*86 お菓子作りと様子伺い
というか、日下部さん。おつき合いのある女性ユーザーさん全てに書いているとか?
・・・ということは私にも書いてくれているとかね。
・・・イヤイヤ、ナイナイ。だって、知り合って間もないもの。そんな、まさかね。
・・・でも、少し期待しちゃおっかな~。
あっ、でも、私も日下部さんに宛てて書いているからお互いさまになるのかな~。えーと、日下部さんに宛てたのは12日に予約してあるのよね。私宛てがあるかは、最終日まで待ちますか。
私はなろうを閉じると、ついでにパソコンもスリープにした。
さあ、アップルパイの続きをやるぞー!
パイ生地は冷凍のものを使うのよ。キャンにプレゼントをする分とうちの分。・・・あっ、明日は役員会だった。その差し入れは・・・。
よし、アップルパイが焼き上がったらパウンドケーキを焼くことにしよう。確か友利さんがオレンジのパウンドケーキを食べたいって言っていたよね。
・・・オレンジは家にない。買いに行くのは・・・雨が降っているから買いに行くのはやめよう。
だから、ごめん、今回はココア味とリンゴ入りの二つにするよ。
そんなこんなで、お菓子を作りあげてキャンの所においてきた。うち用のアップルパイと差し入れ用のパウンドケーキも作って、またパソコンの前に座った。
ウ~ム、どうしよう。
しばらく何もせずに画面と睨めっこを続けた。そうしたらまた携帯が鳴った。珪からだ。
「はい。どうしたの、珪」
『よお。体調はどうだ』
「うん、いいよ。あっ、昨日はありがとう」
『いやいや。こちらこそ、夕飯をご馳走になってしまって』
「うちのも喜んでいたからいいんじゃないの」
『邪魔じゃなかったのならいいさ』
「ところでさ、昨日はネタをありがとう」
『何だ、気がついていたのか』
「気がつかないわけがないでしょう。あれって漫画で見たけど萌えシチュでしょ」
『萌えシチュだったのなら、もう少しかわいい反応しろよ』
「するわけないでしょ、今更。というかさ、今は煮詰まってないもの」
『参考にして新しい話を書く気にならなかったのか』
「なるわけないでしょ。いったい私に何を期待してたのさ」
『期待って・・・舞が言ったんだろ。毎日短編投稿するって』
「言ってないわよ。それはリエの提案であって、私はするとは言ってないじゃん」
『せっかくの萌えシチュなのに?』
私は溜め息を吐き出した。
「あのさ、それをするならセリアちゃんの続きを書くよ」
『書けるのか?』
・・・珪。人が目を逸らしていることをズバリ言うなー!
「書く・・・よ。ただ、しばらくボケてたから読み直ししなきゃならないけどね」
『そんなに難しい所だったのか?』
「・・・確かさ止まったところも、話の持って行き方に迷ってはいたんだよね。大体さー、7歳の子供が大人相手に、策謀なんて出来ないでしょう。それにあの話の中の世界が、セリアちゃんにとってはどこまでゲームに影響されるのか分からないわけだし」
『・・・あれって、ゲームの世界なんだ』
「あっ。ちょっと待て。誘導するなや。それを教えたら楽しくないでしょ」
『ほかのやつが知らないことを知っているのは優越感がある』
・・・なんか会話が流されている気がする。
「と、いうかさ、なんか用」
『おー、忘れる所だった。お前さ、キャンに何かした? ウザいメールが来たんだけど』
「・・・ちなみにどんな?」
『舞から手作りお菓子を貰ったってやつ』
自慢したのか、キャン。
「なんて返したの? まさか昨日うちでご飯を食べたことを言ったんじゃないでしょうね」
『言ってないけど知っていたぞ。俺の車が止まっていたのを見たんじゃないのか』
「・・・ねえ、キャンにストーカーって言ってきてもいい?」
『やめてやれ。泣くぞ、あいつ。結局は舞のことを心配しての行動だろうからな』
私は溜め息を吐き出した。
「分かっているけどさ~。確か2階の窓からうちが見えたのよね。気になるからってチェックするなよ~」
『まあ~、判ってやれよ。舞のことを案じていたんだからさ』
「分かってはいるのよ。分かっているけどさ~、なんかね」
私がまた溜め息を吐き出したら、電話の向こうで珪が笑い出した。
『お前も難儀な奴だな』
「言うなや」
『まあ、気が向いたら甘い恋愛物をよろしくな』
「え~、書ける気がしない」
『そこは頑張れ』
「苦手なの知っているくせに」
『じゃあドラマでも見て研究したらどうだ』
「ドラマは好きじゃない」
『ん? ・・・ああ、現実は苦手だったか』
「コメディーなら見るけどさ、ガチな恋愛はねえ~。かといって学生ものはそろそろ無理だし。というより、私の萌えは現実にはない!」
『・・・本当にお前は~。この二次元オタク』
「失礼なこと言わないでくれる。オタクの人に悪いじゃん」
『・・・そっちかよ』
「そっちだよ」
『期待してるから頑張ってみろよ、な。じゃあ、またな』
電話を終えて溜め息を吐いた。話しの内容を反芻して、結局はキャンのメールをだしに私の様子伺いだったことに気がついたのよ。




