発見と舞先生が着いたダンジョン
かたかたかたかた。
どうやら上手くいったみたいだ。
女は事務仕事をしながらは内心ほくそ笑む。
女は事務科に勤務する、反クラブ派に依頼された人間だ。
与えられた任務は全て上手くいった。
後は、どうこの場を後にするかだ。
ちらりと周りを見渡す。
誰も見ていない。
「お昼行ってきます」
反クラブ派からたんまりお金をもらって、辞職しよう。
女は内心高笑いをしながら、事務科を後にしようとして、意識を失った。
次に目を覚ましたのは保健室。
なんでこんな所に。
起きあがろうとした所で、起きあがれない。
何故なら、体がベットに縛り付けているからだ。
ばれたのか。
女に緊張がはしる。
頭を左右に動かし、誰かいるのか見渡す。
『今は』だれもいない状態。
何とかして逃げないと。
そう思っていた時、保健室の扉が開く。
現れたのは、三人の『悪魔』だった。
そして知る。その代償は余りに大きかったと。
岬が思っている方法なら、事務科に協力者がいるはずだった。
しかし人数が多すぎて絞り切れない。
岬が分かったのは女が声を出したとき。
明らかに挙動不審だった。
おそらく素人。
後は簡単だ。
油断している所を麻酔針で刺し、レータが保健室に連れて行く。
「はい分かりました。保健室にある転移魔法陣に登録しましたので、そちらからお願いします」
岬は通信を切る。ほっと一息をつく。
ぎりぎりだったが、上手くやってくれたみたいだ。
後は私の仕事だ。
女は、頼まれたコードを入力して、指定された転移魔法陣に登録しただけで、どこの場所か知らなかった。
清音達が行ったダンジョンは特定できるので、保健室の転移魔法陣に登録した。
自分の席に着く。
パソコン型魔道具が四つ。
全てを同時に操る。
オペレーターの真骨頂だ。
何故ノンキャリアの岬が主任まで上り詰めることができたのか。
それがこのマルチタスク能力だ。
膨大なデータを処理し一つ一つ組み合わせていく。
見つけた。
舞先生の居場所。
千葉の港から三十キロの無人島にあるダンジョン。
ノンダンジョン・レベル三十八・挑戦型。
よりにもよってと岬は鼻に皺をよせる。
四十未満のダンジョンで別名がつくのは珍しい。
舞先生が転移したダンジョンもその中の一つだ。
その名も『万里の道』
モンスターもいない。罠もない。あるのは道だけ。しかも一直線。
しかしその道がやたらと長く、百キロほどある。
ゆえに、不人気のダンジョン。
いくら舞先生でも、脱出に時間がかかる。
無人島から脱出するのはもっと時間がかかる。
おそらく今ダンジョンを走っているところだろう。
舞先生がこの抗争に間に合うのはおそらく無理だ。
岬は、次の作業に移った。
「全く、・・・・・・のやつめ、見つけたら只じゃおかないぞ」
こんな事なら玲奈か風花のどちらかと変わればよかったと後悔する。
自分の考えを見透かされたみたいで、舞先生の機嫌は心底悪い。
こんなものは時間をかければ誰だってクリアできる。戦闘力がない人物でも。
こんな所はダンジョンとは舞先生は思わない。
実に無駄な時間だ。意味が分からないダンジョンだ。
走るしかやることがない。
早く助けに行かなければならない状況だが、最低でも三時間はかかる。
その間に全て終わっていることだろう。
勝つにしろ負けるにしろ。
切り札は用意したが、どうなるかは運次第だ。
最悪、私がいればいいが、御影がどう思うかだな。
舞先生さえいれば、『キューブ』クリアは造作でもない。
何故なら、舞先生はキューブをクリアしているからだ。
一回クリアすれば、次来た時、クリアするのは簡単だ。攻略特権の一つに問題集が貰え、舞先生は全部暗記している。
問題はクラブメンバーや、他の人達の生存だ。
全ての人間が生存できると思うのは、余りにご都合主義だ。
手配していても、必ず遅れやトラブルがあり、百%思い通りにいくなど『小説や漫画』だけの話で、誰かが人質にとられたり、やったりやられたり。
あちら側も本気なのだ、戦力もある。御影や舞先生がいればそのルートは大丈夫だが、必ず『犠牲者』がでるルートはある。
『エンドワールド』か、厄介だぞ。
あちらの主戦力はそのパーティーだ。
転移されるとき、その人物をみた。
狙いは分かっている。
二階堂清音の『殺害』だ。
クラブ派ナンバー二を殺せば、俄然として反クラブ派の勢いは増す。
おそらく誰かが焚きつけたのであろう。
こっちにしてみればいい迷惑だ。
『抗争するなら他でどうぞ』というのが舞先生の感想だ。
そのせいで、全部が全部危険だが、特に正門とダンジョンに行った人物が危ない。
スラムの方は、御影が色々と『貸し』をつくっているので、滅多なことはないだろう。
案内人の今日子も、スラムを熟知しているので、脱出はできる。
問題は正門とダンジョン。
正門は玲奈と風花では勝てない。
川辺にいた四十人の相手なら六割の確率で勝てると思うが、エンドワールドの一人に勝つのは一%もない。
それはダンジョンに行ったメンバーも同じで、『本命』だから余計に敵の戦力は高く、多く、橋の二人よりも間に合わない可能性が高い。
一キロ二分をきる、凄まじいペースで走りながら、舞先生は帰還してからのことを考えていた。
合理的に、最悪の事態を想定しながら。