ダンジョンでの戦い11
「いったいどうかしたんですか健二先生」
いわれた言葉が信じられなかった。
生徒達にもいつも丁寧な言葉遣いで接している健二先生が言ったとは、言われた清音も耳を疑った。
「優しくしてやりゃつけあがりやがって、この俺を差し置いてあのタイガーとかいう舐めた冒険者崩れと付き合っているんだろ。この財津家の僕よりもあんな三下の方がいいのか」
健二先生はタイガー先生のことを口汚く罵りる。
普段は温厚な顔も、般若のようだ。
確かに、清音と健二先生の婚約話の話があった。
二階堂家と財津家は旧家で、格もあい、年も近いということで、二階堂家側に婿養子にいくということで両親達の間でかなり話は進んでいた。
清音もその事について反対はない。長女なので婿養子として来てくれるのならということで了承した。三年前の話だ。
学園を卒業したら結婚するという約束で、ここにきた。健二さんも仲を深めるということで先生として赴任した。
先生としては良い先生で、清音にも優しく、大変良くしてくれたが、価値観の違いで、合わず、財津家側から断ってきた。
清音は少しほっとした。清音の方から断れば失礼にあたる。相手の過失があったのならまだしも、性格の不一致や価値観の違いぐらいは我慢しなければならず、少し将来を悲観していた。
清音の旦那像は、ダンジョンに一緒に行ってくれる、勇敢な男だ。
嘘でも良いから、一回だけでもいいから、一緒にダンジョンに行ってほしかった。
優しさだけでなく、時に喧嘩して、言いたいこと言い合いたかった。
健二さんの言葉は優しけど、どこか軽い空々しい。
あくまで清音の感じた事だが、健二という男の本質を射ていた。
「えっと、財津家からのお断りで私達は終わったはずです、本当にどうしたんですか、誰かを貶すなんて健二先生らしく」
清音は困惑と同時にあることを思った。
もしかしたら、こちらが本性なのかもしれないと。
「あっん、俺の何が分かる。何が結婚するまでしないだ。何がキスは結婚式までおわずけだ。この俺を馬鹿にすんじゃねーぞ。女は黙って○開けばいーんだよ。なにかまととぶってんだ。○女じゃねーんだろ、あれか、愛しのタイガー先生に捧げちゃったとか。チッ、せっかく俺が財津家の金を使って、おまえの仲間をぶっ殺してやったのによぉ。あーあ、あの時、○っとけばよかったかな」
パリン心のガラスが砕けた音がした。
前半も傷ついたが、後半部分、清音の頭が理解を拒絶した。
それじゃあまるで、そんな下らないことのために・・・・・・仲間達は死んだのか。
「あぁぁぁぁ」
清音は頭を押さえうずくまる。
私が受け入れてさえいれば、仲間達が死ぬことはなかった。私の・・・・・・責任だ。私のせいだ、私と関わっていなければ仲間は死ぬことはなかった、私の・・・・・・。
「あっ、知らなかった?ごめんねー。あいつらもほんとばかだよな。お前に有利な情報があるとかいったらほいほいついてくるんだもんなー。裏の人間雇ってこれよ」
健二先生は首をかっきるポーズをする。
「傑作だったぜ。『ころちゃないでくれー』とか、『ゆるちてくだちゃい』とか。お前にも見せたかったよ。ちょっと裏工作したら簡単に信じちゃって、お前等全員間抜けだなぁ」
「仲間の侮辱は許さない。私と一緒に死んでください」
私は何をいわれてもいい。健二先生のプライドを結果的には傷つけてしまったのだから。だけど、仲間を殺したことと侮辱したことを許せなかった。
健二さんを殺して私も死ぬ。
私は生きてちゃいけなかったんだ。
すいません、タイガー先生。
立ち上がり、清音は戦闘態勢に移ろうとしたが、体に力が入らない。
「ようやく効いてきたか、俺は藤島家と結婚するんだ。こんなとこで死んでいー人間じゃない。お前が一人で死ねよ」
密かに用意した青い花の棘『ブルーノーズ』をうずくまっているときに投げ刺した。
即効性があるといわれたが、健二先生は内心冷や冷やしていた。
偽物を掴まされたんじゃないかと。
でも、賭に勝った。
藤島玲奈は○ょんべんくさい餓鬼だがルックスだけはいい、俺にはこれからが輝かしい未来が待っている。汚点は消すに限るからな。
「タイガー先生!!!!」
清音の頭に思い浮かんだんのはその人物。
「こねぇーよ。あっちは今頃お先に死んでいる。裏の人間を雇ったからな。お前も仲良くあの世にいけぇぇぇぇ」
健二は持っていたナイフを振り下ろす。
清音は目を瞑る。
「呼んだかぁ」
タイガー先生は健二の顔面をぶん殴った。




