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見た目って大事ですね

 リーデハルトは国の第一王子と意気投合し、騎士団を見学することになった。実はこの第一王子、王子様らしい見た目に反して騎士団長を務める猛者だったのである。

 王族が騎士団に所属して良いのかと思うだろうが、王族が軍のトップにいることは別段珍しいことではない。むしろ指揮系統が一本化し纏められるため、より都合が良いのだ。


 案内され連れてこられた先は騎士団詰所であった。汗と涙と熱気で雲でも発生しそうなそこを第一王子もとい騎士団長は声をかけながら通り過ぎる。

 部下達は団長の傍に侍る今にも卒倒しそうなくらい真っ青な使用人はスルーして、見慣れない青年を興味深げに眺めていた。


 Sランク冒険者が第一王子と共にいるのだからもっと大騒ぎどころか大混乱に陥りそうなものだが、残念ながら彼らはリーデハルトがSランク冒険者だと知らなかった。見た目は柔和で優しげな好青年故に。


 変わり者の第一王子がまた気に入ったものを拐かして来たのだろうと当たりをつけた彼らは、唇を震わせ今にも吐きそうな使用人に同情の視線を向ける。

 毎回団長の無茶無理に付き合わされ神経を磨り減らすクルール。普段の彼の不憫さを知っている騎士団の面々は静かに冥福を祈る。果たして彼に幸福な明日は来るのだろうか。


 騎士団の皆がリーデハルトを知らなかったのには訳がある。そもそもリーデハルトがSランク冒険者であることを知っているのは国の上層部と各地のギルド長だけで、それはかの青年に手を出してSランクの逆鱗に触れないようにという配慮のためだった。


 しかし魔法が存在するこの世界において、実力者が一目見てわからないということはほとんどない。僅かな所作、纏う空気、警戒心の強さだけでなく、実力が高ければ高いほど魔力の総量も大きくなる。

 魔力増加に限界はなく、単純に肉体が耐えられるか否かで魔力の保持量は決まる。限界を突破しても肉体が馴染めばその分強くなるが、耐えられなければ自滅するだけ。


 それ故に一流冒険者とされるBランクから魔力総量の桁が変わり、Aランクの英雄は無二、Sランクに至っては神にも匹敵すると言われている。

 加えてSランクは思考もぶっ飛んでいるため、誰もが一目見ただけで次元の違いを思い知り恐れ怯える。


 その中で実力を悟らせないリーデハルトははっきり言って異常だ。無意識にでも魔力を抑え自らを律し他者を欺く彼は、災厄の中でもずば抜けて畏怖すべき存在だった。

 律していないことも多々あるが、それでも他者に対する倫理を持ち合わせた彼は恐れるべき災禍であり惨禍であり、同時にそれらから周りを守り得る良心であり善心であった。


 そんなことは露知らず騎士団の彼らはたおやかな青年が冒険者であると聞き、きっとやむにやまれぬ事情があって冒険者に成らざるを得なかったのだろうと察した。


 ならば団長がかっさらってきた理由は、きっと儚げな彼を騎士団の訓練に参加させてせめて自らの命を守れるくらいには鍛え上げようとしたからに違いない。

 盛大な勘違いをした彼らは、優美な青年のために一肌脱ごうと一層訓練にのめり込んだ。


 それを見た騎士団長は彼らが普段全力を出していないこと、全力を出せばここまで出来ることを知り、今後の訓練が残虐性を帯びていくのだが、彼らはまだ何も知らない。


 そして穏やかでたおやかで優しげで和かな青年は、団長が騎士団をしごくために連れてきたことも、実際に彼らを片手間で薙ぎ倒し放り投げ指一本動けなくなっても強制回復によりさらなる地獄のどん底に突き落としてくることも、まだ何も知らない。

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