二階堂三姉妹
二階堂三姉妹は夕方久しぶりに集まることになった。
場所は学園内で一位二位を争う高級和食屋で、離れの個室。
雫と風花は先に待っていた。
待ってから三十分後、長女がやってきた。
身長は170センチそこそこ、男装の麗人が如く切れ長な瞳に二枚目なルックス、体は引き締まっており、細マッチョ体型で、学園時代は男より女の子に告白されたことの方が多い。
「清音姉さんお久しぶりです。あの件はどうなったんですか」
「あらあら、風チャン、清音姉さんにあって早々聞くのはしたないですよ。私も気になりますけど、まずは乾杯をしてからですよ」
雫は風花をやんわりと窘め、清音に挨拶する。
その光景に少々清音は驚いていた。
昨日雫と会ったとき、風花と蟠りは解消したと聞かされていたが、こんなに仲良くなっていたとは思わなかった。
少し妬けてしまったが、とりあえず清音はビール、未成年組はウーロン茶で乾杯し、本題に入る。
「まずは事実から言う。癒杉さんとクラブ派との交渉は、『無事』に終わったさ。第二段階は大丈夫だろう。憶測だが、第三段階も、おそらく近日中に解決するだろう」
それを聞いて二人はそっと胸を撫でおろす。
清音は希望的観測は言わない。それは姉妹として十分に知っていた。その清音が近日中に解決すると言ったのだ。気を張っていたのがふっと抜けたような感覚だ。
「気を抜くのは早いさ。まず後三日は駄目だろう。お前達もキューブのことは知ってるな。それを踏まえた上で、御影という人物は生きれるか教えてほしい」
清音は御影と会った事がない。雫や風花から聞いたり、クラブ派の情報が入ってはくるが、全体像が見えてこない。
一度手合わせしたいのだがな。
そう思っても、清音は、新進気鋭の冒険者として有名で忙しい。
今日も、昨日のクラブ派の大事は商談がなければあいてなかった。商談が長引くと思って一週間空けたのだ。
「大丈夫だと思います。御影さんが死ぬことは想像できません」
「私も、風ちゃんと同じです。あんなに強い御影さんが死ぬはずがありません。癒杉先生が助けにくるまできっと生きています」
清音は少し不思議に思う。それは御影に対する信頼感だ。二階堂家は由緒正しい家柄で、様々な悪意に惑わせられないよう、厳しく教えられてきた。そんな二人が短期間でそんなに信頼するものなのかと。
私がもう少し遅く生まれていたらと悔やむ。学生時代なら簡単に御影と会えたのにと。
程良く料理が来て、世間話に花を咲かせ、話題はクラブ派の内部分裂の話になった。
「今のクラブ派の長は、自分にも他人にも厳しい人だから、誤解され敵が生まれやすいのさ。私は尊敬しているのだが、だれの手引きか知らないが、若手のトップクランの人間が、突然敵対してな、全く困ったもんだな、それに呼応して学生も分裂してしまった」
苦々しげに、清音はビールを煽る。ちなみに既に五杯飲んでおり、顔が少し赤い。
「そうですわね。クラブ全体を纏める会頭はクラブ長派なのですが、序列六位の副会頭と序列十三位は反対勢力に入ってしまいましたわね。会頭さんが女性であることで、前々から下に見ていた印象がありましたし。副会頭さんは連太郎さんに目をかけていましたので、あの件が引き金になったのだと思います」
そういって雫も難しい顔つきになる。
今、クラブ派は二分していた。序列内でも対立が激化し、暴発するのも時間の問題だ。
「私は詳しくないけど、今の序列はどうなのお姉ちゃん」
「あらあら、分かりましたわ。お姉ちゃんが詳しく教えてあげるわね」
雫はポケットから紙を取り出し、書き始める。
「これが今の序列になります」
清音も興味があるのか、紙をのぞきこむ。
序列一位:生徒会長 天野川天音(学園長派)
序列二位:戦闘科代表(舞先生派)
序列三位:クラブ連合会頭(クラブ派)
序列四位:生徒会副会長 目垣一(一派)
序列五位:指揮科代表(貴族派)
序列六位:クラブ連合副会頭兼魔法科代表(クラブ派)
序列七位:風紀委員委員長(教会派)
序列八位:生徒会書記(学園長派)
序列九位:指揮科代表2(貴族派)
序列十位:解除科代表(教会派)
序列十一:戦闘科三年S組、トーナメント勝利者(舞先生派)
序列十二位:二階堂雫(クラブ派)
序列十三位:戦闘科二年S組、トーナメント勝利者(クラブ派)
序列十四位:農業科代表(無派閥)
序列十五位:藤島玲奈(学園長派)
分かりやすい様、雫は名前じゃなく立場と派閥を書いた。
「今はこうなっているわね。序列の順位が実力では必ずしもないのだけれど、バランスや安定はしているわね」
そう雫は総括する。それぞれの思惑は多々あるけれどトップの天音を中心に表向きは纏まっていた。人数が多いクラブ派をトップの天音が押さえる形で。
「でも、クラブ派は半分に割れそうだから、この先どうなるかしらね」
雫は憂鬱そうに溜息を吐く。
そして、この紙を見て、清音は戦慄する。ある人物を野放しにしてしまったつけはあまりにも大きいと。
清音は学生だった頃は、クラブ派は序列内では多数派を占めており清音自身三年の時は生徒会長でトップだった。
今の序列のトップは天音だとは知っているが、妹の順位とクラブ派の順位と一の情報を知っている程度だった。
忙しさにかまけ、他の人にまかせっきりだった。
清音は深刻な顔つきになる。
思ったよりもまずい状況だった。
次のフェイルゲームの内容を・・・・・・ているだけに。
「玲奈さんって、確か雫の友達だな」
「そうですわね、長年一緒にした親友ですわ」
話の意図が分からず雫は首を傾げる。
「それなら学園長派を抜けるように言った方がいいさ。最初に話した話には続きがある。学園長派は癒杉さんを敵に回した。御影救出後に起こるのは全面戦争だ。学園長派にいたらそれに巻き込まれる。そして近い内」
そこで、清音は雫と風花を見る。
今回の件も前回の件も、できる事なら中心にいてほしくなかった。自分の大事な妹だ、そう思うのは自然の摂理だ。
だから清音は警告するしかなかった。自分は学生じゃないためいつでも守れないから。
「学園長派は消滅するさ。私の憶測で、詳しくは言えないけど、次の月までに六人が変わると思う。だから雫はくれぐれも巻き込まれないようにね。風花も雫も、どうしようもなくなったとき御影さんに頼りなさい。私の勘がそういっている」




