橋での戦い01
どうするか。
舞先生は考えていた。
壊れた橋の向こう側に十人、川の向こう側に四十人。
強さはそこそこ、おそらくレベル三十台と五十台を主戦場としてる冒険者だろう。
舞先生一人だけでも勝てる。しかし玲奈、風花の二人に任せるには荷が重すぎるだろう。
正直、手早く終わらせて、次に進みたいのだが、問題は渡る手段だ。
橋の向こう側にいる十人を倒し、向こう側に渡るのは可能だ。
「向こう側に渡るのは可能か」
舞先生は二人に問いかける。
川の水深は二メートルほど。流れは緩やかだが、服を着て泳ぐのは難しく、向こう側に冒険者達がいるためいい的だ。
となると、五メートル離れた向こう側に渡る手段があるかどうかだ。
「私は大丈夫です」
まず玲奈が答える。
玲奈はある程度魔法が使えるため、やったことはないが、可能だと判断した。
「私は自信がないですけど、頑張ります」
風花がそう答える。
あれから魔法も練習したが、癒魔法と水魔法以外はなかなか進歩がない。
でも、御影さん以外にもいろいろ教えてもらった。
シンリィちゃん水流ちゃんには魔法を、美夜さんプゥちゃんには加速の技術を、カティナさんとお姉ちゃんには刀を振るときのアドバイスを。
だからやれる。
大丈夫そうだな。
二人の顔色を見て、舞先生判断した。
舞先生は手を挙げる。
「紫電の雷」
天気はいいのに、空から舞先生の手に雷が降ってくる。
「消し炭め」
まるで雲と繋がっているみたいだ。
プラズマ放流するような密度のそれを、向こう側に放つ。
もはや、取り繕うことなど必要はない。何故なら相手は、学生でもなく、守るべき人間でもなく、ただの反逆者だからだ。国にとっても舞先生にとっても。すでにこの件に関しての免罪符はもらっている。
だから・・・・・・心おきなく潰せる。
一発で即死できた者は幸運だったのであろう。
「ぎゃぁぁぁぁ」
「いてぇぇぇ」
あっち側は阿鼻叫喚の様相を呈していた。
半数近くは生きた状態で発火し、川に落ちていって、運悪く足を雷で斬られたものは、生きたまま焼け死んだ。
玲奈が、水魔法で橋に燃え移らないよう膜をして、風花は混乱に乗じて無事に飛び移った。
美夜に教わったレータを使って。
二人とも、覚悟はできていた。
敵を倒すという覚悟が。
二人は昔からそういう教育を受けていた。
いざとなれば躊躇うなと。
自分が、殺すことはできないかもしれないが、味方の邪魔をすることはない。
玲奈は抗議すると思ってたんだが、本当に成長したようだな。
以前までなら玲奈は殺したことに対して抗議したであろう。
今の玲奈は、全員を救うのではなく、『行動に伴う被害』も受け入れている。
風花は川岸にいる敵を牽制している。
次に玲奈が飛び移る。
風魔法を使って難なく。
最後に舞先生。
舞先生の勘が告げている。
何かがおかしい。
橋の十人。五メートルの壊された範囲、そして川辺にいる四十人の余裕そうな表情。
そういえば、橋にいる十人は貧乏くじを引かされたかのように悲壮感が漂っていた。
しかし、今舞先生は飛び移る最中だ。
飛ぶ前ではなく飛んだ後の状態
故に・・・・・・。
一歩遅かった。
「後は頼んだぞ」
舞先生は封筒を玲奈に投げ、着地した瞬間、消えた。
舞先生が着地した場所にあるはずのない『転移魔法陣』があった。
まるでどこからかコピーしてきたかの様に。
そう、ここまでが相手側の作戦だった。
ここにいる、冒険者ではなく『黒幕』の。
舞先生が飛び移る瞬間までが仕込みだった。
橋を五メートル壊したのも、冒険者を五十人配置したのも、全ては舞先生に飛び移ってもらう為の手段。
舞先生が飛び移れば成功だった。
舞先生自身は逃れられる方法は幾つもあったが、その場合はおそらく、玲奈か風花のどちらかが転移したことであろう。
それにいつかは地面に降りる。時間は早い方が解決しやすいし、誰かがいくなら舞先生が一番生存率が高い。
そこまで判断した上での決断。
全く、御影の甘さが移ったみたいだぞ。
それに・・・・・・二人に託してみるのも悪くはないと思った。
舞先生が転移した先、そこは・・・・・・。
「全く、やってくれるぞ」
千葉の無人島にあるダンジョンだった。