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会いに行きましょう

 リーデハルトは神の意思宿る人形型の宝神器である。

 元々の名前は「リーデハルト」だけであったが、冒険者ギルドに登録する際、契約者であるヘレンテが苗字欄に「グラジオラス」と書き入れてしまった。結果リーデハルト=グラジオラスが名前になった。

 貴族階級でもなければ基本的に苗字を持っているものは少ない。冒険者登録には名前だけで良いのだが、申請者の間では故郷や村の名前を苗字にする者が多かった。そのためヘレンテは苗字欄にも何かしら書かないといけないと思い込んでいたのだ。


 事実を知ったときにはすでに申請完了後。姓と名どちらにも神に関する名詞を含むリーデハルトは随分と信心深い名前になってしまった。

 本人は六柱の女神を自身の作成者としてしか認識しておらず、特にこれといった信仰は持っていない。神話もまったく興味がない。

 ギルド職員として働いているとたまに熱心な信仰者が話し掛けてくることもあるが、その時は黙って微笑んでいた。誤魔化しである。

 彼の見た目は大聖堂に飾られた女神像に似ている。そのおかげか微笑んだだけで信仰者に「神が降臨なされた」と涙を流して有り難がられるのもいつものことである。リーデハルトは見た目で得する人だった。


 そんな人でなしは現在、ダンジョンの入り口でめちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。間引きのためにやってきたレベル10「眠りの導き」前。

 元は「眠りの導き」のダンジョンボスであり宝神器であった青年だが、それは昔の話。

 現在の彼はダンジョンに対して何ら権限を持っておらず、一般的な冒険者と同じ立場でしかない。


 リーデハルトが所持者と契約しダンジョン内のバランスが変化したことで、女神は新たな宝神器を配置した。それはリーデハルトの弟分にあたる宝神器であった。

 他の意思宿る宝神器が配備されたダンジョンならば、直接宝物殿に乗り込む許可を与えたり、モンスターがいない通路を作って簡単に攻略出来るよう階層を変化させたりして取り計らってくれる。

 しかし配備された弟分はびっくりするくらい調整が下手くそだった。


 例えば、宝神器の所持者を選定するダンジョンボスは一迷宮一体が原則である。しかし微調整が壊滅的な弟分はうっかり数百体規模でボスを作成してしまい、リーデハルトに泣き付くはめになった。

 また、ダンジョン内のモンスターはダンジョン誕生と同時に自然発生してしまうが、魔力の流れを調整することで大量発生を防ぐことが出来る。

 しかし弟分はその調節が極めて不得手過ぎて、数年に一度誰かが間引きしないといけないくらい溢れさせてしまっていた。

 しかも溢れさせたどのモンスターも超高レベルのため、倒せるのは災害級Sランクの中でも限られてくる。


 リーデハルトは身内至上主義なので弟分自身のことは好きなのだが、「眠りの導き」に限って言えば当人に苦言を呈するくらい忌避している。

 以前もうめちゃくちゃ嫌すぎて他の兄弟に押し付けようとしたら、当弟分に号泣しながら縋り付かれた。頑張るから見離さないでとわんわん泣き喚く弟分。青年は仕方なく攻略を続行しているが、やっぱり面倒くさくて嫌なので表情が崩れたまま直せない。


 ダンジョンの入り口で「嫌だなぁやだやだ帰りたい」と青年はぶつぶつ呟いている。他に人が居れば不審な目で見られること請け合いだが、残念ながら彼以外には誰もいなかった。

 ダンジョンのレベルは難易度が上がるごとに高くなるのだが、別にレベルごとに探索者を制限している訳ではない。

 究極を言えばずぶの素人がレベル10に挑んだって問題はないのだ。すべては自己責任故に。

 流石にギルド職員が勧めた場合は何らかのペナルティを負うことになるが、当人が自主的に赴いた場合には当人の責任でしかなかった。

 そのため一攫千金を狙った冒険者がいても良さそうなのだが、そうそう自殺志願者がいるはずもなく。


 レベル10「眠りの導き」はSランク【良心】にしか攻略出来ないダンジョンである。


 まことしやかに囁かれた噂のためか、余計に人が集まらなくなったダンジョン。普段はリーデハルトに張り合っているレオンやアフトクラトル辺りが攻略してくれそうなものだが、二人共別のダンジョンで修行中だった。


 他に押し付けられる相手がいないせいで、リーデハルトは嫌々ながらも世のため人のためダンジョン攻略に繰り出した。

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