舞先生の想い
時刻は夜の八時頃、舞先生は一人保健室で待っていた。
心の準備はとうにできている。プレゼンも出来上がっている。
舞先生は落ち着いていた。これを失敗すれば御影救出の日数は延びる。
普通なら焦るところだが、舞先生の心にさざ波一つ起こっていない。
それは分かっているからだ。
今更焦っても仕方がない、交渉事に必要なのは平常心だと。
焦りは失敗の種だと舞先生は思っている。
戦闘の時は熱く、思考の時や交渉の時は冷静に。舞先生はそのスイッチの切り替えができる。
御影との最終試験も、苺や燐の制止でスイッチを切り替えた。
メダルか。
目の前にある三枚のメダルを眺める。
舞先生にとってメダルは、意味のないものだ。舞先生は、学園での地位はあまり興味がない。
メダルを必死で集めているのを見ると滑稽に思える。
この都市内の縮図だが、国に照らし合わせれば何の意味をなさない。
メダルは所詮、都心内の権力。せいぜいが、ここをでた後の評価の上乗せ。既に・・・・・・で権力を持っている舞先生には何の意味をなさない。
メダルを集めているのも暇つぶし。
五大派閥になったのも成り行きで、面白い戦闘ができると思ったからだ。
しかし、ねちねちと周りを攻撃するだけで舞先生を直接攻撃してこない。
実につまらない。
退屈だった。
面白い人物もいない、向かってくる人物もいない、舞先生より強い人物もいなければ、それを見せてくれるだけの才能の原石もいない。
二年前、舞先生が戦闘科の入学試験の試験管をやったとき、少しだけ面白い人材が四人いた。
頑張れば、学生の間でレベル七十のダンジョンをクリアするだけの才能が。
現生徒会長天野川天音、生徒会書記鈴川鈴音、戦闘科トップ萩野陣、そして風紀委員長ジュディ・セブン。
四人が順調に成長し、魔法科のトップと解除科のトップの六人でパーティーを結成すればレベル八十のダンジョンをクリアするのも夢じゃなかった。
しかし・・・・・・学園の闇が彼女達を呑み込んだ。
舞先生の心の中にあったのは落胆だ。
どうして人の欲というのは際限がないのだろうかと。
そして、期待していた大部分が敵となった。
とるに足らない敵だ。象が蟻を踏み潰すが如く簡単に消せる。
黄金の世代と呼ばれていたが興味を無くしてゆく。
そして二年後、舞先生の前に現れた。
御影友道。
彗星の如く突然現れた正体不明の、無名の受験生。
それからは、驚きの連続だった。
未知の魔法、隔絶した強さ、オーパーツ同然の武器や魔道具。
一緒にいると楽しかった。御影の隣にいれば退屈などなく、いつも厄介なことに巻き込まれる。
いつしか、御影はなくてはならない存在となり、五代派閥の中でトップになろうと思う様になった。
毎週土曜の夜、秘密の訓練の後、御影と未来について、いつも語り合う。
御影の夢はレベル九十以上のダンジョンを制覇する事だ。
まるで御影が引き合わせてきたかの如く、御影の編入試験、各学科に最終試験突破者が出た『奇跡の一日』と呼ばれ、この世代を『王の世代』と呼ぶ人が多い。
御影の夢のため、優秀な人材が必要だ。
私は一度失敗した。
この日本には九十レベル以上のダンジョンが六つある。技ダンジョンレベル九十二『死亡遊戯』、ノンダンジョンレベル九十五『終わりの世界』、闘ダンジョンレベル九十七『暴虐無双』、知ダンジョンレベル九十八『グリモア』、心ダンジョンレベル九十九『輪廻転生』、ノンダンジョンレベル百『始まりの場所』。
ノンダンジョンレベル九十五『終わりの世界』に入り、超一流のパーティー達とレイドを組んでいたが、舞先生以外は全滅した。
たった一時間も持たなかった。圧倒的敗北。
あれから、舞先生は思った。
もっと強くなろう、そして次にレベル九十以上のダンジョンに入る時は、私以上の者を仲間にしようと。
部下はできたが、なかなかそういう人物は現れない。そしてようやくできた仲間。
御影に吸い込まれる様にして優秀な原石が御影の元に集った。
舞先生は、五大派閥に初めて価値を見いだした。
メダルを集めれば自分たちの夢に優位になる。
幸い、トップになるのは簡単なことだった。
二ヶ月もすれば優位に立った。
しかし、間になって邪魔な存在が現れた。
ちょろちょろしていた羽虫と、でっぷり太った蛙。
御影にもある程度の権力をもって欲しいが、めんどくさそうだと断るのだろうな。
煙を吐き、誰もいない部屋で小さく笑う。
一番目障りな人物は排除できないが、そろそろ潰す頃合いだ。
とある事情で早急に救いたかったが、御影の事は全く心配していない。
何故なら御影は『死ねない』からだ。
待ち人が来たみたいだ。
舞先生は身なりを正し、煙草を灰皿に押しつける。
入ってきたのはレータだった。