スラムでの戦い03
「臭い、臭いのじゃ、わっちの鼻がひん曲がるのじゃ」
「・・・・・・臭」
「仕方ないけど、鼻がもげる。服廃棄処分決定」
「仕方ないないないが、ブツクサ言わず行くくす」
今日子達はスラム地下の下水道を歩いていた。
シンリィ達三人ははげんなりとした表情で、足取りが重い。
なんといっても臭いがきつい。生活用水の様々な臭いが、混ざり合って、腐敗しあって、激臭で一種の凶器だ。
三人は臭いでノックダウン状態、危うく幻覚が見えそうなレベル。
こんな臭いは今まで体験したことがなかった。
軟弱っすね。
白けた目で今日子は先を先導する。
臭いなんてものは我慢すれば耐えられる。毒性があるなら話は別だが、下水道の臭いぐらいでギャーギャー騒ぐのは、まだ底辺になったことのない証だ。
幸せっすね、本当に。
美夜は中流階級で、シンリィと水流は村育ちで、そんな経験はない。
別にどうでもいいっすけどね。
臭いで誰も近寄らなくなったりとか、御影と再会するとき臭いで距離をとられたところで今日子の知ったことではない。
御影なら臭いどうこうで何かいう人ではないと思うが、年頃の女の子にはきついことだ。
ほんと面倒っすね。
今日子の頭の中に、成功した後、シンリィ達がいう事を想像して、ピックアップする。
三十分ほど歩き、目的の場所に着いた。
「この鉄格子をはずはずすと、お都市に入りまつるつる、用意はいーですかいかい」
三人の返事はなかった。屍のようだ。
鉄格子をはずした先は、坂のようになっていて、下水の貯まったところに入らなければならない。
三人の乙女たちにはかなりきつい。
「どうするする、べつにに、やめてもいいけどけど」
本音を言えば辞めた方が楽だった。すでに事態は終息の方に向かっており、・・・・・・行ったところでなにもない。
こっちは陽動みたいなもので、捕まらなければ何とでもなる。
三人は固まって話し合っている。普段はいがみ合っているシンリィと水流だが、このときばかりは肩を組んで歴戦の友みたいだ。
「どうするのじゃ、わっちはお嫁に行きたいのじゃ。あんなところに入ったらいけない体になってしまうのじゃ」
「・・・・・・下水女嫌」
「クリーンは使える?」
美夜は案を出す。もし使えるのなら、行こうと思っていた。使えないのなら、今日子にお願いして、次の策を用意してもあおうと思っていた。
クリーンは生活魔法で消臭や汚れ落としに使う魔法である。美夜も使えるが、あまり上手い方ではない。
「わっち使えるのじゃが、嫌じゃ、あんなところに入るぐらいなら死んだ方がましじゃ。わっちのもふりーな毛が、一時でもどぶ臭くなると思うと耐えられないのじゃ」
「・・・・・・同感。獣人あるある」
分かってはいたが、聞くだけ聞いてみた。
獣人は自分の毛を大切にしており、毎日の手入れはかかせない。
獣人は嗅覚に優れているものが多く、大体が人間の五倍だ。
例えクリーンで匂いや汚れは消せると分かっていても、そんなとこにはいるのは耐えられない。
ここまできたのが奇跡なぐらいだ。
はぁ~、ほんと厄日っすね。
今日子的には何十分でも待ってても良かったのだが、残念ながら決断の時だ。
「どうやらばればればーれ、もうすぐここに敵がせめてきしまうま。どうするんば」
時間にして後五分ほど。
もうすでに猶予はない。
行くか行かないか。
二つに一つだ。
「あ~あ~、分かったのじゃ、行くのじゃ、行けばいいのじゃ。こんな所で戦闘したり死ぬのはごめんじゃ」
「・・・・・・究極二択」
水流とシンリィも腹を括ったようだ。
「じゃあいくくくよ」
まず今日子が下水の滝に向かって飛び降りた。
「行くよ、あっちで待ってる」
間を挟まずに。次に美夜が。
「・・・・・・行く」
二分後にシンリィが
「・・・・・・のじゃぁぁぁぁぁ」
なかなか踏ん切りがつかなかったシンリィだが、足音が聞こえ、叫びながら飛んだ。