デジ子の指輪完成
「できたでじ、やったでじ!」
「良かった、本当に良かった。やったね」
「やったんだな、おら嬉しいだ」
デジ子、守、ボルの三人は完成した指輪を囲んで喜び合っている。
全員の顔が煤けている。寝てないからか顔が若干やつれている。
しかし、三人は満面の笑みだ。その疲れが吹き飛ぶほど、充実感に溢れている。
ようやく・・・・・・ようやく完成したのだ。
何回も何回もやり直して、挫けそうになって、でも、御影の言葉を信じて、守やボルに励まされてデジ子は御影が要求した基準を満たした。
初めは、無理だと思った。
創りながらも心の中では無理なんだろうなと。
高すぎるハードル。
訓練して、武器や防具にはアルカナ文字を五文字付与できるようになった。
失敗続きだったデジ子にはすごく嬉しかった。
今まで失敗してたのは四文字。三文字なら三十%の確率で成功してした。でも効果は微々たるものだ。
御堂鈴奈が四文字を成功したことにより、みんなが鈴奈を賞賛し、もてはやした。
デジ子が創ったオリジナルのはずだったのに。
すごく悔しかった。
何で?デジ子が創った時は見向きもしなかったのに。
もっとデジ子の作品を見てほしかった。もっと、デジ子の作品に感想を言ってほしかった。もっとデジ子のこと見てほしかった。
デジ子がいたドワーフの村は、みんな寡黙だった。両親も周りの人も、皆が物作りの奴隷だった。
朝から晩まで物作り、物作りとそれに準ずる言葉以外発しない、黙々と作業し、気に入らなかったら壊し、また作業。
休みという概念はない。ただひたすらにいいものを作るのが生き甲斐だった。
子供はいるが、強制的だったらしい。
だから、言葉を覚えたのは小学生ぐらいの歳、近隣の村の人がそれに気付き、慌てて学校に入学させられた。
別につらいとは思っていなかった。鍛冶を見るのは好きだったし、最低限の食事は与えられた。
しかし、誰もデジ子を見てくれなかった。
こういう村は子供を育てられないと、産まれてすぐ、両親の了解をえられれば、里親に引き取られるらしい。
ドワーフの子供は引く手数多で、里親側の人気も高い。
何故かデジ子はここにいる。
故に、デジ子はひとりぼっちだった。
寂しさを紛らわすのは鍛冶だった。
鍛冶は最初は見よう見まねだ。
言葉を覚えるより早くハンマーで遊び、両親の作業を見よう見まねで模倣してた。
アルカナ文字を思いついたのは五歳の頃、武器や防具に文字を書いたらかっこいいのでわないかと。
中学にあがると、自然と両親の手伝いをするようになった。
相変わらずなにも喋らない。でも意図は伝わるようになった。
相変わらずアルカナ文字は受け入れられず、見せにいき、数秒で壊された。
学校に行っても、つまらなかった。
話が合わず除け者にされた。
ここに来たのは、同じ道を志す仲間なら、趣味も合うしデジ子のこと分かってくれると思っていた。
でも現実は甘くはなかった。
評価されるのはドワーフだから。ドワーフの防具、ドワーフの武器、ドワーフの装飾品。誰もデジ子自身を見てくれなかった。
そんなときだ、御影さんに出会ったのは。
それからはすごく毎日が楽しい。
御影さんはアルカナ文字を理解していて、デジ子よりよっぽど詳しい。教えるのも上手くて凄く成長しているのが分かる。
この前、初めてクラブの女子達で女子会というものをした。
美夜とカティナ、シンリィと水流はその時も口喧嘩していて大変で、プゥや風花が間に入って仲裁していた。デジ子は大人数で集まるのは初めてだったので戸惑った。けど、遠慮のない物言いが、遠慮しなくてもいい相手がいるというのは羨ましかった。
デジ子の話も凄く真剣に聞いてくれて嬉しかった。
皆自分の夢ややりたいことを語り合って、世間話や学校での出来事等話題はつきず、人生で一番楽しかった。
『御影さんも来てくれれば良かったでじ』と呟いたとき、皆に注目されたのは何でだろう。
そして今も、大事な仲間が助けてくれた。
「いくでじよ」
デジ子は皆にも見てもらいたかった。
時刻は深夜で練習場にはいないと思っていても。
「うん、皆も祝福してくれるよ」
「そうだべ」
ボルが扉を開け、ふらつくデジ子を守が支える。
そこには五人がいた。
疲れ果て、円を描くように横たわっている、美夜、カティナ、シンリィの四人、それを介抱している風花。
「皆さんお疲れさまです。デジ子さん出来たんですね。おめでとうございます」
「おめでとう。師匠が帰ってくるまでに成功するって信じてたぜ」
「おめでとう。凄く頑張ってたの分かってたから。良かった」
「おめでとうなのじゃ、わっちも嬉しいのじゃ」
「・・・・・・祝福」
しんどそうだが、皆笑顔でデジ子を祝福する。
「ありがとうでじ」
デジ子は泣き笑いの表情で、凄く輝いていた。
この学園に来て、このクラブに入って良かった。
デジ子は心からそう思った。