手伝えることは
~『フォレストヒューマン』・練習場~
今練習場にいるのは、水流、シンリィ、ボル、美夜、カティナ、守の六人で、でじ子は練習場にきて早々、鍛冶室に籠もりっきりで、風花は雫の所にいっており、種次とプゥは不在、三下は例の如くさぼりだ。
自主練習を行ってはいるが、全員身が入っていない。
理由は御影が心配だからだ。それぞれが思い思いに。
カティナの号令で、休憩に入る。
「んだ、どうなってしまうんだ」
「僕は、御影さんを信じています。きっと大丈夫です」
「んだ、おらもそう思うんだが」
場内の空気は限りなく重い。ムードメーカーのプゥがいないから尚更だ。
頭では、御影は大丈夫だ。きっと帰ってくると思っている。
しかしどうしても考えてしまう。本当に大丈夫なのだろうかと。
日に日にそれは高まっている。
「・・・・・・見ているしかできないのは悔しい」
「・・・・・・同感」
「そんなこと言ってもよぉ~、癒杉先生も言ってたろ、よけいなことはするなって」
あの日舞先生がクラブに来て御影がキューブに行ったことを知った時。
舞先生は最後に言った。
「今後の方針について言うぞ。風花は雫や長女ににカティナは玲奈に話してもいいぞ。交渉や他のことは私がするが、先触れだ。別にやってもやらなくてもいい。結果は同じだからな。他の者はなにもするな。心配しなくてもいい、私が必ず御影を助けるぞ・・・・・・たとえどんな手を使っても・・・・・・な」
その時の舞先生は鬼気迫る様子で、誰も反論できなかった。
「自分は貢献したから余裕。随分と調子に乗ってる」
「はっ、喧嘩なら買うよ」
「待つのじゃ。全く子供じゃのう」
「「あんた(あなた)に言われたくな(ね)」」
「・・・・・・同意」
「何じゃと」
四蝕即発。溜まっていたストレスや、どうしようもない鬱憤を晴らすように四人は模擬戦を始める。
守やボルは止めなかった。
二人もカティナ達の思いは分かっていた。
二人は戦闘向きではないため参加しなかった。
叫びたかったし、何処かに思いをぶつけたかった。
このクラブは御影中心に回っていた。
圧倒的戦闘能力、幅広い知識。魔法も鍛冶も武術も武器の使用も全てが超一級品。
このクラブにいる面々は誰もが御影に憧れ、目標にしていた。
院長先生の言っていたことは的を射ている。
皆、苦境から助けてもらい、強くしてもらい、御影の力になりたいと思っている。
それはまさしくうねりに巻き込まれている状態。
知らぬ内に入ってしまっている。勇者の仲間に。
洗脳や暗示ではなく、御影という存在に魅了されている。
だからこそ、今のクラブは壊滅の危機にある。
中心的存在、大黒柱不在で、がたがたになってる。
御影がもしいなくなれば、程なくクラブは壊滅するだろう。
それほど、皆が御影に依存している。
「ボルさん。僕らはでじ子さんの手伝いをしませんか」
「んだな、皆の邪魔にならないように端っこからいくんだな」
二人は、巻き込まれないよう大回りして鍛冶室に向かった。
でじ子はとり憑かれたかのように一心不乱に創作していた。
まるで何かを考えたくないように。
でじ子は御影さんの期待に応えるでじ。
フェリスが練習場に来た日。でじ子はあるお願いをされていた。
その事だけが、今の心の支えだ。
それは、とある指輪の制作。
指輪は簡単に作れるが、そこにアルカナ文字を彫るのが難しい。
一ミリでもずれると効力は発揮せず、文字の大きさバランスが少しでも違うと同じく失敗だ。
指輪一つ一つ、形が微妙に違うく、それに沿ってアルカナ文字の場所や大きさも変えなければならない。
失敗しては戻し、失敗しては戻しの繰り返し。
まだ成功したものは一つもない。
「あっ」
でじ子はふらつき、倒れそうになるが、ボルが支えた。
「んだ、危ないんだべよ」
「でじ子さん、一人で頑張りすぎです。頼りないかもしれないけど、僕達で良かったら手伝わせてください」
二人は心配げにでじ子を見ていた。
そうでじね、でじ子はもう一人じゃないでじ。
御影の様に一人で何でもできるわけではない。でじ子が全部やると時間がかかるし、重いものの運びや単純作業やてもとの作業に人手が必要だった。
ここに来てからは、御影が練習の材料なんかを用意していた。
でじ子は、鍛冶の事は自分で何でもできてこそ一流だと思っている。
しかし、今は完成させるための早さが求められており、御影がいない今、効率化のためには助けてくれる人が必要だった。
今までは居なかったが、今は心強い仲間がいる。その事をでじ子は再認識した。
「ありがとうでじ、最初は」
ボルと守に指示を出し、でじ子は指輪のアルカナ文字彫りに集中する。
全ては、御影が帰ってくる前に完成させるために。