夜にて09
玲奈が言うより先に種次が口を開く。
「口止めはされていないから、言うのは吝かではないが、見返りは何なのだよ。まさか、「只」で言わせるほど傲慢ではないのだろう?」
種次は一と同じ動作、眼鏡の中央を押し、交渉に移る。
フェイルゲームの人員と作戦、九月にあるクラブ対抗戦。
種次はクラブの参謀だと自覚している。そう見せているし、話し合いの場には積極的に参加していた。
フェイルゲームの事は人員以外クラブの面々は知らないが、フェイルゲームの話し合いはセットしてあった、録音の『魔道具』によって全部知っている。
その時に『裏』クラブの存在と人員を知った。
クラブ対抗戦は、『全員」で話し合っているので、全部知っている。
クラブの為ではなく、一のため、より有利な交渉をしようと種次は思っている。
クラブのメンバーがこの場にいたらそこら辺を考えないといけないが、玲奈が呼ばれたので、遠慮することはなかった。それは全部ばれているからだ。
玲奈が何か言う前に種次は話した。また、玲奈がお節介で、あちらに有利な事を言うのだろう。
そういうところが種次は昔から嫌いだった。
頭が回るし、性格も良い。しかし正直すぎるため、自分に不利益なことも平気でするし言う。
せっかく天音のクラブと学園長派を辞めたのだ。もう関係ないことだし、『沈みかけた船』にわざわざ助言する必要などないというのに。
そこが玲奈という人間であり、種次が根本的にあわず、許嫁解消して良かったと思う点だ。
結婚するならもう少しずる賢い人間の方がいいと。
顔にですぎなのだよ。
玲奈の表情はありありと不満げだ。
それを意図的に無視し種次は返答を迫る。
「それについては、聞いてから適切な報酬をあげたいと、私どもは思います」
花の物言いに種次は鼻で笑う。本当になめていると。
種次は天音の偽物だと疑い、玲奈が言おうとしたことを予測して、なるほどと思う。
ここまで『追いつめられて』いるとは知らなかったのだよ。
「論外なのだよ。それで納得するのは、交渉を知らない子供だけなのだよ。具体的な事をお願いするよ天音生徒会長」
シンプルに説明し、天音に対し問いかける。
本来、天音なら言わなくても分かることだ。魔法契約書を交わさず、後出しで報酬を提示し渡すなど信じられるはずがない。相手を信じるなど交渉事では愚の骨頂。まして敵との交渉では論外だ。
「実力行使で聞いてもいいのですよ」
「それができない事は『貴方』たちが一番理解していると思うのだよ」
天音と種次の視線がばちばちと交差する。
先に折れたのは天音だった。
交渉事は、隙を見せた方が不利。種次がキャスティングボードを握っていた。
「分かりました。まずは貴方の要求を言ってください」
やはり、一筋縄ではいかないかと天音は思う。
花にはそういうよう指示を出した。玲奈なら言ってくれると期待していたが、種次が阻止をした。
玲奈は、御影のクラブと協力関係にあるが、知らない可能性がある。
御影のクラブで一番交渉に応じる可能性が高いのは種次だ。
そこで天音は団に頼み、ここに呼び出した。なにも報酬を渡さず全部聞き出すのが一番良かったが、それは無理な話だった。
狂い始めているとか焦っているとかではなく、立場が低いものに対しての適切な交渉術だった。
本来はここに来た時点で成功していた。交渉ではなく尋問として。舞先生と契約したことを悔やまれる。
種次達は契約した事を知っていて脅しも効かず、後出しも断られた。玲奈なら言ってくれるであろう甘
さも天音の中には少なからずあったが、そこは種次が視線で制し不満げながら沈黙を貫いている。
やはり他の人の方が良かったのでしょうか。今更いっても仕方がない。そこで天音は通称の交渉に切り替える。
種次は一と似たテーブルに肘を乗せ、その上に顎を置くポーズで言う。