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信徒は拗らせています

 リーデハルトはアフトクラトルの熱量を右から左へ受け流しながらコーヒーを飲んでいた。流石はギルド長専用のコーヒーというべきか、薫り高く味わい深いそれを無言でおかわりしつつ二杯目を飲み干していく。

 ギルド長がじと目を向けていたが知ったことではなかった。上司を敬わない一職員とはこれいかに。


「聞いているのかリーデハルト=グラジオラス!」

 長い長い持論語りが満足したのか、やっと話終えたらしいアフトクラトル。余談であるが彼は毎回リーデハルトをフルネームで呼ぶ。崇拝を大分拗らせていた。


 リーデハルトはにっこり笑うとカップを机に置いて徐に立ち上がる。そしてアフトクラトルへ近付くとその頭を撫で出した。途中から聞き流していたので話を聞いておらず、とりあえず誤魔化しにかかったのだ。

 しばらく呆然としていたがはっと正気付いたアフトクラトルは慌てて青年の手を払い除け、距離を取った。撫でられ崩れた髪をそのままに、鋭い眼差しに怒りを浮かべ睨み付けてくる。

「何もわかっていない、貴様は、何も……!」


 アフトクラトル曰く神は唯一でなければならず、強者は孤高でなければならないらしい。自分を六柱に別けたという神話を真っ向から否定する発言にリーデハルトはうんうん頷いて聞いていた。神話に興味がないからそこら辺はどうでも良いのだ。

 道理でアフトクラトルは基本拠点である塔にも滅多に立ち寄らない訳だ。彼は己が強者であると認識し、孤高でなければいけないという持論の元行動していた。その持論を尊敬するリーデハルトにも実行してほしかったのだ。崇拝する存在に自らの考えが正しいのだと肯定して貰いたいがために。

 実際には行動こそされなかったが主張は肯定してもらえたため、彼は複雑な心境を持て余しているようだった。面倒な男である。


 遊びたい心境を我慢して聞いていたリーデハルトはもうそろそろいいかなまだかなとそわそわしていた。からかい倒そうと思っていたらどこかへ行っていたアフトクラトルが今、目の前にいるのだ。持論に酔うアフトクラトルも楽しそうで見ているだけで満足できるのだが、それはそれとしてリーデハルトは遊びたい。完全に御猫様を相手にする飼い主の気分だ。

 しかし敏感な御猫様はすぐにそういった気配を察知してしまうのだろうか。リーデハルトへ向き直ると突然大声を張り上げた。


「もういい、もはや貴様は神とは程遠い! 二度と貴様を我が神などと思うものか!」

 そう言い放ち男は姿を消した。それを言うのは今回で1285回目である。会う度毎回言っている気がする。

 最初からリーデハルトは神ではないのだが、自分の理想に盲目になっている男にとって彼は神成るものとして認識が固定されているようだ。リーデハルトを尊敬し崇拝し理想化し、思い通りにならないと失望し恨み憎むアフトクラトル。忙しい男である。


 遊びたい構いたいとにこにこ笑っていたリーデハルトは唖然としていた。アフトクラトルが帰ってしまったのだ。笑顔が一瞬で真顔に戻る。完全に予定が狂った。あなや。

 一方完全に空気と同化していたギルド長は部屋が大惨事にならずに済んだと安堵していた。ああ良かったこいつもさっさと帰ってくれねえかなと思ってリーデハルトを見ていたら足を叩かれた。骨が折れた。悶絶した。

 身悶えているギルド長を真顔で見詰めていたリーデハルト。美形の笑わない顔は凄みがあって恐ろしいのだとギルド長はこの時初めて知った。その後骨折させた当人に治癒してもらい後遺症もなく完璧に治ったのだが、しばらくは笑っていないリーデハルトを夢に見ては魘されていた。

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