~四日目~玲奈の決断01
~四日目~
お昼時、この日玲奈は学園長室に呼び出されていた。
あれからも今までも、精一杯考えてきたことだがまだ答えはでていない。
自分のやってきた事。
子供っぽい理想だとは分かっているし、空回っているのも知っていた。
思い返すのはここにくる前のこと。
父親に言われたことを思い出す。
「お前の言うことは理想論だ。学園に入ればそのことがよく分かるだろう。どれだけ自分が愚かなのかを。反発しても結局は俺に守られている事を。お前より強いものは腐るほどいる、お前より賢いものなど星の数ほどいる。だから、学園で学び、大人になれ。そうすればそんな甘い考えはなくなるだろう」
父は桜花国の官僚のトップで国のナンバー三。父の功績で、藤島家は大貴族になった。
母は、父のことしか見ていない。いつも父の考えに賛同し、反発する私を嫌っていた。
あんたなんか産まなければよかった・・・・・・と。
六つ年の離れた兄と一つ下の妹がいる。
兄は桜花学園指揮科を首席で卒業し、二年から生徒会長になり序列一位を二年間維持した。
妹は天才で、教えられたことは完璧にマスターし、一を教えられれば十を理解できる。妹と模擬戦をして、もう何年も勝っていない。
兄妹仲はいい方だと思う。会えば話すし、兄には励ましてもらったり、相談になってもらったり、妹とは、妹の愚痴につきあったり、一緒に買い物したり。
兄や妹も私の夢や理想を否定した。父親と同じように。二人は自分より優秀だ。私が頑張っても届かないような。
私は劣等感に苛まれても、自分を曲げなかった。それに縋っていたのかもしれない
私は英雄に憧れていた。弱いものを助け、亜人と人が手を取り合う。悪いものを退治し、いつか九十レベル以上のダンジョンをクリアする。そんな未来を夢見て。
兄は学園時代ダンジョンには必要最小限しか入らなかったと聞く。やったことといえば権力闘争。
五大派閥の貴族派の一員として他者を蹴落とし、邪魔な人間を排除し、三年の時には貴族派のトップにのし上がった。
父はよく兄の事を誉めていた。
さすがは私の息子だ。私の後継者にふさわしい・・・・・・と。
妹は兄や父に憧れていた。
そして父はよく妹の将来を期待していた。
さすが、私の娘だ。将来はどんな風になるか楽しみだ・・・・・・と。
私にはそんな言葉、言われた事なかった。
家族には私の居場所はなかった。
そして両親に期待されないまま学園に入った。
家族から逃げるように。
学園には主席で入学した。
貴族派から派閥の勧誘があったが断った。兄みたいになるのが嫌だったから。
そんな時、声をかけてくれたのが生徒会長の天音さんだった。
天音さんは私の理想とする人だった。
女性にして、生徒会長、序列一位、誰でも分け隔てなく接し、ダンジョンにも積極的に入る。
私は生徒会長に憧れ、学園長派に入り、同じクラブに入部した。
でも現実は甘くなかった。生徒会長や学園長も父と同じ事をいった。
もっと、大人になれ、甘い考えは捨てろと。
天音さんも私の理想を否定した。なら、私は大人にならなくていいと思った。
私は逃避した。
空虚な時を過ごし、現実が私を蝕んでくる
思えば、いつしか私は天狗になっていたのかもしれない。下を見下す私の嫌いな人間に。
そんな時、出会ったのが御影友道だった。
第一印象は、無関心だった。
授業の時に見学にきて、話していたとカティナはいっているが、眼中になかったので、会った記憶
がない。
本当に、彼を彼だと認識したのは、クラス変え試験の時だ。
第二印象は最悪の一言だ。
私を罠にはめ、その事で、学園長や天音さんにお叱りをうけた。
言った内容については本心だったが、罠にはめた事については許せなかった。
カティナに御影さんの事を教えてもらい、次に思ったのは興味だった。
周りの人間、序列の人間、五大派閥、天音さんやあの癒杉先生も御影さんに興味を持っていた。
だから、私は自分のパーティーに参加してもらい、助けられた。
これだけじゃない、誘き出された夜もだ。でも連太郎の事は完全に救ってくれなかった。
その事で一時期、御影さんのことを憎んでしまった。御影さんは、契約者のフェリスを襲った連太郎を助けてくれたというのに。
そういう考えをした自分を、力のない自分を惨めに思った。
私は思った。どうやったらこんなに強くなれるのだろうかと。
御影さんほどの強さが自分にもあれば理想にも届くのだろうかと。少なくても連太郎は救えただろうかと。
でも、そんな強い御影さんも誰かの罠にはまってしまった。
私の友達や癒杉先生達が一生懸命助ける準備をしている。
癒杉先生は大事なコインの大半と利権もかなり失った。
カティナや雫は自分に力があればと悔しがっていた。
御影さんのクラブの人達も御影さんが助かるのを祈っていると聞く。
そして、私にはできなかった、昨日会った二人の覚悟の眼。
私にもそんなことをしてくれる人間がいるのだろうか。少し御影さんに嫉妬してしまった。
私は自分が大嫌いだ。力もなく意固地で、言葉に責任もなく薄っぺらい。いつも失敗したら、誰かを恨んで自分は悪くないと必死に肯定して。
昨日癒杉先生に言われたとき何も言えなかった。
言ってしまえば、私の理想が終わってしまうと。
物心ついた頃から考えてきたこと・・・・・・目一杯考えて、死ぬほど考えて、昨日は一睡もできなかった。
変わろう。
私は逃げていた。家族からも重大な選択からも、変わることへの不安で。自分の理想を盾にして。
変わろう。
どうしようもない自分、答えを出せなかった自分、覚悟のない自分、言葉の重さを知らない自分から。
変わろう。
まだ答えは決まってない。だけどもう逃げないと決めた。必ずその場で『選択』しようと。たとえこの先どうなったとしても。
父親に言われた。
後一回問題を起こしたら縁を切ると。
そして私はノックし、学園長室に入った。