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帰りたいので帰ります

 リーデハルトはだだ下がった気分をそのままに待機する二人の元へ帰ってきた。シリアスが似合わないはずの青年の、至極落ち込んだ表情は意味がわからないくらい深刻そうに見える。不思議。


 戻ってきたリーデハルトを見て、朝食の準備をしていたタンバとニワは立ち上がり駆け寄ってくる。珍しく沈んだ顔をしている青年に二人は空気を張り詰めさせた。

「おはようございます、ハルトさん。あの、大丈夫ですか?」

 タンバの気遣う問い掛けにリーデハルトは弱々しく笑った。

「ちょっとだけ大丈夫じゃないかも、ごめんね。宝神器は手に入れたから、後は帰るだけだよ」

 やる気だったのに仕事を奪ってごめんねと、苦笑する青年にタンバは首を振りながら大丈夫だと答えた。

「ハルト様、朝食が出来ていますのでどうぞ召し上がってください。フライシュ牛のシチューです」

 出来たばかりのまだ湯気が立ち上る皿を手渡され、リーデハルトはお礼を言って受け取る。ゆっくりと木のスプーンを差し入れ具材を掬い、食していく。昨日と打って変わって今度はリーデハルトがグロッキーだった。

 

 昨夜は二人が眠るのを確認してから塔へ転移したリーデハルト。彼はてっきり二人とも寝ているままだと思っていた。しかしBランク冒険者はそこまで馬鹿ではない。リーデハルトの気配が消えた感覚に目を覚まし、交互に見張りをしていたのだ。

 最初はギルド長にでも呼ばれて転移したのだろうと思っていたのだが、戻ってきた青年は真剣な顔をしていた。普段の柔和さが控えられた雰囲気に二人はただならぬものを感じ、彼が帰ってくるまで様子を伺いながら待っていたのだ。


 戻ってきたリーデハルトは弱々しげな笑みを浮かべ消沈しており、タンバは驚愕した。彼がこんなにも弱っている姿を見たことがなかったからだ。

 事情は分からないが早くギルドへ戻った方が良いだろうと結論を出した彼らは、リーデハルトを後ろに配しダンジョンの出口を目指した。途中モンスターが現れ道を塞いだが、ニワと協力して倒していく。とにかく、憔悴している様子の青年を戦わせず送り届けるために必死だった。

 おかげで普段の倍以上の実力が出ているのだが、タンバもニワも気付いていない。リーデハルトはぼんやりしながらも報告書に二人の実力を記載していく。これなら将来英雄Aランク入りも夢ではないかも知れないなあと思いながら、のんびり二人の後を着いていった。


 冒険者ギルドへ辿り着くとリーデハルトは後輩職員に宝神器を手渡した。

「忙しい所ごめんね。ちょっとギルド長と話してくるから、鑑定お願いしてもいいかな。浄化は済ませてあるから呪詛は付いていないよ」

「あ、はい。分かりました」

 いつも自分の分は自分で鑑定していたリーデハルト。それが持ち帰った宝神器の鑑定を他人に任せたのだ。きっとギルド長に何か深刻な話があるのだろうと察した後輩職員は、きりっとした表情でお任せくださいと胸を張る。

 何故かよく分からないがやる気に溢れた後輩に首を傾げながら、宜しくねと伝えたリーデハルトは同行者であった二人へ振り替える。


「二人ともありがとう。だいぶ予定が早まってしまったし、食料も無駄にしてしまってごめんね。後で報酬と一緒に補填するから、金額の申請をお願い。他に何か質問はあるかな」

「いえ、大丈夫です」

 元気よく答え左右に首を振ったニワ。タンバは一度唇を噛み締めると、リーデハルトへ勢い込んで言う。

「ハルトさん、俺達はいつでもハルトさんの味方ですから! まだ頼りないし未熟者だけど、何かあれば必ず力になりますんで!」

 隣で今度は上下に首を振るニワ。リーデハルトはそんな彼らを見てふわりと微笑んだ。

「うん、ありがとう。頼りにしているよ」

 そのまま階段を上り駆け足でギルド長室へ向かう青年に、その場にいた皆が心配そうな視線を送っていた。


 ギルド長室前へ来たリーデハルトは特にノックもせず扉を開けた。

「ギルド長、報告書あげる。クラトルは?」

「ノックをしろって何度言えばわかんだよテメェは!」

 途端怒鳴り返してきたギルド長。屈強な肉体を持つ大男に何ら動じることなく、華奢な青年は先程とは真逆の楽しそうな表情を浮かべていた。

 アフトクラトルを構い倒して遊ぼうと思っていたのだが、室内に全然姿が見えない。いつもなら冒険者ギルドにて待っているのだが、一体どこにいるのだろう。

 意気揚々と問い掛けたリーデハルトに、ギルド長は無情なる答えを告げた。

「アフトクラトルならさっきどっか行ったぞ。嫌な予感がしたんだろうな」

 お前の絡み癖は酷いからなと軽口を叩くギルド長の発言に、リーデハルトは目を見開き全身が震え出す。だんっと音を立てて壁に寄り掛かると、絞り出すように絶叫した。

「そっ、そんなぁあ!!」

 せっかく沈んだ気分をあげるためにからかい倒して遊ぼうと思っていたのに!

 嘆き悲しむ青年にギルド長は冷めた視線を向けながら、嫌そうに目を閉じて言葉を聞き流していた。

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