エピローグ
~深夜~
あれから、翼はギルド長と共に去っていった。その顔は清々しいほど晴れやかで、今から審判を待つ人の顔ではなかった。
ギルド長も翼に関しては情状酌量の余地があるというのでどうなるかは分からないが。
ディーノの傍らに清音がぴったりと装い、ダンジョンルートのメンバー達がにやにやしているのが印象的だった。
それから、みんな疲れているという事もあり、話もそこそこお開きとなった。
そして今、御影は保健室にいた。
「舞先生には、今回の件でだいぶ迷惑をかけました。すいません」
「そう思うのなら、わざと逃がさないで欲しかったぞ」
「分かってたんですね」
そう、ある条件を付けて、御影はⅪを見逃した。
黒の世界で御影は取引を持ちかけた。
「捕虜の男と、お前を逃がしてもいい。時間からして持続できるのは後五分ってところか、再度使えるのは一日後か、世界が晴れたら、お前は確実に捕まる。他のメンバーもこちらに向かっている。お前に勝ち目はない。俺と取り引きすれば見逃す。少なくとも『破滅の十二人』幹部で初の逮捕者にならなくてすむ」
「男は死んでいる。お前を殺す」
Ⅺはかなり焦っている。御影の言っていることは図星だった。一回使えば、一日は使えないし、世界が晴れれば、ディーノも来る。舞先生もいるし、目の前の御影も。
自分が捕まれば結成以来初の幹部逮捕者。汚名どころの話ではなく、除名と粛正の対象になる。
幹部同士謎に包まれた部分は多いが、少なくとも年に一度は会うし、素顔も知っている。Ⅺ自身、何人かは友人関係であったり、協力関係にあったりしている。
言うつもりはないが、脳から直接聞く魔法もある。捕まれば破滅だ。
「できないのは分かっているだろう」
御影はなにもかもお見通しだった。
Ⅺに選択肢は無かった。
「条件は」
十一の顔は顰めっ面で御影の提案を受け入れる。
「それは・・・・・・」
「条件つきで逃がしました。その条件は・・・・・・来たみたいですね。すいませんここ以外、『話せる場所』顔が思いつきませんでした」
音もなくその人物はやってきた。
さしもの舞先生も驚く。
噂をしていた人物、Ⅺだった。漆黒の死神仮面を被っている。
条件の一つ、話し合いの場を持つ事。指定した時間と場所は、深夜0時、『保健室』だった。
保健室には舞先生の根城で、色々な魔道具が設置してあり、ここで話したことは外部には漏れず、悪意があるものは入れない。
Ⅺに敵意はなかった。
というのも、御影が持っていた魔法契約書にサインしたからだ。
御影が指を鳴らすと、眠らされている第八席の姿が現れる。
ニナと第八席の遺体はギルドが持って行った・・・・・・複製魔法で御影が作ったコピーを。
黒の世界に覆われた時、御影が本物を別空間に隔離した。
ニナの方はある場所に眠らせておいてある。
第八席を十一に差し出す。
無言で第八席をベットに眠らせ、そこの端に座る。
立ち位置は、ベットに十一、デスクの椅子に舞先生、対面の椅子に御影、ちょうどトライアングルの形だ。
「用件は」
さっさと終わらせたい十一は早々にきりだす。
場所と時間だけで条件は聞かされてなかった。
「用件は二つに依頼一つだ、一つは一連の黒幕。二つ目は龍我村村を滅ぼした人物を教えてほしい。対価はこれだ」
御影は虚空から複数のお盆を取り出す。
スラムに渡したものと同じ者、御影にとってみれば作ること事態簡単で、ものの一時間で完成させた。
十一は驚く。魔道具は数多く見る機会はあったが、こんな魔道具初めてだった。
魔力で食料を自在に生み出せる。まさに夢のようだった。最果街では特に。
故に、どれだけこの取引に重きを置いているのかわかる。
これは正当な取引と依頼だ。イーブンではなくこっちの方が条件的にはいいぐらい。
「私が知っているのは・・・・・・」
一時間ほどしてⅪと第八席は去っていく。非常に濃密な時間。これでようやく全てが知れた。
舞先生が入れてくれたコーヒーで少しくつろぐ、ようやく一段落がついた。
「全く、人が悪いぞ。こういう事は事前に言うべきだ」
「すいません、決まってから色々時間がなかったものですから」
舞先生は本気で怒っているわけではなく、ちゃかす感じだ。これだから御影のそばにいるのは面白いと。
そのおかげで、多くの重要な事が知れた。
「メダル分の事は何でもします、その話し合いは、今度でお願いします」
今回、御影を救出するために、舞先生は大部分のメダルを失った。
Ⅺの情報だけで対価を支払ったとは、御影は思っていない。
しかし今夜はまだ『やる』事がある。
御影はコーヒーを飲み干しデスクの上に置く。
「行くのか」
「ええ、押しつぶされそうな仲間が待ってますから」
どうしてこんな事になったのだろうか。
プゥはどこかの屋上で夜空を眺めながら
今回ピエロの仮面の男の六回目の依頼で仲間邪魔をすることになった。魔法陣の入れ替えや出現はプゥの仕業だ。
みんな無事だったから良かったが、一つ間違えれば誰かが犠牲になっていた。
心が軋み、もう耐えられそうにない。
ふらりとフェンスの方に歩こうとした時、誰かが手を握った。
「み(「御影さん」)」
そう現れたのは御影だった。それは全て分かっているような感じだった。
そっか、知っちゃったんだ。プゥの心にすとんと落ちる。
「ご、も、み(ごめんなさい御影さん、もう、みんなといられない)」
プゥは泣いていた。良心の呵責と申し訳なさと罪悪感と。
「後何回依頼は残っている」
プゥは驚く、誰にも言ってない。それがルールだったからだ。
「大丈夫だ。ある人物から教えてもらった。契約には違反していない。指で教えてくれ」
契約違反はプゥから言うことで、他の人物教えてもらったら違反には当たらないことをすでに確認していた。
片手で四本指を立てる。
「そっか、プゥは俺達の大切な仲間だ。皆もそう思っている。どんな依頼きても俺が阻止する。プゥは何にも心配しなくていい、挑む形でどんときてくれ。俺が必ず守る。だから、又クラブに来てくれ、俺がいないとき、プゥがクラブに来なくて、皆心配していた」
「いほ、(いいのかな、本当に戻っても)」
「ああ、クラブにはプゥが必要だ。ムードメーカーで人一倍喜怒哀楽が激しい、そんなプゥが、何かあったら言える範囲で俺に頼れ、必ず何とかする」
「み(御影さん)」
プゥは御影にしがみつきわんわん泣く。
今まで溜まっていたぶんを爆発させているかのように。
これで、プゥはきっと大丈夫だ。プゥの問題は解決していない。でもプゥの心を救えて良かったと御影は思う。
やられたらやり返す、必ず報いを受けさせる、ナンバーⅥ。
Ⅺ一から聞いた黒幕の正体、それは『破滅の十二人』幹部の一人、ナンバーⅥだった。