夜にて08
玲奈はとある場所にいた。
あの時、天音達と擦れ違った時、会話はしなかったが、メモがいつの間にか入っていた。
『午後9時、ロビーにて待つ:天野川天音』
玲奈は迷ったが、行くことにした。
罠だとしても、舞先生と契約して、フェイルゲーム前は「こちら」に危害を加えられないようになっているし、どうして天音さんらしからぬ軽率な行動をしたのか聞きたかった。
三十分ほど前にきて、玲奈はロビーの椅子に座って待っている。何か事件があったらしく、騒然としていた。
おそらく御影絡みだろうと、玲奈は確信する。直接の原因ではないのかもしれないが、絶対に巻き込まれているであろうと。
話が終わって帰ったら誰かに聞こうと玲奈は考えている所で待ち人がきた。
天音と花だ。共に元クラブメンバーで元同じ派閥。次期生徒会役員候補の玲奈は良くしてもらっていた。
「来てくれて嬉しいわ」
「いえ、私も言いたいことがありましたから。何処で話し合いしますか」
「会議室をおさえました。ついてきてください」
どうやら、本当に話だけみたいだ。
用心はしているが、二人ともラフな格好だった。
「心配しなくても、今日は話だけです。離れても後は同じ派閥。玲奈の近況を知りたいでけです」
玲奈の緊張が伝わったのか、天音はやんわりと和らげる。
「気にかけていただきありがとうございます。天音さん」
玲奈は感謝の言葉を口にするがやはり何か変だと、玲奈は思う。
何故なら、『明らかに嘘だと分かる事』を口にしたからだ。
一体なにがあるのでしょうか。
疑心暗鬼で玲奈は会議室に入った。
やはりいましたか。
そこには、団がいて、上座に座っていた。
「待っていたぞ」
予測していた通りだった。
話し合いの場に団がいない理由はなかった。
そして。
なぜ貴方がここにいるのですか。
下座の一席、そこには種次がいた。
こちらをみずに無表情を貫いている。だから感情は見えない。
種次の一への崇拝は、玲奈はよく知っていた。元許嫁で種次とは幼少の頃からよく会っていた。
種次の話題はいつも兄である一の事だ。まるでこの世のものとは思えないほどの話しよう。
それこそ神か仏の話を聞いている感覚だった。
そんな種次が、一を裏切るとは、玲奈は到底思えなかった。
一は、現在天音と覇権を争っている。そんな敵に塩を送る前はしないと思うが。
腑に落ちないが、種次の横に玲奈は座った。
上座に団と天音、真ん中に花と桃子、下座に種次と玲奈の配置だ。
「まずは、種次さん、玲奈さん呼びかけに答えていただきありがとうございます」
二人は軽く会釈する。
玲奈はごくりと唾を飲む。
これからが本題だ。
「お伺いしたいことは、フェイルゲームの御影さんの人員、作戦、クラブ対抗戦メンバーの人員と作戦内容、裏クラブの存在とメンバー、知っていること洗いざらい話してください」
舞先生との契約内容は『フェイルゲーム』前まで、御影やその仲間に危害や邪魔をしないこと。
作戦内容やメンバーを『聞く』のは違反にならず、他の事やその後の事について根掘り葉掘り聞くこともまた違反にはならない。
危害は加えないつもりだ。最も、話さないといつまでたっても帰れないが。
どうして、こうなったのだろうかと玲奈は思う。
あまりにも余裕がなさすぎる。
それほど御影の力を恐れているのだろうか。
種次がいたのは何故か、玲奈には分かった。
こんな事をすれば、さらにつけ込まれる。
種次は内心ほくそ笑んでいることだろう。
そんなことを分からぬ天音ではなかったはずだ。
「どうしました。早くいいなさい」
花は急かすように言う。
団も黙りだが無言の圧力をかける。
私がいたときよりも殺伐としてますね。
辞めた今だからこそ客観的に見える。
このままでは、派閥は間違いなく壊滅する。




