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ギルドへようこそ

「ゴブリンの巣及びはぐれキラービーの討伐、Cランク依頼ですね。受理いたします」


 活気に溢れ騒々しい冒険者ギルドに青年の確認する声が発せられる。特別張り上げた訳でもないのによく通るその声に、依頼した冒険者は真剣な面持ちのままギルド職員へ質問を投げ掛けた。


「この討伐に何か必要なものってないっすかね」

 問われた青年はもう一度書類に視線を落とし、依頼されている討伐場所を確認した後、顔をあげ安心させるように微笑んだ。

「特に必要なものはありませんよ。念のため毒消しポーションと、時間があれば惑わし草を準備することをお勧めします」


 惑わし草という単語に首を傾げた冒険者にギルド職員は、説明いたしましょうかと声をかける。冒険者の男は必要ないと首を振った。

「惑わし草ってあれだろ、冒険者成り立てがモンスター相手に逃げる時使うやつ。たかがゴブリンとはぐれキラービーの討伐に必要か……? いや、ハルトさんが言うなら必要なんだろうな。準備してから向かうとするよ」


 血の気が多い冒険者相手に初心者の必需品を勧めるなど侮っているのかと激怒させるようなものだが、青年の言葉に男は疑問を持ちつつも従うことに決めた。

 依頼票の片割れを袋にしまい、ギルドから出ていこうとする冒険者の男へ職員は優しげに微笑むと手を振りながら見送った。

「無事のお帰りとまたのご利用をお待ちしております」


 ギルド職員の名はリーデハルト=グラジオラス。帝都冒険者ギルド本部に勤めている。

 荒くれ者ばかりの冒険者が集う帝都冒険者ギルドは最大手のギルドであり、冒険者憧れの地として名を馳せる。

 そのせいか多くの厄介事や騒動が起こり、時としてギルド職員が鎮圧に駆り出されるため、職員も血の気が多い者が集まっている。


 その中でリーデハルトは数少ないストッパー役であった。柔和で優しげな笑顔は職員達の癒しであり、落ち着いた声は冒険者の荒くれだった心に安らぎを与える。

 元冒険者である彼は騒動が起きた際の鎮圧役としても優秀で、経験からの的確なアドバイスは数多くの冒険者の帰還率を上昇させた。

 彼に助言をしてもらえば生きて帰れると噂になり、リーデハルトが受付を担当する日には長蛇の列が出来上がる。ついた渾名は「救命のハルト」


 ギルド職員になってまで二つ名は欲しくないとギルド長に進言したこともあるが、冒険者達が勝手に言い始めたことが発端のため訂正が追い付かず諦めた。

 せめてもの抵抗として「ハルトのお兄さん」と呼んでほしいと伝えた所、あのハルトさんと呼ばれることが増え、「救命の」よりはまだ耐えられると現状そのままにしている。


「ハルト先輩! こっちの鑑定お願いします!」

 後輩の職員に呼ばれたリーデハルトは席を立つとぐっと背筋を伸ばし、裏にある鑑定室へ向かった。

 本来なら受付と鑑定の職員は別担当なのだが、元冒険者である彼は鑑定職員に必須の鑑定スキルを取得しており、たまに判定しにくい物品が持ち込まれるとこうして駆り出されている。


 入所した当時はスキルを活かし鑑定職員として働いていた。しかし大量の物品を一目見ただけで判定し、なおかつ迷宮から発掘され、現代の文明では追い付かない神の遺物と称される「宝神器」すら鑑定出来るのは、彼と残り二人の職員だけである。

 徐々に指名される事が増え仕事量が多くなり始めたリーデハルトは「他の職員の仕事を奪いかねない」とギルド長から、担当を鑑定から受付へ強制変更された。


 受付担当になってからも最初の内は問題なかった。だが噂のせいで現在、他の受付担当へ並ばずリーデハルトに受付してもらいたいという者が増えすぎてしまった。

 その為今ではもっぱら書類仕事と職員の相談役、そして対応できない物事が発生した際の解決役として働いている。


 今回リーデハルトに鑑定の依頼が回ってきたと言うことは、持ち込まれた品が相当面倒なものであると確定している証拠。

 いつもの柔和で優しげな笑顔を浮かべたリーデハルトは、後輩の背を追いかけ机に並べられた遺物に目を通し始めた。

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