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直しましょう

 リーデハルトはダンジョンごとモンスターを全滅させ、そのまま帰ろうとした人でなしである。どんなものも作るには時間がかかるが壊れるのは一瞬だ。世の理である。

 そんな青年は現在、壊滅させたダンジョンの管理人的役割を持つ弟分に泣き付かれ、修復の手伝いをしている最中だった。


 目の前に広がるいくつもの画面。ダンジョン内の各階層が映し出されたそれを見ながら、魔力を操作し損傷箇所を修復していく。

 ついでに余計なものまで足しながら、青年はしみじみと呟いた。


「いやー、目がしばしばするね」

 対する弟分は画面から顔をあげ、不思議そうにリーデハルトを見遣る。

「歳ですか?」

「そうかも。これは休まないといけないね。うん、そうだね。帰ろうか」

「冗談ですしまだ終わってませんからね! てか金の像とか落とし穴階層とか足さないでください兄さま!」


 きゃんきゃんと喚く弟分の頭を撫でてやれば途端に大人しくなる。掌に頭を擦り付けてくる少年形態を模した宝神器を構いながら、青年は欠伸を溢す。

 飽きてきた。最初からやる気がなかったとも言える。


 宝神器とはダンジョン内のモンスターを人に倒させるために配備された、いわば宝物の一種である。

 特に自律思考を与えられた意思宿る宝神器は、より効率的に人を集められるよう迷宮内の構造を改築することがある。これが変化するダンジョンのからくりだ。


 その例にならいリーデハルトと弟分も破壊された箇所を改装中なのだが、レベル10の超高難易度ダンジョンである「眠りの導き」にはリーデハルトくらいしか人が来ない。

 正直頑張ってもあまり意味がないので、青年は自身が楽できるよう改築を行っていた。ついでに配置した金で出来たギルド長像は弟分に大変不評だった。


「だいたいなんでまだこいつと契約してるんですか? 姉さまはそんな器じゃありません!」

「まあ、神の器だからね」

「そういう意味じゃなくて!」


 ギルド長像を指しながら嫌そうな顔をする少年。

 彼は自分の兄姉(あに)にあたるリーデハルトを尊敬している。多くの知識と権能を持ち、唯一人型として作られた宝神器である青年を。


 本来意思宿る宝神器には、ダンジョン内の構造を変化させるためや人の役に立つために、細かな魔力操作が出来るよう設定されている。

 しかし弟分である少年はその設定に不具合があり、魔力の精緻な調整が出来なかった。

 扱いきれず氾濫したモンスターと大量発生したダンジョンボス。任せられたダンジョンを崩壊させかけた弟分の窮地を救ったのが、他ならぬリーデハルトだ。


 手に負えない苦境に颯爽と現れ、並み居るモンスターを薙ぎ倒した青年。自作したであろう自動走行二輪魔力伝導車で、立ち塞がるダンジョンボスを撥ね飛ばし轢き倒した青年。そのせいでひしゃげたフロントを物悲しそうな目で見詰め、静かに合掌を捧げた青年。

 壊れた魔力伝導車を放置し徒歩で宝物殿の奥まで辿り着いた青年は、バングル型の宝神器と出会った。


 宝神器は理解した。彼こそがこのダンジョンの前任者、自分の兄姉にあたる神の器だと。己の窮地を救い、助けるために参じてくれた尊き恩人だと。

 実際には「眠りの導き」の元宝神器として、ダンジョン内の魔力が核の一部に組み込まれているせいで、ダンジョンの不調が自身の不調に繋がったため解消しに来ただけなのだが。


 実情を知らない弟分は青年に深く感謝し、同じ宝神器として強い憧憬を抱く。意思を顕現させる際少年型を取るようになったのも、青年の姿に憧れたからだ。

 そのため弟分は青年の所持者であるヘレンテを嫌っている。尊き兄姉を使役し使い潰す悪魔だと。自分からリーデハルトを奪った人間風情だと。


 同じ意思宿る宝神器の中でもリーデハルトは特殊である。

 六柱自ら手掛け作成された人型の宝神器。各女神の特性を付与され権能を与えられた青年は、彼自身が望めば神と同等の力を行使出来る。それは世界を塗り替え、無に帰すなどいとも簡単に為せる力であった。

 同様に契約者であるギルド長も宝神器である青年に命令さえすれば、世界征服など容易いのだ。


 神のために作られた器であり、人のために力を与えられたリーデハルト。人に役立つようにと付加された権能故か、彼は無意識的に人の願いを叶えようと行動する節がある。

 身内である同胞や契約者はさることながら、興味がないと顔すら覚えていない存在に対してさえ救いの手を差し伸べる。本人に自覚はないが、彼が人に慕われるのはこの性質が原因であった。


「兄さまはぼくたちと同じ宝神器なんですよ。ただの【加護持ち】に入れ込むなんておかしいです。向こうだってどうせ姉さまの魔力目当てでしかないんですからね」


 弟分の言葉に青年は静かに微笑んでいた。

 いい加減、呼び方を兄か姉のどちらかに統一してくれないかなと思いながら。

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