スラムでの戦い01
「何でたわたわたしがこんな事しなきゃいけないんでかすかす」
今日子はぶつくさと文句を言っている。
今日子の案内で、シンリィ、美夜、水流は裏道でスラム街に入った。
学園から都市部に来る正規のルートは正門からしかないが、スラム所属の今日子は、裏ルートをいくつか知っていた。
岬から情報が入り、レータを通して、ギーレンの耳に入り、今日子が案内役に抜擢された。
今日子本人は貧乏くじを引かされたと思っており、テンションは低いが言葉遣いは表仕様のヤケクソ気味だ。
表向きは新聞クラブ『暁』の情報網で、御影を助けたいと志願した今日子が裏道を知っているという筋書きだ。
嘘も甚だしい。あんな殺しても死なないような男、短期間で焦って助けにいく意味はあるのかと。
今日子は思うが、ギーレンの命令だから仕方がない。
それよりも、スラムの様子が変わっていたのが気になった。
いつもより物騒になってるっすね。
喧嘩やスリは日常茶飯事だが、それよりもっと物々しい。
外部の人間がやたら多い。朝にも関わらず、誰か探しているようだ。
「ずいまずいま、よんよん様。ばれてるようすだすだす」
相手も、舞先生の仲間がスラムに来るのは予測の範囲内だった。
「・・・・・・燃やす?」
「駄目なのじゃ、ここに住む人達にも被害を与えるのじゃ。わっちの水魔法で一網打尽じゃ」
「私の出番、来る者は私が倒す」
好戦的な三人に今日子は頭を抱える。
そろいもそろって脳筋っすね。
「とりまま、気付かれないよう移動しマウス」
幸い、スラムは今日子の庭だ。
地の利をいかして、今日子が先行し、三人は後に続く。
後もう少しで、都市に続く道が見えるのだが、都市部に続く道は一本な為、そこに冒険者と思われる人達が三十人ほど待機している。
一旦スラムの外に出て、回り込んで都市の正門まで行く道もあるが、おそらく既に手が回っているだろう。
どうする。
今日子が受け持った依頼は、三人を無事にギルドまで届けることだ。
今日子が迷っていると。
「お~い、そこにいるのは分かっているんだ。五分以内に出てこい。さもないとこいつらの命はない」
そこにいるのは、数人の孤児達。首に武器をあてられ恐怖で泣いている。
冒険者らしからぬ卑怯な戦法。
それともスラムの人は人間じゃないといいたいのか。
よりにもよって何の力のない子供を。
今日子は、自分の子供時代を思い出す。
今鎌を持っていれば、今日子は躊躇いなく殺していた。
今日子の頭の中がぐつぐつと煮えたぎっている。
孤児達は御影のお陰でやっと腹一杯食べられることができる。
孤児院の子供達だけでなく、スラムにいる全ての子達に。
その点は、御影に感謝してもしきれない。
やっと、子供達が心から笑ってくれる未来がもうすぐ来るのだ。
最も、今日子に対する御影の扱いから、感謝の気持ちは半減しているが。
「あなた達はここにいるっす」
今日子の口調が素に戻る。完全に殺戮者のモードだ。
今日子も漏れなく脳筋だった。
鎌が無くても殺れる。
とある人物から手解きを受け、今日子は進化している。
「冒険者様達、子供相手になにやっているんっすか」
今日子は裏道から出て、冒険者達の前に来る。
「てめぇ、学園の生徒だな。なにしにきた」
「おっと動くなよ。動いたらこいつの命はない。おいっのこのこ出てきた馬鹿の身体検査と拘束しろ」
今日子は抵抗せず、武器を持ってないことを確認され、拘束される。
「癒杉先生の頼みで来たっす。子供達に罪はないっす。もう目的は達したと思うっすから、解放するっす」
「駄目だ~な~。お前一人だと限らないしよぉ~、アマちゃんにはこういう戦法にかぎるぜぇ~」
「「「「ひゃっはははっは」」」」
「残念っすね」
今日子の仕込みはすんでいた。
今日子は歪笑いする。
良かったっす、最後までゲスで、これでこころおきなく。
今日子は指を動かす。
「なに笑ってんだよ、この餓鬼が」
殴ろうとした、冒険者の手が制止する。
スルッと滑るように首が落ちた。三十人の首が。
「あの世で後悔するっすね」