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 リーデハルトは貴族様からの指名依頼を受けたギルド職員である。引き継ぎを済ませた後、依頼書を携え馬車に揺られて五日。道中転移魔法も使用し時間を短縮したが、ヴリコス公爵が治めるモストロ領に到着した。

 当主である公爵は体調不良らしく、出迎えたのは執事長だった。


「本日は依頼を受けてくださり、誠にありがとうございます。わたくし、執事長のプロムラリスと申します」

「これはご丁寧に、リーデハルト=グラジオラスです。本日は宜しくお願い致します」


 プロムラリスは白髪をきっちりとオールバックにし、片眼鏡を装着した老年の男である。口元は白髭で覆われ、鎖骨程度の長さまで伸ばしていた。背筋は真っ直ぐで、痩せ気味の体にタキシードを着こなす様は老練した風格を感じさせる。


 今回の依頼は領地に侵入した魔物を討伐してほしいというものだ。発生原因は不明だが、公爵領はレベル6ダンジョンに隣接している。万が一スタンピードの兆候だとすれば、公爵の私兵だけでは対処できない可能性もある。そのための討伐依頼だと執事長は説明した。


 何故ダンジョンを訪れる冒険者に頼まなかったのか理由を聞くと、どうやら公爵は冒険者を信用していないらしい。

 いくら功績をあげようとも、所詮傭兵崩れや失業者の集まり。彼らに依頼するくらいなら二つ名持ちの職員の方がマシだと言うのが、公爵の主張だと言う。


 リーデハルトは討伐場所に向かう前に腕輪を渡された。発信機能のついたそれは専用の魔道具に現在位置を表示し、つけた者の生命反応を色で識別出来る道具らしい。

 腕輪をはめると機械的な音と共に僅かな痛みが手首に走った。確認しても傷や跡はなく、青年は首を傾げる。じわじわと広がっていく熱に執事長を見遣るが、老年の男も同じ道具をはめていた。

 例え何か仕掛けがあったとしても、リーデハルトは神の権能を持つ宝神器だ。何とかなるだろうと青年は黙って執事長に着いていった。


 案内された先は薄暗い林であった。鬱蒼とした木々が太陽を遮り薄暗い。梟と野犬の鳴き声がこだましていた。虫の羽音が耳元を通り過ぎ、近くの木に止まる。拳大の派手な紫の甲虫が樹液を啜っている。

 歩く度に柔らかい地面に足が沈み、長靴が汚れる。灰色のローブは銀のファーが首回りについており、中に虫が入るのを防いでいた。


 私物を持ってきて良かったと青年は安堵する。本来なら紺色の職員用ローブを着るべきではあるのだが、職員用は羽織るタイプのため前が完全には閉じられない。ファーもついておらず、飾りは胸元を結ぶ紐と職員用バッジだけ。

 確実に虫が飛び込んで来たことだろう。想像してしまいぞっとした。


 密かに胸を撫で下ろしていると、執事長が足を止める。青年も止まって目の前に広がる建物を確認する。

 古ぼけた洋館だった。棘の生えた蔓にびっしりと覆われている。漆喰であっただろう壁は薄汚れ、いたるところが剥がれ落ちている。茶色の土台がむき出しだった。

 大きな窓は無数のヒビが入り、白くぼやけて中が見通せない。門の左右に並ぶ石像は崩れ、元は四つ足の翼が生えていただろう何か、だとしかわからなかった。見上げると首が痛むくらいの高さがある扉は閉じられている。

 洋館型のダンジョン、レベル6「暗晦の嗚咽」だった。

 

 錆び付き甲高い音を立てながら扉が開く。青年が執事長を見ると、老人は何も言わずに先だって歩き出した。暗闇に消えていく男を追いかけて、リーデハルトもダンジョンへ足を踏み入れた。

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