ダンジョンでの戦い10
「清音ガァール、前から言っているだろう、一人じゃ行くなと、お前は生徒会長だぞぉー、この学園のトップなんだぞぉー、いけないんだぞぉー」
受付にいたタイガー先生が、これ見よがしにちゃかす。
清音はタイガー先生が心配しているとわかっている。こうやって心配してきてくれているのもそうだ。
そんな気遣いが嬉しいと同時に、申し訳なく思う。
「すいませんが、そればかりは聞けません」
申し訳なさそうに頬を掻く。
ダンジョンに行っているときが、なにもかも忘れられる唯一の時間で、精神的にまだつらい清音の唯一の癒しだ。
一昨年の隼人、去年の京。優秀な生徒会長だった。方向性は違うが、学園生達を纏め上げ例年よりも『死亡率』が低下した。
フェイルゲームでもそれは同じだ。
京先輩の任期が終わった後、爆発的に増加した。ばたばたと人が死んでいく。まるで任期が終わるのを待っていたかのように。
清音の重圧は相当なものだ。
周りは敵ばかり、それでも生徒会長として先輩達以上を目標として、ぼろぼろな精神で立ち向かわなければならない。
何度も思った。ダンジョンで死んだらどんなに楽なんだろうかと。
そんな時、タイガー先生に言われた『言葉』が胸に残っている。
ダンジョンは『自殺』しに行く所じゃない。ダンジョンは『生きる』為に行く所だ。お前がつらいのは分かるが、心の中は自分が治していくものだ。残念ながらよぉ俺たちじゃ力になれねぇ。相談にのることはできても乗り越えるのは自分自身だ。俺もいろんな人達を失ってきた。親友、恋人、家族。冒険者なんてものはくそみてぇなもんだ、なるべき職業じゃねぇ。恨み恨まれ、取って取られて、僻みと嫉妬と、ちっぽけなプライドと。だかよぉ俺はどうしようもなくダンジョンが好きなんだ。モンスター達との真剣勝負、罠に謎に心の試練。ダンジョンに行ったら生きてるって感じがするんだ。
一つ一つ、ダンジョンが違う。まさに大冒険ってやつよ。行ったダンジョン一つ一つに物語がある。似合わねーだろ。
それによ、死んでいった者達のために、俺は元気で生きなきゃいけない。そうしなきゃ、心配でおちおちあの世にいけねーだろ。
「かってーな。もっとリラックスしようぜぇー」
そういって、タイガー先生は清音の肩をほぐす。
「くすぐったいですよタイガー先生」
清音は身を捩って逃げる。
「もう用事ないんだろぉ、飯食いにいこうぜぇ」
「奢りですか?」
「まぁ・・・・・・オテヤワラカニタノム」
後ろを向いて財布の中身を確認しているタイガー先生に、清音はくすりと笑う。
後ろの気配に気づけば、後の悲劇は気付けたのだろうか、それは分からない。もう起きてしまったことだから。
タイガー先生に夕食をご馳走してもらった帰り道。
待ち構えるように人が立っていた。
「けんちゃん?」
清音は首を傾げる。
健二の雰囲気が違った。
いつもポワポワと虫も殺せない様な癒し系だが、何か思い詰めたような表情。
別人かと思えるぐらいに。
「ちょっと、清音さんに用事があって待ってたんだけど、何処行ってたの」
黒い感情を感じる。
「すいません。ダンジョンに挑戦した後、夕食を食べに行っていました」
自分に非があるため素直に謝罪した。
「誰とだい?」
「タイガー先生とですが」
やましいことが何一つないため躊躇することなく答える。
それがいけなかったのか、空気が悪くなる。
「あまり生徒が先生と夕食をともにするのは感心しないな。清音は生徒会長だ、生徒の模範となる立場なんだよ。僕も心配している。あんなことがあったから、誰かに縋りたいのもわかるよ。僕なら担任だし力になるよ。それとも今年新任で入った先生とそんなに仲がいいのかな・・・・・・この僕よりも」
最後はぼそっと小声だったため、聞き取れなかった。
「すいません軽率でした。健二先生にも感謝しています。ここまで持ち直したのも先生のおかげです。ただ、タイガー先生も私の恩人なんです。タイガー先生の言葉で救われました」
そう言って、清音はすこし照れくさそうに笑う。
ぶちっとした音が聞こえる。
我慢の限界だった。
「このクソ○ッチが」