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ヒロインが登場しました

 リーデハルトは意外と笑いの沸点が低い青年である。涙を浮かべひくりひくりと肩を震わせてはきゅうと喉が鳴る。完全に行動不能である。


「……なんだ、その様は」

 アフトクラトルの低い声に青年の肩がぴくりと跳ねた。昔のレオンと同じ台詞に再び笑いが込み上げる。駄目だ、やばい。何とか誤魔化さなければ。この真面目な男は物事を見たまま判断してしまう。今の状況のリーデハルトは「Bランク冒険者に脅され震える弱いギルド職員」にしか写らないだろう。それは困った。

 いやさ別にリーデハルトにとっては弱いと思われようが強いと思われようが大したことではないのだが、これ以上アフトクラトルに嫌われるのはまずい。単純に遊び相手がいなくなってしまう。

 すでに嫌われているのだがそれはそれ、かの男は高貴な御猫様みたいなものである。嫌われてからが本番だ。

 何とか笑いを抑えようとするリーデハルト。そのせいで余計に笑えてきてちょっともう無理だった。


 すがるようにギルド長へ目を向ければめちゃくちゃ嫌そうな顔をされた。彼はリーデハルトと旧い付き合いなので言いたいことがわかってしまうのだ。そして彼が聖人君子ではなくただの慇懃無礼の刹那主義であることも知っている。彼が身内至上主義者であることも、身内以外は欠片も興味がないことも知っている。


 リーデハルトはアフトクラトルが好きだ。完全に遊び相手として、からかう相手として。真面目な彼の表情を崩すことが好きだった。それは幼子が好きな相手にちょっかいを出す様に似ている。

 ちなみにレオンの場合は、追いかけない方が追いかけてくるので基本放置だ。彼は犬みたいな猫だった。構い倒すと「解釈違い!」と叫んで逃げてしまう。何故だ。


 ぱらぱらと壁の欠片が落ちるギルド内で、冒険者の誰かの声がぽつりと落ちた。

「……あれって、Sランクの」

 重なるように誰かの悲鳴染みた声が上がる。

「まさか、Sランクの【帝王】か!? なんでこんなとこいるんだよ!」

「やばい、早く逃げろ!」

 喧騒とざわめきが一気に恐怖に塗り替えられる。屈強なはずの冒険者達は我先にと出口を目指し、押し合いながら縺れるように外へ飛び出して行った。

 普段は血の気が多い職員達も悲鳴をあげ裏口へ逃げていく。中には腰が抜けたのか、その場で座り込み動けなくなっている者もいた。阿鼻叫喚の地獄絵図。驚愕と絶叫がその場を満たし、混乱は極まっていく。

 騒乱状態のギルド内で相変わらず伏せるリーデハルト。笑いすぎて机の陰で腹を撫でていた。明日は筋肉痛かもしれない。

 実際には筋肉痛という概念すら理解していないのだが、なんかそういう雰囲気を味わう青年。とことんシリアスが似合わない職員の前に、幾人かの冒険者が立ち塞がる。それはタンバやニワ等、リーデハルトを慕う者達であった。

「ハルトさんには指一本触れさせねえ!」

「ここは俺達で食い止めます! ハルト様はその隙にどうかお逃げください!」

 まるでヒロインかのような扱いにリーデハルトは感激した。うわ物語みたい。リーデハルト、お前だったのか、この作品のヒロインは。

 ちなみにその場で一番強いのはリーデハルトである。そしてその場で一番華奢であるのもリーデハルト。人は見かけによらない。

 青年は少し悩んだ。自分に会いに来ただろうアフトクラトルと、勘違いながらもリーデハルトを守るために身を挺する冒険者達。ここはお約束の「私のために争わないで」発言をすべきだろうか。うわ物語みたい。ちょっとわくわくしてきた。


 ストッパー役であるリーデハルトが混乱を納める気がないと察したギルド長は舌打ちすると、仏頂面のSランク【帝王】と笑い疲れてきたSランク【良心】を連れ、奥にあるギルド長室へ向かった。置いていかれる形となった冒険者達は着いていこうとしたが、ギルド長に一喝され大人しくその場で待つことにした。

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