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起こされました

 リーデハルトは孤島マルユノに建てられた塔の自室で寝起きしているギルド職員である。

 青年自身が帝都へ移動する際には転移魔法を使うのだが、転移魔法は難易度の高い魔法である。Sランクでも全員が扱える訳ではない。


 そのため塔のラウンジや、帝都冒険者ギルド本部の第三応接室には転移魔法陣が設置されていた。ここから塔の使用人達は通勤や物資の補充を行っているのだ。


 また、相応の魔力を消費するものの持ち運びが出来る簡易転移魔法陣も各自に配布されている。リーデハルトのお手製だ。

 転移魔法陣は精密な図形と難解な古代文字の組み合わせで作られている。幾何学的であり芸術的である図形は、線が僅かに曲がっているだけで効果を発揮しない面倒くさい代物だった。


 そんなものを数十人分手書きしたリーデハルト。魔法で複写すれば楽だったのだが、ミスティとシアンの子ども二人組から「てがきのほしい」「手書きがいいです」というおねだり攻撃に合い根負けし、全員分書き下ろした。何という苦行。


 もはや作成後半は半分寝ながら書いたので、たまに転移に失敗することもある。だが、むしろその外れをラッキーだと思えるつわものどもが揃っているのがSランクと塔の維持に関わる使用人達だった。

 転移に失敗すると無駄に魔力を消費するだけなので、別に空間の狭間に落ちて体が消し飛ぶわけではない。安心してほしい。



 勧誘してきたイルをラントへ送り届け一夜が経った。


 セイントにその場を任せてルプスと共に転移した青年は、とりあえずルプス自身の自室へ獣王を放り込んだ。

 口に腕を突っ込みはしたが、たいした傷はついていない。精神面は本人しかわからないが、肉体に何ら問題はなさそうだったので多分大丈夫だろう。

 そう思い男を放置した青年は、そのまま自分の部屋に戻って寝た。

 ギルド長への報告も済ませてはいないが、仕事を頼まれたのは時間外だったのでこれも問題はない。青年は残業をしても別にいいが、しなくていいならしない主義なのだ。


 どこか遠くでワイバーンの鳴き声を聞きながら、リーデハルトは意識を覚醒させる。彼は非生物なので眠らなくても問題はないが、出来るだけ塔の自室で眠るようにしていた。

 使用人が毎日使われもしないベッドをメイキングしているのを見て申し訳無くなったからだ。彼にも罪悪感というものは存在している。


 寝返りを打とうとして、ふと隣に違和感を覚えた。

 柔らかな人肌の温もりと一定の心音を腕に感じる。自分のものではない微かな寝息が聞こえてくる。

 誰かが自室に忍び込んでいる事実に、青年はまたかと思った。


 ミスティかシアンか、はたまた別の誰かか。もしかしてセイントあたりが報告に来て、寝ている自分を起こせずそのまま寝入ってしまったのだろうか。

 そう当たりをつけたリーデハルトは寝惚け眼のまま隣を見遣る。


 薄絹の衣を纏った姿は肩や腹が露出していた。丸まった寝相が胸元を強調する。安らかで穏やかに眠る様は実際の歳よりも幼く見えた。長い睫毛に縁取られた目は閉じられている。

 腰から下は掛布で覆われているが、何も着けていない素足が晒されていた。呼吸する度に上下する体はしなやかで、縮こまっている姿勢は少し窮屈そうだった。


 青年が身動ぎすると、銀の狼耳がぴくりと動いた。

「ん……おはようございます、ボス」

 にへらと笑ってくっついてきたのは、獣王ルプスであった。

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