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海にて03


 流石五つ星のホテル専用の海の家だと、御影は感心する。


 海の家というより、コテージや別荘だ。


 そこのエリアは複数のコテージがあり、一つのコテージを夜まで借りている。


 みんなはすでに海に行っている。


 ここにいるのは御影と、岬だ。


 一緒に海に行こうと誘われたが、後で行くといって、御影は断った。


「どうした、俺が帰ってきてからおかしいぜ」


 御影が気にかけていたことだ。


 元気がなく、言葉にも歯切れがない。


 今日もみんなが海に行くなか、一人だけここにいようとした。


 いや、大人組はここでゆっくりしたかったが、翼は雫が誘い、舞先生は気を利かせてここにいない。


「ずっと、謝りたかった、私のせいで取り返しのつかないことになる所だった。舞さんにも多大な不利益を与えて、御影にも迷惑をかけた。洗脳されていたとかじゃなく私の責任。だから、ごめんなさい」


 岬は謝る機会を窺っていた。御影はそんなことはなかったが、岬自身蟠りがあった。まるで友人と仲違いしているかのように。


 一方的なぎくしゃくであったが、このままでわ嫌だと岬は思った。


 フェリスのふてぶてしさがある意味羨ましかった。


 ここに来たのも、謝る機会があると思ったからだ。


 周りに気を使われたみたいだが。


「それは俺の責任だ、岬が気にすることじゃない。岬は引き留めてくれた。洗脳されている中、それにあらがえる人間はなかなかいない。それよりもかしこまった態度とられると、むず痒い。いつもの毒舌な岬の方がやりやすい」


 たまにはいいかもしれないが、ずっとだとやりずらい。御影としては早く元の状態に戻ってほしかった。


「アホ影のくせにバカ影のくせに・・・・・・この岬様の心を惑わすとわ」


 それは岬なりの照れ隠しだ。現に顔が赤い。


 ほんとに御影は天然のジゴロみたいだ。人の心にすっと入っていき、頼りがいがあって、包容力もあり、なにを言っても受け止めてくれる。


 おそらく、御影は本心を言っているのだろう。本当に自分が一番悪いと思っており、舞先生もそうだが、他人に責任転嫁しない。


 年は岬の方が上だが、精神的には御影の方がずっと上に感じる。


「そうそうその調子だ。もういつもの岬に戻れるか」


 わかっているかいてないんだが、御影はからからと笑う。


 岬がいつもの調子に戻りやすいように。


「今日一日で戻す。ありがとう、孤児院のこともスラムのことも、すごく嫌みったらしくてさらっとかっさらっていったのは何様かと、ナルシスト様かと、中二病かと思ったけど」


 本当の自分は素直じゃない。普段は分厚い猫を被っている。だから、謝れる。


 心を許せる相手には、毒舌が先行して、なかなか素直に謝れない。


 ニヤリと笑う岬だったが、それは素直になれない自分らしい。


 本当は凄く感謝していた。孤児院は元より、御影はスラム全体のことを考え行動している。自分ができなかったことを本当になんでもないようにさらっと成し遂げたことには悔しく思うが、ギーレンから御影の計画を聞かされ、そう思っていた自分のことが恥かしくなった。


 スケールが違った。上に立つものはこういうものだと思い知らされた。


 スラムは今確実にいい方向に向かっている。今は応援したい気持ちだ。


「まぁ、悪かったな言わなくて。少し急ピッチだったんで、誰にも言えなかった。舞先生にもな。俺はどん底の時、『スラム』に助けられた。だからたとえ違うスラムでも助けてやりたい。俺の力の届く限りな。岬も参加してほしい、孤児院を守ってきた一員兼事務職として」


 御影とギーレンは新たに組織を作るつもりだ。


 トップをギーレン、相談役を御影、幹部にミュンや院長先生、ギーレンの信頼できる仲間。


 そこに、岬も誘うつもりだった。だから、ちょうど良かったので、今御影は岬を誘った。


「もうどっか行け、あほったれ影」


 そっぽを向いて、岬はそれだけ言う。


 御影は察して、コテージから出た。


 どうして御影は、さらっと、言ってほしかった言葉を言ってくれるのだろうか。


 御影に自分の涙を見られたくなかった。


 本当のことを言えば、自分も参加したかった。御影と一緒にスラムを変えたかった。


 だから本当に嬉しい。自分はもう孤児院にとってもスラムにとっても必要のない人間になってしまったと思っていたからだ。


 今日は言えなかったが、今度言おう。岬の返答はもう決まっていた。また毒を吐きながら、言うんだろうなと思いながら。



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