その頃の御影08~極寒地獄02~
「うにゃん、暖かいにゃん」
御影が考えた作戦は単純だ御影の服の中にニャルコを入れる。
御影は極寒の対策として何十にも着込んでいた。
指輪の魔力が切れたときようの策だ。
暑さは耐えれば大丈夫だ。
『心頭滅却すれば火もまた涼し』ということわざがあるように、熱いと思うから熱いのであって、普通だと思えば普通なのだ。
幻覚魔法や催眠術といった類は脳の感じる部分に刺激して、おこしている。極寒の中、真夏だと脳が感じれば熱くなるし、真夏でも極寒だと感じれば寒くなる。激辛や酸っぱいものも甘く感じる。
脳とは、程良くいい加減なものだ。
まるで二人羽織状態の御影とニャルコ。
御影の体は分厚くて、ぽかぽかで、ニャルコは心も体も暖かく感じる。
一方御影は、そんなに寒くは感じていない。確かに寒いが、昨日同様、耐えられるレベルだ。
精神を制御するレベルではなく、普通に耐えられる。たとえ今半裸になったとしても、『余裕』で。
それよりも、ニャルコの毛は、風呂に入ってないせいか、固くごわごわしていた。
これが自慢の毛なのかと。
「にゃー、今変なこと考えているにゃー」
ニャルコの勘は鋭く、尻尾でぺしぺしと叩く。
「いや、本当に大丈夫かなと思ってな、顔とか寒いだろ」
極寒地獄になってから吹雪のように冷たい強風が顔にあたっている。
「にー、今のとこ大丈夫だにゃ前はでかくてごつい、にゃ影の顔でかからないし、スッポリ被っているから大丈夫だにゃ」
前方に御影、後方にニャルコの体制。身長差があるため、ニャルコがスッポリと収まっている形だ。
そのため風の影響は微々たるものだ。
でかい顔で悪かったなと、軽口はたたき、これからの事について考える。
御影が入ってから、もしかしたら入る前からなのかもしれないが一連の出来事が『破滅の十二人』の仕業なら、クラブの面々が危ない。
計画の段階で常に最悪の事態を想定して物事を考える。
『破滅の十二人』の実力を御影は知らないが、舞先生レベルを想定した。
その上で、考えた。
対峙すれば、数秒で殺される。束になっても適わない。実力は上がっているが、まだそのレベルに達していない。
故に、御影がいない時、いかにして『逃げる』かを考えた。
だから、ダンジョンに行く前、舞先生がいる保健室に『裏』クラブの面々を呼びだし、三種類の魔力玉を渡した。
即死以外なら、なにがあっても対処できるように。
『裏』クラブは、表のクラブより、かなり苛烈に鍛えている。
表のクラブが地獄の一丁目なら、裏は、地獄の五丁目ぐらいだ。
週三日、深夜から二時間、時間拡張でその二十倍。
訓練に参加しているのは、輝義と今日子と舞先生の三人。
輝義は、御影の攻撃で無くした部分を治す事を取引として、御影と契約した。
両方とも、強者から逃げきれるだけの実力にはなった。
三つ玉を使えばクラブの面々を助けてくれることだろう。最も今日子の方は出し渋るかもしれないが、ギーゼルに依頼して保険もかけておいた。後々のことを考えれば、やってくれるだろう。くれるよな。
脳裏にフェリスが浮かんできたが、気のせいだと御影は頭の隅に追いやる。
三つの玉は、守ると同時に、捕獲する為の三段重ねだ。攻撃に対する防御、負傷用の回復手段、御影か舞先生の所にいく強制転移。
直接対峙すれば、勝てると御影は踏んでいる。
『破滅の十二人』には聞きたい事がいろいろある。
でも、クラブの面々に危険をおかしてほしくない。
気持ちは半々ぐらいだ。
そろそろか。
御影は予感していた。
「喜べ、そろそろ来るぞ」
「にゃー、誰もいない・・・・・・にゃー化け物だにゃー」
横からひょっこっと顔を出し、突然現れた人物に驚く。
「全く、助けに来たのに化け物とは心外だぞ、思わず助けてあげたくなくなる」
「にゃにゃーごめんなさいだにゃこんなところに置き去りにされたら、にゃーは今度こそ死ぬにゃー」
絶対に離さないとばかりに御影にしがみつく。
「すいません舞先生、俺のミスです」
「馬鹿者、そこはありがとうだぞ。私はおまえの先生だからな。それよりも早く行くぞ、かいた汗を冷やすのにちょうどいいが、こんなところにいたくはないからな」
あれから舞先生は、全力でダンジョンをクリアし、岬に確認すると既に申請書は通っていたため、妨害を考慮して魔法玉を使い、ここに来た。
舞先生の玉のみ御影の周囲に転移するよう指定されているため、突然現れたのだ。
それから、ダンジョンのクリアはものの数分で終わった。
御影がニャルコを背負い、扉を指定して、舞先生が解く。
どんな問題でも簡単に正解し、クリア部屋に到達した。
クリア部屋はペナルティも解除され、ニャルコは御影の服の外に出ており、御影もいらないものは亜空間庫にしまった。
クリア報酬はキューブの攻略書。問題の解答やペナルティ等々について、ここでおこる全てのことが書かれている。
そして、知識の指輪。何でもとはいわないが、かゆいところまで細かに知りたい情報を教えてくれる指輪。はっきり言って御影はいらなかった。攻略書複製魔法でコピーしたし、知識の指輪はあまり必要性を感じない。
「にゃーは何にもしてないにゃー、本当にもらっていいのかにゃー」
といいつつも、指輪をはめ、攻略書はがっちり掴んで離さない。
報酬は一つしかなかったため、気前よく御影はニャルコにあげた。
別れの時だ。
「色々大変だったけど、楽しかったぜ、俺達は戦友だ。機会があったらまた会おうな」
ニャルコと出会ってからの四日間は本当に濃かった。時に馬鹿をやり、時に呆れ、時に怒り、時に笑い、時に本気で戦い、共闘し、『キューブ』というダンジョンに一緒になって立ち向かった。
御影は心から思う。
その言葉を聞いてニャルコは涙ぐむ、
泣いちゃだめだにゃー。心細くても最後は笑顔で別れるにゃー。
ぐしぐしと目をこすり。
「にゃー!バイバイにゃー、にゃー達の友情は永遠だにゃー、絶対会おうにゃー」
ニャルコは手を振り、魔法陣の中に飛び込む。
さてと。
御影は気持ちを切り替える。
「どこまで進んでますか?」
「終わりに近づいているぞ」
それだけ聞ければ十分だった。
こうして御影は、『キューブ』を脱出した。
最終決戦の三十分前の出来事。