橋での戦い06
私は人をいたぶるのが好きだ。
火傷した後の絶叫、やめてくれとの懇願、ていをなしていない声。
私にとっては極上の音楽だ。
匂いも好きだ。人が焼ける臭くて香ばしい腐敗の匂い。なんて香しく甘美な匂いだろう。
ルックスは、自分でいうのもなんだが良い方だと思う。サラサラした艶のあるロングヘアに、マシュマロのようにふんわりもっちりした肌、小顔で、綺麗系より可愛い系。魔法使いのファッション雑誌にも何回か載ったことがある。
学園に入って、エンドワールドに入ったからは、裏の顔をなかなか出せない。
ストレスがたまる。
盗賊や犯罪者の拷問は、その反動でついついやりすぎてしまう。ついたあだ名は『火葬姫』だ。
失礼しちゃうわね全く。
まぁ、抵抗しないのも良いけど、たまには気骨のある奴を拷問したいわね。どっかいないのかしら。
そんな私にチャンスが訪れた。
『隼人』主導の都市ギルドへの革命。本来なら許されざる行為で、成功したとしても、国やギルド本部から排除されるが、今回は裏に大物がいるため、成功すればお咎めなしになるようにしてくれるらしい。
私も『本命』の所に行きたかったが、よりにもよって、一番来る確率が低い都市門前。
せめて速道や隼人の所でも良かったが、本命以外はじゃんけんで決まった。
いたぶることもできない。誰も敵は来ない。チャンスはあったはずなのにほんっとやになっちゃう。
そんな時、大チャンスが訪れた。
三流冒険者が吉報を持ってきた。
「今機嫌が悪いから、良い話がなかったら殺すから」
「ひぃぃぃぃ」
冒険者は怯えうずくまる。
ニナの噂は冒険者の間では有名だ。
もっとも、悪い噂しかないが。
この怯えようから、相当なものだ。
「言っとくけど、言わなくても殺すから。はいっ冒険者さんのぉちょっといいとこみてみたい、はい、3、2、1、きゅう?」
「つっつっっ、翼さんが裏切り、ぎゃあぁぁぁぁ!!!!」
「今二つな匂いね、でもまぁ、半殺しで許してあげる。今最高に気分がいいからぁ。あー今から、感じちゃうわね」
ニナにとってのエンドワールドは隼人以外興味はない。
裏切り者がでたら殺してやろうと常日頃から思っていた。
それはおそらく翼だろうと。
はぁ~今から楽しみだわぉ。
「はぁ~か・い・か・ん」
物見台の上から翼めがけ魔法を放つ。
あまりの楽しさに、ニナは胸をきつく抱きしめ、顔はいっちゃっている。
翼が女の子を庇っていることはわかっていた。
翼らしい甘っちょろい約束でもしたのだろう。
そんなもの破ればいいのに、クソ義理堅い。
でもいいわ、すぐには殺さない。じわりじわりと焼き殺してやる。
そして、不思議なことが起こった。
傷が治っている。
全ての特殊魔法をサラは知っているわけではないが、噂でもそんな魔法は聞いたことがない。
都市伝説級の眉唾ものの話だ。
まぁいいわ、拷問した後吐かせてやるわ。
絶望的な顔を見るのも好きだけど、早くこっちに来い。
早く早く、私が飽きて、全てを消失する前に。
きっかけがないと動かないのはニナも分かっていた。
相手も馬鹿じゃない、無策で突っ込めばいい的になり自爆行為だ。
橋を焼け落とそうかしら、早く聞きたいわ彼女達の奏でるメロディを、仲間殺しはまだやったことがないわ、どんな快感なんでしょうね。もう限界だわっ。
快感と快楽に身悶え、熱に浮かされ、自制できず炎魔法がニナの上に集まりだした時それは起こった。
普段のニナなら気付く、しかし彼女は油断した。
圧倒的な勝算と、自信の感情から。
物見台が崩れ去った。下からやってきた四人の少女達によって。
今日子達が出た先は、学園と都市を結ぶ橋の都市側の正門より横付近、物見台からは死角だ。
今日子達が見たのは、何者かが炎魔法で、味方を攻撃している所。
「・・・・・・あの炎魔法はニナ様」
「おそらくその通り。エンドパーティーで魔法使いは一人しかいない。でもなんか変、仲間割れしてる」
「その通りじゃな。あれは翼殿じゃ、風花達を守っておるぞ」
「とりままま、様子をうがうううす」
気付かれないよう小声で、気配を隠し、様子を窺う。
玲奈達が作戦会議をしているとき四人も作戦会議をしていた。
「とりあえず、風花達の作戦が終わり少ししたらこっちも作戦を実行する」
「・・・・・・反対」
水流は同じ炎魔法の使い手で、憧れの存在のニナに危害を加えるのに難色を示した。
「なにを言っておるのじゃ、わっち達の仲間が殺されようとしておるのじゃぞ。助立つするのが仲間じゃろ。それにどっちみちばれたら殺されるのじゃ」
今日子はリスク回避で、都市に入ろうと言いたかったがいえる雰囲気ではなかった。
前の水流なら、問答無用でニナの所にいき、加勢していた。
しかし、今は・・・・・・。
「・・・・・・承知」
仲間の方が大事だった。
「ほんととに、やるっすか先生」
「やる。このままじゃ、風花達がやられる。仲間のピンチは見過ごせない」
「よしわっちはいつでも大丈夫じゃ。下水道の鬱憤を晴らそうぞ」
「・・・・・・準備完了」
美夜は頷き、手信号で合図する。
5、4、3、2、1、。
「・・・・・・コキュートス」
「・・・・・・フレアインパクト」
「剣舞十連」
「デスサイズ」
一人一柱、シンリィの氷魔法が、水流の炎魔法が、美夜の剣舞が、今日子のどこから出したか分からない、鎌での攻撃が、それぞれの柱を破壊し、物見台は崩れ去った。
もし風花達が作戦を失敗したら、すぐさまニナに消される。
だから美夜達は風花達に命運を託した。