームとその後のクラブ対抗戦に挑まなければならない。答えのでない作戦を考えながら。


 種次の作戦は二段構えだった。情報料としていただき。情報で相手にいらぬ紺論や不安を抱かせる。


 だから、隣にいる玲奈を牽制した。正義感からいらぬ事を口走るのではないだろうかと。


 幸い、補足するだけでそれはなかったが、しっかり思惑はばれていた。


「だったらどうだというのだよ」


 ふてくされた様にそっぽを向く。相変わらず変わってない。自分の考えを玲奈に論破されるといじけてしまう。


 玲奈はおかしそうにくすくすと笑う。


「変わってないですね。安心しました」


 もう許嫁ではないが、幼なじみだ。分かっていても交渉中に天音に言うつもりはなかった。


 最初から、玲奈は種次に対し愛情はない。許嫁も両親から言われ、了承しただけだ。上位の家にはよくあることだ。繋がりを強固にして勢力を拡大する。


 種次に感じている事は親近感だ。


 この前までの玲奈と同じで両親や兄からの『呪縛』が解けない。


 この学園に入ってからも、兄の所に足繁く通っている。


 性格が変わってない事に安心すると同時に、不安になる。


 一は危険な存在だと玲奈は思っている。近しいものですら道具にしか思ってないような、そんな感覚だ。


 一とも、種次との繋がりで三人で一緒にいる機会も多かったが、その感覚が常にあり、少し怖かった。


 そして久しぶりに一を見たとき、その事が色濃く感じられた。


 薄灰色がどす黒く染まったかのように。


 おそらく何かあれば、真っ先に種次が切り捨てられる。


 その可能性を考えられない種次ではないのだが、事一に関しては、思考も鈍くなり従順だ。借りてきた猫のように。


 だから私が忠告しなければいけません。



 おそらく、聞く耳を持たないだろう。でも、心の片隅で残っていたらと玲奈は思う。


 たとえその事で、種次が玲奈の事を一層毛嫌いしたとしても。


「いつまで一さんの言いなりですか。このままでは種次が取り返しのつかないことになってしまう気がします。もう一さんとは会わない方が」


「言いたいことはそれだけか、なら帰るのだよ」


 玲奈のそれには答えず、すっと無表情になり、帰ろうとして、立ち止まる。


「兄さんの悲願のために、もう取り返しのつかないところまでいるのだよ。僕にはもう関わるな」


 答えを聞かず、種次は去った。


 玲奈はベンチで一人取り残される。


「変わってないですね。嫌になるくらいに」






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