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天音との交渉


「何故なのですか」


 玲奈はクラブ長室のデスクを叩く。普段は恐れ多く、目の前の天野川天音を尊敬しているためやるという選択肢自体が無いが、そうさせてしまうほど激高していた。


 天音は冷静で、顔色一つ変えることなく、アンティークもののカップに注がれた紅茶を口にする。


「冷静になりなさい、自分の意見が通らないから、癇癪をおこす子供ですか? もう一度言います。会談はあちらから言われない限り動きません。見返りは最大限しっかりともらいます。そして第三段階の協力はいっさいしません。いいですか、これはチャンスなのです。おそらく、一番声をかけやすいのは私達学園長派のはずです。癒杉先生の派閥は、貴族派と教会派は敵対関係にあり、残すは私達学園長派とクラブ派です。クラブ派は今内部分裂状態にありますから、一番最初に誘われるのは私達の派閥です。そして、自分から誘うのと、相手から誘われるのとでは、とれる利益が違います。誘った方は『おみあげ』が必要ですからね。わざわざとれる利益を下げるのは愚考です。おそらく、メダル五枚と癒杉先生にとられた利権全てで収まるでしょう。協力できるのはキューブの推薦書までです。第三段階のことについては、一切タッチはしません。玲奈は納得できないかもしれませんが、これが上に立つものの考え、合理的と言うものです。

 お涙ちょうだい、情に流される、感情が入る。そんな人間上にたつものとして失格です。おそらく、癒杉先生もそこまで求めてこないでしょう。こちら側にメリットがなく、用意できる報酬もないでしょうから」


 玲奈は理解できなかった。推薦書一つ書くのに、暴利な値段とメンツを大切にすることを。


 玲奈も今がチャンスというのは分かる。学園長派が窮地に立たされているのは知っていた。


 だから、メダル二~三枚ぐらいで取り引きすると思っていた。


「補足しますが、三十分前、御影の契約主のフェリスはメダル十枚で癒杉先生と取り引きしたそうですよ」


 玲奈は開いた口が塞がらなかった。


 厚顔無恥、どこの世界に自分の契約しているものを助けるために、他者の、その人物を助けたい人から法外な値段を要求する事ができるのだろうか。


 逆に言えば、それほどまでに舞先生が御影を必要としているのが分かる。


「癒杉先生は上に立つものとして失格だと思いますか? 天音さんもそういう人はいますか」


 玲奈は気づけばそんな質問をしていた。打算や利益どがえしで、人を救うトップがいると信じたかった。


「私から言わせると、癒杉先生らしからぬ失態ですね。と同時に御影さんが私達にとって危険な人物だといえます。理想をいえば、ここで死んでもらった方が利益になります」


 これじゃあ同じだ・・・と玲奈は思う。


 腐敗と利益優先の貴族派が嫌で学園長派にはいった。


 玲奈は愕然とした。


 幼なじみの連太郎が自主退学したときも薄々思っていた。


 天音さんも、学園長もやっぱり自分たちの利益優先で、結局は関係ない人物、自分を助けてくれた人物も切り捨てるのだと。


 悔しい。


 気付けば玲奈の顔に涙が流れ落ちていた。


 玲奈にはまだこの局面を打開する力はない。


 その様子を見て、天音は思う。


 青いな・・・・・・と。


「まだ答えがまだでしたね。私はこの派閥に命を賭けています。私に言わせれば玲奈は甘すぎる。覚悟もなにもない小娘がでしゃばるな・・・・・・といいたいです。私はこの地位になるまでどれほど辛辣を舐め、泥水を啜ってきたか理解できますか、ある時は、フェイルゲームで友たちを殺さなければいけない状況になり、ある時は慕っていた先輩を蹴落とし、慕われていた後輩と将来を誓い合った恋人を斬り捨てなければいけない状況になった。知ってますか、そういう人物は死んだことを理解できぬまま死ぬんですよ。絶望も憎悪の感情も表情にだせぬままに。どれほどこの派閥のために自分を押し殺してきたか、理解できるはずもありませんね。甘ったれたヒューマニズムを聞くたびに虫唾がはしります。

 私も学園長も貴女には期待しています。貴女のカリスマ性と将来性は高く評価しています。

 いいでしょう。貴女がなにをしてもお咎めはしません。ですが、こちらからは一切動かないことは覚えといてください」


 玲奈は天音の心に初めて触れた・・・・・・そんな気がした。

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