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リミアの幼い恋の涙

「どっ!どうしたのさ!リミア!」

 子供部屋に入った途端にまるで瞳が落ちてしまうのではないかと思うほど大量の涙を流すリミアに驚きジーンは慌てた。


「うっうっ…ジーン…さっきのお父様とお母様が言ってたお話…えぐっ…兄様…名目上って…」

 リミアはこの世の終わりのような顔をして泣きくずれた。


「ああ…その話…うん、それは、仕方ないよ。ふつう0歳の赤ん坊と婚約なんて…リミアを王家に取られないようにって事だった訳だし…」


「う、うわぁ~ん…えぐっっ…兄様、好きなっ人っ…出来たら…婚約っ破棄っ…されちゃうのかなぁ…うううっ」


「リミアは本当にティムン兄様が好きなんだなぁ」

 ジーンは泣きじゃくる双子の姉、リミアの頭をよしよしと撫でながら、そっとハグする。


「好きよっ!決まってるじゃないっっ!兄様以上の人なんてっ見たことないものっっ!」

 えぐあぐと、嗚咽をもらす姉に眉をへにょりとさせてオロオロするジーンは、かける言葉がなかった。


 だって、そりゃそうだろう?

 いくらティムン兄様が自分やリミアの事を大事にしてくれていてもやはりそれは、甥っ子姪っ子だからだろう。

 生まれた時からとても優しくしてくれるのも身内意識だと思う。

 むしろ今十八の兄様が六歳のリミアの事を女として見てたりしたら、そっちの方が怖いし嫌だ!

 そうだったら、僕が兄様を排除しなければと、ジーンは思ってしまう。


 だが、しかしジーンの望みはとにかく姉リミアの幸せである。

 何か慰める良い方法はないかと考える。

 それはもう真剣に考える。


 この婚約は、父様や母様そして兄様で、血族の姫であるリミアを政略結婚という枠から逃してあげる為に考えたもの。つまり家族愛だ!

 そういう家族愛という意味でならティムン兄様はリミアの事愛してると思う。

 僕…の事もだけど…。


 うん、ティムン兄様は、男の…前世十六歳だった時の記憶がある僕から見てもいい男だ。

 正直、兄様だったら大人になったリミアを託してもいいと思えるくらいに良い人でいい男だと認めている。


 だけど現段階(リミア六歳)でティムン兄様がリミアに懸想していたら相当怖いぞ!と思ってしまう。


 適当な事を言って、年頃の兄様に恋人でも出来たらそれこそ、もっと傷つけかねないので安易な慰めは浅慮だろう。

 リミアの記憶はまっさらな筈なのに、何でもう恋する乙女なんだろう?

 おませさんにも程があるだろうとため息をつく。


 前世、十六年分の記憶をもってしても、こんな悩みは男のジーンには難解だった。


「リ…リミア、とにかく、兄様に恋人が出来た訳でも何でもないんだし」

 ジーンはとにかくリミアに声をかけた。


「分かってるわ!今の私が兄様にとっては可愛い姪っこでしかない事くらいっ!でも、許嫁ですもの私が十五歳になったらって思っていたのにっ!この婚約が単なる名目上でいつでも解消できるものだったなんてっっ!」


「そ…それもリミアの為じゃない?」


「私の為だというなら名目上なんかじゃなく、きっちり婚約を魔法契約にでもかけてほしかったわ!」


「そんな事したら、お互い死ぬまで離れられないよ?」


「望むところよっ!」


「リミア…そんなに」


「そんなによっっ!兄様以外なんて考えられないのにっ!もう留学どころじゃないわ!うわぁ~ん!」とまた更に泣き出した。

 ジーンはリミアのあまりにも凄い泣きっぷりと涙の量に、もう体中の水分が抜けて干からびちゃうんじゃないかと本気で心配になる。

 良い慰めの言葉も見つからず本気で悩んでいると、キラキラと淡い光と共にリンとシンが現れた。


 ジーンは、(おおお!救世主かっ!)と心の中で叫んだ。


「泣きすぎです。リミアさま、後で頭が痛くなりますよ」淡々とシンが言った。

「そうです。それにティムン殿はリミア様との婚約を一方的に解消したりはしないと思いますよ」とリンが言った。


「ぶぇ?…ほ、ほんとに?」

 あ、泣き止んだ?すごいリン!と思わずジーンは思った。


「ええ」


「適当な事言わないで」リミアはまた、じわりと瞳をうるませた。


「適当な事など言いませんよ。()()()()()()()()()」と、呆れた様にリンが答える。


 なるほど、そう言われればそうかもと、リミアの涙は完璧に引っ込んだ。

 精霊のリンが適当な事を主の娘の自分に言う筈も無いと納得した。

 そしてリミアは念を押すようにリンに確かめる。


「どうして、そう思うの?」


「ティムン殿が今一番大事に思っているのはリミア様とジーン様だからです。少しでもリミア様が悲しむかもしれないような事は望んでする筈もないからですわ」


「でも、兄様に好きな女性が出来たら…」


「今のところティムン殿はリミア様の方から婚約破棄をしてこない限りは自分から破棄するおつもりはないですね。自分以上の誰かをリミア様自身が望まない限りはご自分が守らなければと、()()()()()()リミア様ジーン様が生まれた時からずっと精進してこられましたしね」


「「えっ?」」


「「それって」」」


 二人にとっては、驚きの新事実である。

 あの兄様の日々の努力も栄誉も全ては()()()()()()()()のものだったというのだから!


「そうですわね、取りあえずリミア様次第…といったとこでしょうか?」

 リミアの涙は完璧に引っ込んだ。


 ティムン兄様の愛情は女性に対するそれではないものの、今の『一番』は、自分達双子であり、しかも婚約に関してはリミアから言わない限りは破棄するつもりもないというのだ。


「リミア様、ティムン殿を心から慕い手に入れたいのなら誰からも望まれるほどの淑女となれるよう精進なさいませ。少なくとも今現段階でティムン殿は、そこらのご令嬢に興味もない様子です。むしろリミア様のご成長を温かく兄のように親のように見守るおつもりのようですし」


「それって、私にもチャンスがあるって事?」


「まぁ、そこらの化粧を塗りたくった姫君方よりは随分、有力な候補ではないかと…」


「私!がんばるわっっ!留学して、いっぱい勉強して立派な淑女になるわっ!」


「「そうなさいませ」」リンとシンは淡々とそう言うと腕輪に嵌められた月の石へと戻っていた。

 おおおおお!とジーンはリンの手腕に心の中で拍手した。

 あくまでも可能性はあると匂わせただけだが、リミアは泣き止み、前向きになった。


 何とか無事に留学は出来そうだとジーンは胸をなでおろしたのだった。


 そしてリミア自身も改めて思った。

 今のままでは駄目なのだと。

 ただただ可愛い姪っこなのだと!

 今はそれに甘えるしかないが、いつか覆して見せる!

 その為の努力は惜しまない!


 女性として認めてもらえるような、愛を捧げてもらえるような女性に急いでならなければと決意したのだった。

 学園の休みごとにティムンの元へ訪れ、成長した自分を見てもらうのだと!

 そう新たな決意を心に宿し、リミアは一旦、この幼くも一途な恋心を胸にしまいなおしたのだった。

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