仕事をしましょう
リーデハルトは騎士団の面々を地獄に叩き落とした張本人である。鑑定スキルにてそれぞれの適性を判別出来る彼は、より効率よく効果的に彼らを地獄に引きずり落とした。
しかし普段むさ苦しい男ばかりの中で訓練している彼らは、例え地獄のような特訓だとしても美人でたおやかなリーデハルトに指導して貰えてちょっと嬉しそうだった。これだから面食いってやつぁ。
久し振りの教え子と再会して数週間後。ダンジョン更新の時期がやってきた。
ダンジョン更新とは簡単に言えば、ギルドに認定されたダンジョンの難易度と現状のダンジョン内に相違がないか確認する作業である。
ギルドにて信用度と実力の高い冒険者を選定し、ギルド職員を伴い実際にダンジョンを探索する。可能ならば宝物殿まで進み、宝神器を持ち帰り鑑定するまでがダンジョン更新の一通りの流れだ。
鑑定した宝神器は報酬として冒険者に渡される。
何故「可能ならば」なのかというと、最下層前のダンジョンボスは非常に強く、並みの冒険者では太刀打ち出来ないためである。
戦闘員ではないギルド職員を伴い守りつつダンジョンボスを倒せる冒険者はそう多くないのだ。従ってダンジョンの難易度はダンジョンボス以前の階層に依存する。
ダンジョンの中にはボスが急に強くなる場合もあるがごく稀で、ほとんどのダンジョンは階層の難易度とボスは比例しているので問題はない。
リーデハルトもギルド職員として査定の仕事をすべく冒険者を募るのだが、これが非常に難航する。彼は元冒険者で最高クラスの実力を持つ。
供をする冒険者からしてみれば確実に高難易度のダンジョンを攻略でき、かつ実力者の技術を間近で拝見できる絶好の機会。
このチャンスをものにすべく名乗りをあげる数多の猛者達が引きも切らず詰め掛け、帝都冒険者ギルドはいつも以上に人でごった返すのだ。
直接リーデハルトに自分を売り込む者もいるが、その場合彼は「ギルド長が選定しておりますので私では対応致しかねます。誠に申し訳御座いません」と断っていた。結果すべての冒険者がギルド長へ殺到する。
嫌気が差したギルド長は今回くじ引きで冒険者を選んだ。
ちなみに去年はじゃんけん大会から何故か殴り合いに発展した。鎮静化しに来たリーデハルトに苦言を呈されたためか、今年は比較的スムーズに話し合いが進んだようだ。裏で自称リーデハルトファンクラブの会員達が自主的に統制を行っていたらしいが、真偽のほどは不明である。
今回選ばれた冒険者はタンバとニワの二人組パーティーである。どちらもBランクの彼らはリーデハルトと同じ探索班になったと知らせを受け狂喜乱舞した。
実は二人、行き倒れていたところをリーデハルトに助けられた過去がある。明日に食うものにも困り貧窮していた時分に二人を拾い、食事を与え、冒険者としての知識と装備を施したのは他ならぬリーデハルトだったのだ。
タンバとニワはこの恩に報いるべく必死にダンジョン探索を繰り返し、先日念願のBランクへと昇進した。そして今回の選定結果である。やっとリーデハルトに恩を返せる機会が来たと二人は咽び泣いた。
しかしリーデハルトは二人を助けた記憶はない。何故なら彼は捨て犬捨て猫と同じ感覚で行き倒れ人を拾うからだ。
そして元気になってからは野に放すように冒険者としてダンジョンに放つ。その後のことは何も知らない。達者で暮らせよ。
命を助けられ一人で生きる術を教えられ、さらに旅立つ際には貴重な装備までもらった多大なる恩を忘れない冒険者二人。
そういえばそんなことがあったかもしれないけど拾いすぎて誰が誰かわかっていないリーデハルト。
温度差で台風でも巻き起こりそうな三人はダンジョン更新のためダンジョンへと繰り出した。