絡まれました
リーデハルトは見た目華奢な好青年である。どこをどう見ても屈強な強者には見えず、筋肉質な冒険者に相対する彼は殊更柔和に見える。そんな見た目のお陰で昔は随分と柄の悪いチンピラに絡まれたりしたが、返り討ちにしていたらいつの間にかいなくなってしまった。ちょっと悲しい。
つい先日落ち込んで帰ってきたら色んな人に心配されたリーデハルト。翌日になれば気分も元に戻り何ら問題なく仕事に精を出していた。そんな彼は今、肩を震わせ顔を僅かに俯かせている。
「おいおい兄ちゃん、俺等にびびってんのか?」
「そんなんでよく職員なんて出来たな。あれだろ、ギルド長のお手付きってやつ」
「ぎゃはは、違いねえ! おい兄ちゃん、痛い目見たくなきゃ大人しく言うこと聞いてろよ」
ひくりと体全体を震わせ口許に手を当てたリーデハルト。長い睫毛の端が濡れ、瞬きが多くなる。俯いた顔は上げられずに視線は伏せられたままだった。
「はっ、帝都のギルドも大したことねえなあ。このBランク冒険者、イディオ様の前じゃ手も足も出ねえってか!」
リーデハルトは息を飲む音を漏らしてしまう。ひっと震えた喉。ぐっと丸めた体は細く痙攣していた。華奢な姿がよりいっそう儚げで、対する冒険者をさも極悪人かのように見せている。
それを冷めた目で見つめるギルド長。雰囲気からして「こいつ何やってんだ馬鹿かよ」という感情を全身から漂わせている。
それを知ってはいてもまったく反論できないリーデハルト。
彼は笑いすぎて動けなかった。声は出していないが大笑いだ。冒険者から絡まれるのはあまりにも久し振りで、加えてどこの雑魚かと思うような台詞のオンパレード。さらには元Sランク冒険者に向かって、Bランクが自分を様付けで呼んでいる。何から何まで愚かで面白すぎた。リーデハルトはツボに入った。行動不能。相手のターンだ。
「何か言ったらどうなんだよ、おい」
「黙ってちゃあわからねえだ」
言葉を発している途中で消えた冒険者。同時に響く轟音。ツボに入って声も出せずに笑うリーデハルト。何から何までカオスな空間。静まり返ったギルド内で青年が何とか視線をあげると、そこにいたのは渋面の男。
リーデハルトを憎悪しているアフトクラトルだった。
「…………」
ギルド職員に絡んでいた不埒な冒険者を蹴り飛ばし、ゆっくりと足を下ろすアフトクラトル。そのまま一言も発さずリーデハルトを見詰めていた。
一方見詰められた側はまだ笑いが収まっていない。涙が出てきた。変な声も出た。鼻水は出ていない。良かった。
「……んくっ、はぁ……ありがとう、クラトル。ごめんね」
ちょっとまだまともに話せないリーデハルトは深呼吸して、何とか呼吸を落ち着かせる。発した声は随分と震えていた。
そんな青年を、沈黙する男は感情が伺えない瞳に写していた。